12 アトミス
アトミスはリリーの事を心配していた。
アストラべー王国では、まだ北の魔物の森の話題で持ちきりだ。
狩り場で亡くなった遺族達もやっと達成されたダンジョンの攻略に、涙を浮かべ、テレビで話している。
英雄になった騎士達もインタビューを受け、リリーの存在を称えていた。マスコミはリリーの姿を探し、王家にも押しかけたが、リリーの姿を見つけることはできなかった。王家からの返事はなく、その行方は誰も知らない事になった。
そのリリーが、もうこの国にいないと思うと、アトミスは寂しく、リリーを苦しめていた国王様と王妃様に不快感を抱いた。シオン王子との婚約の時に、散々嫌な思いをしたアトミスは、王妃の手を翻したような言葉に不愉快な思いをした。
国の民は騎士団と亡くなった戦士に勲章を贈るべきだと、国王に訴えていた。
騎士団の英雄とされたアトミスの元には、たくさんの縁談の話が舞い込んでいた。
アトミスはアルテイスト公爵家の一人娘だ。父としては婿をもらいたい。アトミスももう王家に振り回されるのは、嫌だった。
縁談の話と共に送られてきた写真を見ながら、リリーがよくしていた、力のある順序に並べてみたり、顔立ちから好感を持てる者を選んだり、いろんな並べ方をして相応しい相手をあらかじめ選んでいった。
両親は不思議なことを始めたアトミスを、眺めていたが、アトミスは両親のそんな眼差しを無視して、いろんな方向から写真を並べている。
次男で同じ公爵家の男性が残った。
「性格がよければ、この方でもいいかもしれないわ」
アトミスは19歳になっていた。結婚の適齢時期より遅くなってしまったが、すべてダンジョンの攻略のためだと言われれば、皆、納得する。光の魔術師だという代名詞も好感を持たれた。
アトミスの両親は、アトミスにお見合いをさせた。
毎日、一人ずつ会って、話をしたり公園をデートしたりして、相手の癖やちょっとした仕草も気をつけて見た。シオン王子の時のように二重人格だったら嫌だから、興信所を使い相手の普段の姿も調べさせた。
「アトミス嬢、どうか結婚してください」
花束を抱えた男性は、優しそうな面差しをしていた。アトミスがいいと思った人だ。
「私は次男なので、アルテイスト家に婿として入っても構いません。以前からお慕いしておりましたが、王家との婚約などがありましたので半ば諦めておりましたが、アトミス嬢が婚約破棄されたと聞き、是非、良縁をいただきたく存じます」
と、言った彼は、モマンと言う。会ってみると、以前にも会った事がある。何度も舞踏会でダンスを踊ったことのある男性だ。
「何度もダンスに誘っていただいたお方ですね」
「覚えていていただけて、とても嬉しい」
彼は23歳だと言う。年齢もちょうど良さそうだ。
趣味は家庭菜園だと笑っていた。穏やかで優しい雰囲気がする。贈ってくれた薔薇も、自宅の温室で育てた物だと教えてくれた。
アトミスは彼に夢中になっていった。両親に伝えて、興信所で彼を探ってもらう。
彼と何度もデート重ねた。会う度に、アトミスは彼を好きになっていく。
彼の自宅に招かれて、家族を紹介された。長男はもう議会に出ているとか。彼の下には妹が二人と弟が一人いた。まだ幼く、出会ったばかりのリリーの姿を思い出す。
彼の温室に招かれ、その美しさにアトミスはうっとりした。
「土作りから始めたのです」と彼は言った。
「我が家の婿になったら、この温室は持って来られませんが、いいのですか?」
アトミスは気になり聞いた。モマンは爽やかに笑った。
「この温室は妹や弟が世話をするでしょう。アルテイスト公爵家の庭の一角をいただければ、また温室を造ります」
「いいのですか?」
「一度、作れた物ですから、作れるでしょう。私も魔力はそれほど強くはありませんが、土魔法を使えますので、土作りは得意なのです。お花はアトミス嬢の好きな花を作りましょう」
お土産にまた薔薇の花束をもらい自宅に送ってもらう。
彼は紳士的で、優しい。アトミスは興信所の知らせを急いで開けた。彼に情報の陰はなく、趣味はやはり家庭菜園と温室で花を作っていると書かれている。今の仕事は、伯爵家で父や兄の手伝いをしているようだった。アトミスは、両親にモマンが気にいったと話した。
両親は後継者ができると喜んで、モマンの家に婚約の申し込みをした。
かくして、アトミスは新しい笛を付けるようになった。結婚は暖かくなったらしようと、話が進んだ。