5 シオンと王妃
西の宮殿に移送された王妃とシオンは怒り狂っていた。
「あのチビのせいで、なんでこんな田舎に住まなくてはならないんだ?」
「そうですとも、あの幼い婚約者など、女王に相応しくない。女王は歴代金髪で美しい者がなってきたはず、国王までビエントの肩を持ち。こんな片鱗に追いやるなど妻を愚弄しています。離縁を考えなければ」
王妃の実家は王家に仕える公爵家だ。離縁したら、王妃の名も位も落ちてしまう。
口にするが、実際はプライドが邪魔をして「離縁」とは口が裂けても言えない。
住宅街を見下ろすように建てられた西の宮殿は、開発途中に住宅地を視察するために、ずいぶん昔に建てられた、小さなお屋敷だ。一般の家よりは豪華だし大きな庭園もあるが、宮殿に比べたら、ダンスホールより少し広い程度しか家の中は広くない。
「狭い寝室に狭いお風呂は窮屈で不快だわ」
実際には、お風呂の大きさは、宮殿の大きさとあまり変わらないが、すべてコンパクトに造られた部屋やダイニングが気に入らない。
部屋も気に入らないが、何より宮殿から追い出されたことが一番気に入らない。
「俺は親父に捨てられたのか?」
シオンはまた別の意味で怒り狂っている。
「後継者はビエント兄だけでいいのか?俺の価値は、親父にとってクソほどもないのか?」
空を飛べないシオンは、魔法学校を休まざるを得ない状態になっている。
まるで盗賊を捕らえるように、両脇を騎士に捕らえられ、馬車に押し込まれ、この地まで連行された。学校の帰りのまだ友人達がいるときに。恥までかかされ、シオンの苛立ちは母の苛立ちとは、また違った方向を向いている。
この屋敷から出られないように、見張りの騎士が立ち、まるで重罪人扱いされている。
「俺が何をやったんだよ?」
足下にある椅子を蹴飛ばし、他の椅子を持ち上げ壁に投げつける。お洒落な籐のソファーセットが乱暴に壊されていく。壁も壁紙が破れ、内装の木までへし折れていく。
「あのチビが仕返しをしてきたんだな?」
思い当たるのはリリーの事ばかりだ。
ダンジョンで魔法を使ったのは確かにシオンだ。
リリーは騎士団の中で、際だった魔術師だった。騎士団の風魔術師の中で、おそらく一番の魔術の使い手だっただろう。チビのくせに、目の前で大きなボス相手に強力な魔術を使うリリーに対抗してみたかった。渾身の一発は、弱い魔術で、リリーの魔術の位置を少しずらしただけに終わった。そのことがすごく問題になった。
少しずれた魔術から1体小さなコウモリが逃げ出しただけなのに、大騒ぎになった。
コウモリ一体くらいたいしたことがないと思っていたが、騎士団が、その一体を必死に攻撃して、結果的にその一体はリリーの仲間に倒されたが、騎士団の視線が怖いほど厳しかった。
「チビの仲間を治療係にしたくらい、王子なら許されるだろう」
ダンジョンで戦うなら光の魔術師を側に置きたいと思うのは当然のこと。その光の魔術師を自分専用にしたって王族なら許されるだろう。愛などなくても縛ることはできる。相手が王族なら自ら身を挺して捧げるのが当然だろう。
シオンの思考はいつも自分中心で、他に与える影響など考えてはいない。本人はそのことに気付いていない。
テレビの画面が割れて、美しく飾られた棚の椅子で壊していく。
王妃は、シオンの暴力的な行動を見て、驚きで思考が停止している。
「すべてを破壊してやる」
国王の計らいで最低限付けられた使用人や侍女は、リビングの様子をチラリと見て、騎士に告げ、逃げ出している。
破壊行動に走り出したシオンは、騎士に捕らえられ手錠を後ろ手でされて、蹴り出したシオンの足を縄で結び、床に転がされた。
「くそぉ」
全部、あのチビが悪いんだ。
「あのチビとタイマンだ!」
「大丈夫?シオン」
「黙れ、クソばばあ!」
「まあ、なんて汚い言葉を使うのでしょう。クソばばあだなんて・・・・・・」
ああ、と言いながら、王妃は散らかった部屋で座りこむ。
そこら中にガラスの破片や屋敷を破壊した破片が落ちて危ない。
「あの子が来なければ、こんな事は起きなかった」
王妃まで、リリーを悪者にして罵っている。
「魔術がちょっとできるだけで、妃になれると思っているのかしら?卑しい子だわ
空調を壊すだけでなく、息の根を止めてやれば良かったわ」
騎士は王妃の言葉を聞いて、顔を顰める。
国王様にお知らせしなければと、騎士は心に思う。
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