4 リリーのために
ビエントはリリーに会うために、猛烈な勢いで仕事を始めた。帰宅した夜から溜まった書類に目を通し、解決策を書き込んでいった。翌日の議会では、止まっていた時間が猛烈な速さで動き出した。指示を出された議員には、期日を決めて動き出してもらった。溜まっていた書類は三日もしないうちに指示が出され、後は期日まで待つだけだ。
ビエントが勧めていた道路工事の指示も出され、土地が売り出された。魔物を恐れて山岳地帯に逃げ出した国民に、魔物はもう出ない事を知らせ、土地の分譲や建て売りの案内をさせるように指示を出した。王都の周りや西の街に住宅街が並び、予想図では、美しい町並みになるように宣伝させた。西の街には工場地帯も完成しているので、働き口はあるだろう。西の街の外れには農場を作るように土地を売り出した。土魔法を使える者が魔術を使い生活できるだろう。
騎士団への勲章は、時期も過ぎてしまったので1周期を期日にした。金でできたメダルを造り、首からさげるデザインを提案して、魔法学校の生徒には金のタイピンにした。国民にデザインの公募をした。公募なら平等に参加できる。集まったデザインを議会にかけて、決定させればいい。騎士団と魔法学校の生徒とは別のデザインで、大きさも違う。それくらい騎士団は国に貢献してきた。殉死者にも贈るように指示を出した。リリーが言っていた。人食いコウモリの亡骸の話を思い出したら、残された家族は、さぞかし悲しんだだろうと思えた。ならば、殉死者も称えなければ浮かばれないだろう。
ビエントは四日目にリリーの家に戻った。
「お帰りなさい」
「ただいま」
通い夫だ。
ビエントは会えなかった時間を埋めるように、リリーを抱きしめる。
「ビエント様のお食事を増やすようにシェフにお願いしてください」
「畏まりました」
使用人がキッチンに入って行く。
「お荷物をお部屋に運んでおきます」
ビエントのスーツケースを使用人が運んで行く。
「お茶を淹れますので、どうぞ応接室に」
「お願いします」
リリーは家族が寛ぐ応接室にビエントを誘う。
「チョコレートをお土産に買ってきたんだ。一緒に食べよう」
上着のポケットから、リリーの好きなお店のチョコレートを出して、リリーに差し出した。
「ありがとう」
「体の具合はどう?」
「お医者様は暖かい部屋で、ゆっくりしていれば良くなっていくだろうと言っていましたわ」
「そうか」
「国王様は大丈夫でしたか?」
「不抜けておった。仕事をすべて押しつけてきた。まったく、あれで国王とよく言う」
「お疲れなのかもしれませんね」
使用人が紅茶を持ってきてくれた。
最近では、リリーの紅茶には蜂蜜が入れられ、甘い紅茶を飲んでいる。
まだ時々咳き込むリリーは、家の中で過ごしている。
滅多に外には出ていない。
「この間、ダンジョンはどうしてできたんだろう?とビエント様が言っていたことを考えていました。私、鉱山に入った事がありますの。今、思い浮かべると、ダンジョンの造りは、金鉱山の造りによく似ていたと思い出したのです。どうして、そこに魔物がいたのかは分かりませんが、金貨に変わる魔物のボスは金でできていたのかもしれないかなと、幼い考えかもしれませんけれど。ダンジョンの奥を調べると、意外と金鉱だったりするかもしれないですよ」
「それは勘かな?」
「はい。ただの勘ですわ。大きな洞窟に小部屋のような洞窟が幾つもあって、その中に魔物がいましたもの。金を掘り出すときと同じだと思ったのですわ」
「調査員を出してみよう」
「ただの勘ですわよ」
「リリーは実際のダンジョンを見てきている。そう感じたのなら、その可能性は0ではない」
「無駄かもしれないですのよ?」
「調査員は仕事がもらえる。経済はまわる」
リリーは微笑んで、大好物のチョコレートをひとつ摘まんだ。
「美味しいですわ」
微笑みが笑みに変わる。
その笑みを見て、ビエントも笑みを浮かべた。