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悪役令嬢になるのも面倒なので冒険に出かけます(仮)  作者: 綾月百花
1   婚約者
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10   会いたい(2)


 リリーは衣装部屋に行くと、紺のワンピースを着た。笛のついたネックレスをすると、髪を隠すように紺のストールを頭から被った。

 窓を開けて、窓枠に足をかける。二階の部屋から飛び降りると、そのまま空を飛んだ。

 リリーは飛行を覚えた。

 ビエントができると言ったのだから、きっとできると信じて、毎日練習をした。

 何度も落ちて、膝をすりむいたが、それでも辞めなかった。

 ビエントに会いたい。

 リリーは最初に出会った森にやって来た。

 笛を吹いてみる。

 ピーと風が狭い場所を通り抜けるような音がした。

 何度も笛を吹いて、星空を眺める。

 大きな木の枝に足を載せ、片手で木に掴まる。

 もう一度、笛を吹いたとき、空にキラリと輝いた姿が見えた。

「ビエント様」

 リリーは木の上から上空に飛んだ。

「リリーどうかしたのか?」

 ビエントは胸に飛び込むように飛んできたリリーを抱き留めた。

「空を飛べるようになったんだね」

「ええ、何度も落ちましたから、足は傷だらけですけど」

 ワンピースの裾を少しだけあげて、膝を見せる。

「これは痛そうだ」

「飛べるようになったら、笛を吹いてもいいかと思いまして」

「いつだって笛を吹いて構わないんだよ」

「でも、迷惑かと思って」

 ビエントはリリーと手を繋ぎ、森の大きな木の枝に連れていった。

「家から抜け出してきたのか?」

 リリーの姿を見て、ビエントはクスリと笑う。

「家の窓から飛んで来たの。髪が明るい色だから、隠さないと見つかってしまうといけないかと思って」

 リリーは頭につけていたストールを外した。

「私、家を出ようと考えているの。ビエント様のところに行ってはいけませんか?」

「リリー、私は男だよ。若い娘が男の家を訪ねてはいけない」

「迷惑ですか?」

「こうして逢い引きするのは楽しいが」

「責任は持てないということですね」

 ビエントは曖昧に微笑んだ。

「私、もっと魔法が上達したいし、ビエント様を知りたいんです」

「リリーは伯爵令嬢なんだろう。婚約者もいるだろう?」

「婚約は破棄されました。もう自由の身なんです」

「こんなに美しい伯爵令嬢を婚約破棄する者がいるのか?」

「私からお願いしたの。王家に嫁ぐ身でしたが、殿下とはどうしても合わなくて。傷物になった私は、どこでも腫れ物扱いです」

「辛いことがあったのだろうな」

「きっと私の心が優しくなかったのです」

 木の枝に座っていたリリーは立ち上がった。

「ビエント様は私には興味を持たれないのですね。私はビエント様のことばかり考えています」

「リリー」

「いいのです。私はまだ幼くて子供ですもの。今夜はお目にかかれて、とても嬉しかった。本当に笛を吹いたら来てくださるなんて、本当は信じてなかったんです。また笛を吹いても構いませんか?」

「ああ、いいとも」

 リリーは微笑んだ。

「ありがとう。その言葉ですごく救われた気持ちです」

 リリーは木から飛んで、落ちかけた手をビエントが握って空高く上がった。

「月が近くにあるみたい」

「遮る物がないからね」

「今日のデートを忘れません」

「私もきっと忘れないだろう」

 白銀の髪は流れ星のように、見える。

「美しい髪だ。暗闇で光を灯す」

 夜が更けていき、ビエントはリリーを家に送ってくれた。

「おやすみ。美しい姫」

「おやすみなさい。優しい王子様」

 二人はなかなか手を放せずにいたが、ビエントが手を離して、一気に空まで上がっていった。リリーは手を振った。ビエントはしばらく留まったが、飛んで帰っていった。



 リリーはネグリジェを持って、お風呂場に向かった。まだお湯の張られたお風呂に浸かって、体を洗い流し、髪も綺麗に洗った。

 ネグリジェに着替えて、ビエントが褒めてくれた髪を梳かす。

 地図を出して、リリーは隣国を見つめる。

「遠いわよね」

 リリーの飛ぶ速度では、笛の音がもし聞こえても、すぐには行くことはできない。

「責任は持てないか・・・」

 初めて抱いた恋心だった。大切にしたい。


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