1 穏やかな時間
リリーはようやく体調が良くなり、体力も戻って来た。
宝石箱に、宝石を並べていく。
魔力、力、俊敏力、体力と分けて、力の強い順に並べていく。
リリーの横でビエントは触れるだけで分かるリリーの力に感心していた。
「触れただけで分かるのか?」
「分かります。ビエント様も触れてみてください。きっと分かるはずです」
リリーが並べた順に触れていくが、よく分からない。
「これ、お揃いですよ。お一つどうぞ。これは魔力ですね」
渡されたのは指輪だった。
「指輪は私から渡したいが」
「この指輪は魔物が落とした珍しい物ですよ。どこにも売っていませんわ」
「そうだね」
「どの指に入れるか考えてから入れてくださいね。最初の一度でサイズが決まります」
「大きさが変化するのか?」
「はい。いろいろ試しましたが、不思議ですね。小さな物でも太い指にも入るのです。その後は、ずっと大きな指輪になってしまいます」
「そうか・・・・・・」
指輪はシンプルな指輪だった。色はシルバーで真ん中に赤い宝石がくるりと一周巻き付いている。
「毒蜘蛛が落とした宝石ですので、赤色が目立ちますね。毒蜘蛛が落とした指輪やネックレス、ブローチ、イヤリングも赤い物でした。毒蜘蛛は魔力が高かったので、落とされた宝石は魔力の高い物でした」
ビエントはもらった指輪をリリーの左手薬指に入れた。
「リリーも同じ場所に入れてくれるか?」
「でも、この指は結婚指輪をはめる場所ですわよ」
「この珍しい指輪を結婚指輪にしてもいいのではないかと思ったんだ。お揃いだし、駄目だったか?」
「いいえ」
リリーもビエントの左手薬指に指輪を入れた。
「本物の指輪も後で贈ろう。婚約指輪もまだ贈っていない」
「こんなにたくさん持っているので、なくてもいいのです」
宝石箱にいっぱい入っている宝石の横に雑然と入れられた物があった。
「端に集めてある物は、なんだ?」
「これは魔力が低い物を集めていますの。形が綺麗だったり、珍しい色をした物だったり、そういう物を拾いましたの。普段使いにできると思いまして。騎士団の皆さんは、金貨を拾っていましたから、宝石を拾う者は最初の頃は少なく、途中から魔力が上がったり俊敏性が上がったりする物があると気付いて、拾う者も増えてきましたけれど、皆さんはやはり金貨を拾う方が多かったので。こんなにたくさん拾ってしまいました・・・・・・」
「金貨が出たのか?」
「ええ。私も最後の人食いコウモリを倒した時は、たくさん拾いましたの。皆さんが鞄やポケットに入れてくださったので」
「ダンジョンはどうしてできたのだろう?話を聞くと宝の山のようだ」
「そうですね。終わってみれば宝の山のように見えますね。でも命がけの戦いでした。人食いコウモリに食べられた団員の亡骸を見ましたけれど、本当に小さな箱に入ってしまうほど、無残に食べられていましたの。目の前でその様子を見た者は、心が折れて魔物狩りが続けられないほどのショックを受けていましたわ」
「リリーが亡骸にならなくて良かったよ」
「そうですわね。私の耳には普通に聞こえていましたけど、アストラべー王国の人には羽音が拷問のような酷い音に聞こえていたようです。メンバーを守るために、私は毎日必死に戦って来ましたわ」
ビエントの手がリリーの髪を撫でる。
「頑張ったな」
「はい。頑張りました」
リリーは微笑んだ。褒められて嬉しい。認められて、たまらなく嬉しい。