6 お風呂
アトミスが使ってもいいと言ってくれたボディタオルに香りのいいボディソープをつけて洗うと、しっとりとした洗い上がりに、花のいい香りがする。高級なシャンプーもトリートメントも久しぶりだ。ばさばさになっていた髪が久しぶりにしっとりとする。
湯船はピンク色に染まり薔薇の香りがする。
「アトミスさんはこんな魔物との戦場でも、きちんと貴族のお嬢様のままでいるのね。すごいわ」
ゆっくりお風呂に入った後は、自分が最後なので風呂場の掃除をする。
お湯を流して、シャワーで流していく。
リリーは自分にできる範囲で、アトミスさんに礼を尽くす。
タオルで体を拭い、ストンと被るだけのパジャマを着ると、部屋に戻った。
もうほとんどなくなった化粧品のクリームを顔に塗る。
「アトミスお姉様、化粧品は買えますか?」
「支給品にあったかしら?」
「下着も欲しいのですが」
「どうだったかしら?」
「お姉様はご実家から送っていただいているんですね?」
「ええ、そうよ」
リリーはベッドの上に上がると膝を抱えた。
「国境を渡る前に用意しなければいけなかったわ。お給料はいついただけるのですか?」
「1ヶ月後かしら」
「・・・・・・1ヶ月無一文で過ごすのですか?なんの準備もないのは辛いわ。事務所で聞いてこようかしら」
「リリー、ワンピースを見たわ。苦労してここまでやって来たのでしょ。質のいいワンピースにひどいシミができていたわ。紺色のワンピースも同様ね。洗剤もいい物を使うことができないほど、生活は苦しかったのでしょう。どうかしら?私のお下がりを着るのは嫌かしら?着られなくなった洋服は、まだ取ってあるはずよ。それを着ませんか?」
「いいんですか?」
「お化粧品も揃えてあげます。そうね、お給料がもらえたら支払ったらいいわ。下着も同じ。どうかしら?」
「お願いできますか?」
「リリー、さあ、パジャマを脱いで、サイズを測るわ」
「アトミスお姉様、恥ずかしいです」
被るだけのパジャマは引っ張られたら、脱げてしまう。
裸になると、アトミスはメジャーでリリーを測った。
「ん~、ん~、お姉様、くすぐったいわ」
「まだまだ可愛らしいわ」
「アトミスお姉様と4つも離れているんですもの」
「かかっているドレスは、恋人に合うために持ってきたの?」
「はい。持っている物の中で、一番いい物を持ってきました」
「カバーから出した方がいいわよ。虫が湧くのよ」
「大変です」
リリーは裸のままで、ドレスのカバーを外した。
白い繊細なドレスが出てきて、アトミスが近づいてきた。
「着て見せて下さいな」
「・・・・・・ええ」
リリーはドレスに袖を通した。
「美しいドレスね。これほど繊細なレースを使ったドレスを、私も着たことがないわ。このドレスを拝見しただけで、リリーのご実家が位の高い伯爵家だとわかるわ。そんなお嬢様なのに思い切ったことをされたわね」
「師匠に会いたかったからですわ」
「その願いが叶うといいわね」
「はい、早くお目にかかりたいですわ」
リリーはドレスを脱ぎハンガーにかけて、パジャマを着直した。ドレスカバーを畳んで旅行鞄に入れると、クローゼットの中がすっきりした。
「そうそう、お家に手紙を書きなさいね」
「はい、今から書きますわ」
リリーは小ぶりな机で家族に手紙を書いた。
素直に言うことを聞くリリーを見ていると、アトミスは微笑ましくなる。
アトミスはリリーが可愛かった。
読んでくださりありがとうございます。
オマケです。




