2 リリーの誕生日
リリーは16歳になった。13歳で家出をして騎士団に入り2年を過ごした。14歳と15歳の誕生日は、騎士団で祝ってもらった。騎士団を出てからいろんな事があった1年だった。長く病気を患い、療養生活をしていたが、今はもう元気だ。
誕生日の日は、ビエントが訪ねてきた。婚約指輪だと言って、美しく輝く指輪をもらった。結婚指輪は、珍しい魔物の落とした指輪にしたので、重ねて付けてみる。
ビエントは「ダイアモンドだよ」と教えてくれた。
誕生日は久しぶりに空を飛び、デートをした。
初めて出会った場所を訪ねて、魔法を撃ってみる。久しぶりの攻撃魔法だったが、魔力が衰えたような感じはしなかった。ビエントと力試しをして、リリーは勝った。
ビエントは「さすがは戦士だ」と称えてくれる。
飛びながら国を案内した。二人で手を繋ぎ、いろんな場所に案内する。
木の上に座って景色を見ているときに、初めてのキスをされた。唇に触れるだけの優しいキスだった。リリーは照れくさくて、そのまま木から落ちるように下りた。リリーが落ちたと焦った ビエントが慌てて、リリーの手を引っ張った。そのまま抱きしめられて、リリーは胸がドキドキした。
本当に婚約したんだと改めて思った。
夕食までに帰って来なさいと母に言われていたので、夕方には自宅に戻った。
家の中から美味しそうな香りがする。
「二人とも手を洗っていらっしゃい」
母が時間通りに帰って来た二人に声をかける。
「何か手伝うことはありますか?」
ビエントが声をかけると、母は「準備ができるまで、お茶でも飲んでいなさい」と二人を応接室に押し込んだ。
大きなケーキとリリーの好物が並んだ食卓は、普段通り温かい雰囲気に包まれている。
「リリー、お誕生日おめでとう」
16本のロウソクが立ち、リリーは微風の魔法で消した。
家族がいて美味しい料理が並び、大きなケーキがある。
アストラべー王国に行ったら、この温かな食卓も家族もいなくなる。初めて寂しいと思った。家で暮らして温かさを思い出して、この温かな家庭が、どこにでもあるわけではないと知った。
「リリー、二人で温かな家庭を作っていこう」
ビエントが、リリーの手を繋いだ。
「リリーが寂しいと思わない家庭を作りたい」
「・・・・・・ビエント様」
「必ず約束しよう」
「・・・・・・はい」
家族が拍手してくれる。
「二人とも幸せになりなさい」
「はい。義父上。必ずリリーを幸せにします」
「頼んだよ」
「はい」
母は涙を浮かべていた。リリーは泣いていた。ハスタがハンカチで涙を拭ってくれる。
シェフがケーキを切り分けてくれる。
泣きながらケーキを食べて、16歳を迎えた。
「寂しくなったら、いつでも帰って来たらいい。二人とも我が子だ」
「ありがとうございます」
「ありがとうお父様」
きっと温かな家庭を作ろうとリリーは思った。
父のように、母のように、兄のように。
見習う事は、山のようにある。
残された時間は少ないかもしれないが、色々教えてもらおう。