3 家出
「大変でございます。奥様。お嬢様が家出をなさってしまいました」
モリーが部屋に入ると、窓が開き、机に二通の手紙が行かれていた。
一通は退学届と描かれていた。
もう一通は「皆様へ」と描かれていた。
封はしていなかったので、開けてみると、
冒険に出かけます。探さないでください。 リリー
便箋の真ん中に簡単な文字が並んでいた。
「冒険って、あの子、どんな特技があったのかしら?」
メリーが急いで応接室に駆け込んできた。
「お嬢様は、国王様から戴いたドレスと、お気に入りのワンピースを3着持って行かれたようです。旅行鞄がなくなっております」
「3着ないと言うことは、2着を持って1着は着ていったんだね」
ハスタが細かくチェックする。
「そうですね。紺色のストールもなくなっております。引き出しに仕舞われていたお小遣いがすべて消えております」
「奥様、申し訳ございません。午前中にお嬢様がバケットを欲しいとおっしゃって、焼きたてのバケットを5本持って行かれました」
シェフが深く頭を下げている。
「お友達とハイキングに行くと言っておりました」
「それは嘘だな」
ハスタがぽつりと口にする。
「アルと婚約破棄してから、リリーはやりたいことがあると言っていた。学園も辞めると言っていたから。父上に怒られるような事をするなと忠告をしておいたが、まさか家出か」
「ああ、お父様に、なんと言っていいのかしら。リリーはどこに出かけたのかしら?」
来客を知らせるベルが鳴り執事が対応している。
「奥様、隣国の国王陛下から使者が参っております」
「隣国?何でしょう。こんな時に」
「母上、落ち着いてください。奥の応接室にお通ししてください」
「畏まりました」
執事が部屋を出て行く
ハスタは母を連れて、もう一つの応接室に向かう。
「お父様にお知らせしないと」
「わたくしが、王宮に向かいます」
使用人が声を上げて、「頼みます」と声をかけた母は今にも倒れそうだ。
隣国の国王陛下の使者と名乗る客がいる部屋に入ると、使者は礼儀正しく立ち上がり、深く頭を下げた。
「わたくしは、アストラべー王国の国王陛下の側近、名をソリダリテと申します。まずはお手紙を預かっております」
「どうぞ、おかけください」
母は少し冷静になってきたのか、側近だという使者に椅子を勧めた。
「・・・リリー・ホワイト・アコラサード伯爵令嬢に我が息子、ビエント・アネモス・アストラべーの婚約者になっていただきたい・・・」
「婚約の申し込みでしょうか?」
「はい、そうでございます。我が第一王子の歳は18歳でございます。リリーお嬢様は13歳と聞いております」
「あら、いい年齢ですわね」
「王子は何度もリリーお嬢様とお会いになっているとか。先日のデートを終えた後、国王陛下に婚約をしたいと申しまして、こうして正式に申し込みに参りました」
「あら、どういたしましょう」
「母上、少し落ち着いてください」
ハスタはあたふたしている母をまず落ち着かせる。
「私は兄のハスタでございます。今、父が王宮におりまして、使いの者に呼びに行かせているところです。しばらくお待ちください」
「畏まりました」
ハスタは母を連れて、使者の前から一端出て行った。
父のスパーダが帰宅して、「どういうことか」と声を上げたとき、母はその口を両手で塞いだ。
「お父様落ち着いてください。まずはこちらへ」
ハスタに連れられ、普段皆で使っている応接室に向かうと、モリーとメリーが手紙を見ていた。
「お帰りなさいませ」
モリーとメリーは一礼して後ろに下がる。
「リリーの置き手紙です」
父はリリーの手紙を見て、額に青筋を浮かべた。
「冒険とは何だ?ハスタ」
「私にも何も言っておりません。やりたいことがあるとは聞いておりましたが」
「父上、家出をしたリリーに隣国の国王陛下から王子との婚約の申し込みが来ております。別室でお待ちしてもらっております」
「なんだと!」
「王子とリリーは知り合いだったらしく、何度も会っていたらしい」
「ハスタは何も聞いていないのか?」
「はい。アルとの婚約破棄以来、リリーは口数が少なく、一人でいることが多くなっておりました」
「客人を待たせる訳にはいかぬだろう」
父は汗をハンカチで拭い、立ち上がった。
「シルト行くぞ」
「母上、しっかりなさってください」
ハスタは今にも失神しそうな母の腕を取り、歩いて行く。
「いついなくなったのだ?」
「午前中らしいです」
母に代わりハスタが答えた。
父は自己紹介をした後、使者の前に座った。
「娘とはいつどこで出会ったのでしょう?」
「王子は詳しくは話しておりませんが、心優しく、頑張り屋な性格、美しい容姿に虜になったと国王陛下に話しておりました」
「娘のことをよく知っているようで、ありがたい縁談です」
「それではお受け戴けますか?」
「はい。只今、娘は親戚の家に出かけておりますので、帰宅したら伝えます。どうぞよろしくお願いいたします」
父は使者に頭を下げて、母とハスタも頭を下げた。
「それでは、良い縁でありますように」
使者は立ち上がると、深く頭を下げた。
使者が帰った後、スパーダは使用人を集めて、リリーの捜索をするように命令した。
「大きな鞄を持って歩くには時間がかかる」
「しかし、馬車を使ったら、遠くまで出かけていると思います」
ハスタの言葉に、スパーダは頭を抱える。
「馬を操れる者はいるか?」
3人ほど手が上がり、その3人は馬で遠くの町や村まで出かけるようにと指示を出す。
「とにかく探し出してくれ」




