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5   PK


 風がふわりと動いたような気配がして、リリーは背後を振り向いた。


「ライトニング・ウインド」

 

 間近にシオンが立っていた。

 咄嗟にマントで体を覆う。

 マントに強烈な風が当たり、雷が落ちた。

 リリーは衝撃で吹き飛ばされた。


「おまえ、何やっているんだよ?魔術を人に向けて攻撃してはいけない。これは、PKプレイヤーキラーだ。

 アハトはシオンの胸ぐらを掴んだ。


「うるさい」


 シオンはアハトの手を振りほどいて、その場から逃げだそうとした。


「シオンを捕らえよ」


 ビエントは大声を出すと、リリーの元に急いだ。

 至近距離から魔法で攻撃されたリリーは、倒れていた。


「リリー、大丈夫か?」

「ビエント様」


 リリーに意識があってホッとする。


「どこか痛む場所はないか?」

「大丈夫ですわ。すぐにマントで体を覆いましたの。頭は冠が守ってくれたようですわ。まさか人に向けて魔術攻撃を行うとは思っていませんでしたの。マントと冠があってよかったですわ」

「よかった」

「風魔法の気配、分かりましたわ」

「そうか」


 ビエントがマントの中に手を入れて抱き上げる。


「無事でよかった」

「はい。せっかくのドレスが汚れてしまいました。やっぱり青いドレスは私には合わないのかもしれません」

「違う色のドレスを作ってやろう」


 シオンを捕らえた騎士が、シオンを連れてやって来た。


「シオン、おまえ、今、何をしたのか分かっているのか?」


 ビエントはシオンを睨みつけ、凄みのある声で怒った。


「生きていたのか?至近距離なら、俺の魔法でも殺せると思ったのに。頭から雷を食らっても生きているとは、運のいい奴だ」


 マスコミがカメラとマイクを向けている。

 このままでは騒ぎが大きくなってしまう。

 ビエントは騎士にシオンを宮殿内に連れて行くように命令した。

 リリーを抱き上げたまま、ビエントはリリーを部屋に連れて行こうと宮殿に入ると、国王陛下がシオンを牢獄へ入れるように命令していた。


「シオン様、どうなるのでしょう?」


 リリーは騎士達に連行されていったシオンを心配した。


「PKは重罪だ。父上の判断に任せるより仕方がない」

「・・・・・・はい」


 部屋まで行くと、マントと冠を外して、勲章を取ると、ドレスを脱いだ。


「せっかくのレースと生地が破けていますね」


 モリーがドレスを見て、無残な姿になったドレスを見て声を上げた。


「怪我はないか?」

「はい。大丈夫です」


 ワンピースにカーディガンを身につけたリリーは、マントと冠と勲章をトルソーにかける。


「お母様に届けて、修理していただきますわ」

「リリーよく体を見せてくれ」


 リリーは歩いて、ビエントの前に進んだ。


「膝が擦れてしまっているではないか?」


「飛ぶ練習をしたときより軽いですわ」


 扉がノックされて、ビエントの側近の声がした。


「どうぞ」


 ビエントが入室の許可を出した。

 側近がアトミスを連れてきた。アハト達が後ろにいる。


「心配しておりましたので」

「リリー、怪我をしているわ。治して差し上げます。横になってくださいな」

「お願いするわ」


 リリーは部屋にアトミスとアハト達を招くと、アハト達にはソファーに座るように勧めて、リリーはベッドに横になった。


「プリエール」


 虹色の光が頭から足まで照らしていく。


「よかったわ、怪我は足だけですわね」

「頭は大丈夫か?」


 ビエントはアトミスに聞く。


「ええ、念のためにもう一度、しておきます。プリエール」


 虹色の光が頭から足まで照らしていくと、虹色の光が消えた。


「サルパシオン」


 アトミスの手から温かなものが出てきて、両足を照らす。


「綺麗に治っていくな。さすが光の魔術師」


 ビエントが治癒の状態を見て、感心している。


「さあ、もう大丈夫ですわ」


 ビエントが起こしてくれる。


「アハト達、行きますわよ。淑女の部屋をあまり見てはいけません」

「ああ、すまない。あまり綺麗な部屋だから見とれていた」

「リリー、外で待っていますわ」

「・・・・・・はい」


 アトミスは三人を連れて出て行った。


「リリー、よかった」


 ビエントはリリーを抱きしめた。


「マントと冠はいつも身につけていなさい」

「そんなにしょっちゅうPKされるのは嫌ですわ。そもそも魔法で人と戦うのは規律違反ですわ」

「そうだな。シオンが本当にすまないことをした」

「旅行から帰っていたのですね」

「逃げ出してきたのだろう」

「どこかに捕らえていたのですか?」

「そのことは今はいいから、友人のところに行きなさい」

「はい。ビエント様」


 リリーは自分の膝を見ると、過去の傷まで治っていて綺麗になっていた。


「ビエント様、行ってきます」


 リリーは急いでガーデンパーティーが行われている庭園に走っていった。


「アトミス、ありがとう。すごく綺麗になっていたわ」

「光の魔術師として、当然の事をしただけよ」


 リリーはアトミスに抱きついた。


「いつの間にか、身長を抜かされたわね」

「まだ成長期だわ。16歳になったばかりだもの」

「リリーが16歳か。最初は13歳だったからな。あの頃はちっちゃくて可愛かったな」


 アハトがリリーの美しい髪を撫でた。


「こら、アハト、婚約者のいる女性に、そんなに触れてはいけません。リリーは今でも可愛らしいですわよ。ずいぶん美しくなりましたけれど」


 アトミスのそばに男性が寄ってきた。


「皆さん、紹介いたしますわ。この方は私の婚約者のモマンですわ。もう少ししたら結婚しますの」

「アトミスおめでとう」


 ぴったり揃ったおめでとうに、このパーティーの団結力を感じる。


「いつの間に婚約者ができたのですか?」

「リリーが実家に戻った後ですわ。電話をしたのですけれど、リリー病気で寝込んでいると聞いていたので、心配していましたわ」

「肺炎を起こして、ずいぶん長い間、療養していたのですわ」

「まあ、・・・・・・もうよくなったの?」

「すっかり元気ですわよ」

「結婚式には是非来てくださいね」

「はい、お祝いされてください」

「それでは、私は彼とデートですわ」


 アトミスは彼を紹介すると、腕を組んで帰って行った。モマンがアトミスにコートを着せている。





 アトミスが帰った後、部屋にコートと手袋を取りに行って、アハト達を連れて、宮殿の端に置きっぱなしになっていた乗り物に案内した。


「途中で、もう一つの乗り物を持っていきましょうか?」

「すまないな」

「いいえ。素敵な家に引っ越すんですもの。こちらもお祝い事ですわ」


 三人はもう慣れたように乗り物に乗ると、すぐに出発した。北の寄宿舎の前に乗り物を下ろして、もう一つの乗り物を出してくると、二つを持ち上げ、山へと飛んで行く。アハトは、自分は後でいいから、ワボルとフィジを先に頼むと言った。ワボルとフィジの家は兄妹が多いのだと教えてくれた。山に着くと、ワボルもフィジの家に乗り物を置いた。


「また明日、迎えにまいりますわ」

「よろしく」

「よろしく」


 手を振り、リリーは身軽な身で空を飛んでいった。

 山の足場の悪い場所を、荷物を抱えて降りていく人たちがいた。

 リリーはアハトの家に戻った。


「アハト、この辺りには、街に降りていく人がたくさんいるの?」

「リリー、戻って来たのか?この辺りの人は、街に降りるよ」

「それなら、私が荷物を運ぶわ。みんなに知らせてくださいませ。荷物の量によって1日2件か4件くらいだと思うけれど・・・・・・。荷物を出して置いてくれたら、それごと移動できるので」

「そりゃ助かるだろうな。いいのか?お姫様がそんなことして」

「私は私よ。反対はされないと思うわ」

「それじゃ、近所に声をかけてみるよ。うちは最後でいいから」

「お願いするわ」


 リリーは手を振ると、山を下りていった。

 山はまだ寒い。

 コートを着てきて良かった。


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