表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/121

12   結婚式(2)


 アトミスの結婚式とは違った立派で格式のある教会で、リリーは父の腕に腕を絡め歩いていく。長いドレスの裾はまだ入り口に残っている。ビエントが、リリーが来るのを待っている。赤い絨毯が、リリーのドレスで白く変わっていく。アトミスが手を振ってくれた。緊張で強ばっていた顔に、笑顔が戻った。アトミスは旦那様と結婚式に来てくれた。アトミスの結婚式も無事に終えたのだから大丈夫だ。ビエント様も大丈夫だと言っていた。


「そうだ、リリー、せっかくの結婚式だ。笑顔でいなさい」


 父が耳元で囁いた。

 リリーは頷いた。

 幸せになるための結婚式だ。この白いドレスを汚す者はいない。

 真ん中まで歩き、父の手からビエントの手へと移る。


「娘を頼む」

「はい」


 ビエントはしっかり返事をすると神父の待つ祭壇へと歩いて行く。ゆっくりと一歩ずつ。


「リリー何も怖くはないだろう?」

「はい」


 リリーは、ビエントを見つめて微笑んだ。ビエントも微笑み返してくれる。やっと神父の前まで到着したとき、



バン!と大きな音で扉が開かれた。



リリーの白いドレスの上を誰かが走ってくる。体が後ろに引っ張られていく。リリーは振り向いた。王妃様が真っ赤なドレスを着て、刀を振り上げて走ってくる。

リリーは斬られると思い屈み込んだ。


「ロッチャーウイング」


 ビエントの声と国王の声がした。ビエントの側近二人と国王の側近二人も同じ魔術を発動させた。

 王妃は遮るような風に吹き飛ばされて、背後に転んだ。リリーもドレスを引っ張られ、バランスを崩して転ぶ・・・・・・。

 ・・・・・・転ぶと思ったとき、ビエントに支えられて、転ばずにすんだ。


「捕らえよ」

 国王が命令した。


 騎士達が真っ赤なドレスを着た王妃を取り囲む。


「ビエントだけが幸せになるのが許せない。王国の王妃は金髪でなくてはならない」

「それ以上騒がせるな。捕らえて牢屋にでも入れておけ」


 国王陛下が命令した。

 白いウエディングドレスの裾は大勢の足跡で汚れていた。

 汚れた結婚式になってしまった。

 涙が流れていく。

 父が出てきて、ウエディングドレスの裾を外した。馬車にも乗れる身軽なドレスに変わった。ドレスの裾は騎士達が素早く片付けてくれた。


「もう邪魔は入らない」

「・・・・・・でも」

「そのドレスも素敵だ」


 ビエントはリリーの濡れた頬の涙を、ハンカチで押さえて拭うと、微笑んでリリーの手を強く握った。

「・・・・・・はい」


 何事もなかったように結婚式が進んでいく。

 誓いの言葉に、誓いの口づけも、誰にも邪魔されずに進んでいった。

 皆の拍手に、リリーは今、無事に結婚式を終えることができたのだと思えた。



「邪魔は入ったが、いい結婚式だった」と父が言った。


「さあ、馬車に乗って行ってらっしゃい」と母が言った。

「絶対に忘れない結婚式になったな」と兄が言った。

「騒がせてすまなかった」と国王陛下が謝った。

「さあ、ビエント、国民に白銀の英雄を披露してきなさい」

「はい、では行ってきます」


 ビエントは、リリーの手を掴みながら、馬車に乗った。付き人がドレスの裾を綺麗にしてくれる。扉が閉められて、馬車はゆっくり走り出した。

 沿道には国民が旗を振って見送ってくれる。


「リリー、笑顔で手を振るんだ。初めの公務だよ」

「はい」


 リリーは笑顔を浮かべて手を振った。アハト達も見に来てくれていた。

 唇の動きだけで「ありがとう」と伝える。伝わったのか、アハト達が喜んでいる。

 馬車がゆっくりと王都を回ると、宮殿に戻って来た。

 扉を開けられ、ビエントに手を引かれながら、馬車から降りた。


「騒がせてすまなかった。もう、こんなことは起きないはずだ」

「本当に?」

「いきなり実家に帰ると言わないでくれよ」

「でも、怖いわ」


 宮殿に入りたがらないリリーを、ビエントは宥める。


「母上は、精神を病んでいるんだ。許してやってほしい」


 リリーは頷いた。

 病気なら仕方がない。

 シオン様も来られなかったし、認められるように頑張ろう。

 やっと歩き出したリリーを横抱きにして、ビエントは王宮の中に入っていった。

 王宮の中には、国王陛下と両親と兄と使用人達が集まっていた。


「おかえりなさませ」

「ただいま」


 数の多さに驚いて、リリーは小さな声で応えた。


「仲がよろしいですわ」

「妹をよろしくお願いします。兄上」

「リリーを頼むぞ」


 リリーを抱き上げたビエントの背中を最後に父が叩いた。


「午後からはダンスパーティーが行われる。それまで休憩だ」


 抱き上げたリリーを下ろして、写真を撮ってもらう。両親や兄とも何枚も美しく飾られた姿を撮ってもらう。

 リリーは笑顔になって、何枚も思い出の写真を撮ってもらった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ