表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢になるのも面倒なので冒険に出かけます(仮)  作者: 綾月百花
2   冒険に出ます
14/121

3   家出

 

「大変でございます。奥様。お嬢様が家出をなさってしまいました」

 モリーが部屋に入ると、窓が開き、机に二通の手紙が行かれていた。

 一通は退学届と描かれていた。

 もう一通は「皆様へ」と描かれていた。

 封はしていなかったので、開けてみると、


 冒険に出かけます。探さないでください。 リリー


 便箋の真ん中に簡単な文字が並んでいた。


「冒険って、あの子、どんな特技があったのかしら?」

 メリーが急いで応接室に駆け込んできた。

「お嬢様は、国王様から戴いたドレスと、お気に入りのワンピースを3着持って行かれたようです。旅行鞄がなくなっております」

「3着ないと言うことは、2着を持って1着は着ていったんだね」

 ハスタが細かくチェックする。

「そうですね。紺色のストールもなくなっております。引き出しに仕舞われていたお小遣いがすべて消えております」

「奥様、申し訳ございません。午前中にお嬢様がバケットを欲しいとおっしゃって、焼きたてのバケットを5本持って行かれました」

 シェフが深く頭を下げている。

「お友達とハイキングに行くと言っておりました」

「それは嘘だな」

 ハスタがぽつりと口にする。

「アルと婚約破棄してから、リリーはやりたいことがあると言っていた。学園も辞めると言っていたから。父上に怒られるような事をするなと忠告をしておいたが、まさか家出か」

「ああ、お父様に、なんと言っていいのかしら。リリーはどこに出かけたのかしら?」

 来客を知らせるベルが鳴り執事が対応している。

「奥様、隣国の国王陛下から使者が参っております」

「隣国?何でしょう。こんな時に」

「母上、落ち着いてください。奥の応接室にお通ししてください」

「畏まりました」

 執事が部屋を出て行く

 ハスタは母を連れて、もう一つの応接室に向かう。

「お父様にお知らせしないと」

「わたくしが、王宮に向かいます」

 使用人が声を上げて、「頼みます」と声をかけた母は今にも倒れそうだ。



 隣国の国王陛下の使者と名乗る客がいる部屋に入ると、使者は礼儀正しく立ち上がり、深く頭を下げた。

「わたくしは、アストラべー王国の国王陛下の側近、名をソリダリテと申します。まずはお手紙を預かっております」

「どうぞ、おかけください」

 母は少し冷静になってきたのか、側近だという使者に椅子を勧めた。


「・・・リリー・ホワイト・アコラサード伯爵令嬢に我が息子、ビエント・アネモス・アストラべーの婚約者になっていただきたい・・・」


「婚約の申し込みでしょうか?」

「はい、そうでございます。我が第一王子の歳は18歳でございます。リリーお嬢様は13歳と聞いております」

「あら、いい年齢ですわね」

「王子は何度もリリーお嬢様とお会いになっているとか。先日のデートを終えた後、国王陛下に婚約をしたいと申しまして、こうして正式に申し込みに参りました」

「あら、どういたしましょう」

「母上、少し落ち着いてください」

 ハスタはあたふたしている母をまず落ち着かせる。

「私は兄のハスタでございます。今、父が王宮におりまして、使いの者に呼びに行かせているところです。しばらくお待ちください」

「畏まりました」

 ハスタは母を連れて、使者の前から一端出て行った。

 父のスパーダが帰宅して、「どういうことか」と声を上げたとき、母はその口を両手で塞いだ。

「お父様落ち着いてください。まずはこちらへ」

 ハスタに連れられ、普段皆で使っている応接室に向かうと、モリーとメリーが手紙を見ていた。

「お帰りなさいませ」

 モリーとメリーは一礼して後ろに下がる。

「リリーの置き手紙です」

 父はリリーの手紙を見て、額に青筋を浮かべた。

「冒険とは何だ?ハスタ」

「私にも何も言っておりません。やりたいことがあるとは聞いておりましたが」

「父上、家出をしたリリーに隣国の国王陛下から王子との婚約の申し込みが来ております。別室でお待ちしてもらっております」

「なんだと!」

「王子とリリーは知り合いだったらしく、何度も会っていたらしい」

「ハスタは何も聞いていないのか?」

「はい。アルとの婚約破棄以来、リリーは口数が少なく、一人でいることが多くなっておりました」

「客人を待たせる訳にはいかぬだろう」

 父は汗をハンカチで拭い、立ち上がった。

「シルト行くぞ」

「母上、しっかりなさってください」

 ハスタは今にも失神しそうな母の腕を取り、歩いて行く。

「いついなくなったのだ?」

「午前中らしいです」

 母に代わりハスタが答えた。



 父は自己紹介をした後、使者の前に座った。

「娘とはいつどこで出会ったのでしょう?」

「王子は詳しくは話しておりませんが、心優しく、頑張り屋な性格、美しい容姿に虜になったと国王陛下に話しておりました」

「娘のことをよく知っているようで、ありがたい縁談です」

「それではお受け戴けますか?」

「はい。只今、娘は親戚の家に出かけておりますので、帰宅したら伝えます。どうぞよろしくお願いいたします」

 父は使者に頭を下げて、母とハスタも頭を下げた。

「それでは、良い縁でありますように」

 使者は立ち上がると、深く頭を下げた。



 使者が帰った後、スパーダは使用人を集めて、リリーの捜索をするように命令した。

「大きな鞄を持って歩くには時間がかかる」

「しかし、馬車を使ったら、遠くまで出かけていると思います」

 ハスタの言葉に、スパーダは頭を抱える。

「馬を操れる者はいるか?」

 3人ほど手が上がり、その3人は馬で遠くの町や村まで出かけるようにと指示を出す。

「とにかく探し出してくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ