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プロローグ

 

 リリー・ホワイト・アコラサード伯爵令嬢13歳は、兄のハスタ15歳と山にハイキングに出かけた。

 父のスパーダ・ニネ・アコラサード伯爵はフラーグルム王国に務める議員の一人だ。

 本当は父と一緒に出かける予定だったが、急な会議が入ったということで、今日のハイキングは中止になるはずだったが、リリーがごねた。

 ずっと前から予定を立てていたハイキングを楽しみにしていたリリーは、一人でも出かけると言って聞かなかった。なので、兄のハスタは仕方なく、リリーに付き添って森にやって来た。アコラサード伯爵家に仕える騎士が一人、付き添いで付いてきている。

 初めは、シロツメクサが満開になっている草原で花を摘んで冠を作り、兄の頭に乗せて遊んでいたが、ハスタは退屈過ぎて、花の冠を捨てて、付いてきた騎士と押し相撲を始めた。

 誰も相手になってくれないリリーは、退屈で兄に作ったシロツメクサの冠を頭に乗せて、森の奥へと入って行った。

 木々からこぼれる木漏れ日があたり、とても涼しい。季節は春だが、今日は天気がいい。

 そよ風が長い髪を遊ばせる。この風の向こうに、楽しいことがありそうで、リリーは駆けていく。少し広くなった場所に出ると、木々がなく明るくなった。

「わぁ、綺麗な場所だわ」

 空がくり抜かれたように見える。空ばかり見ていたリリーが視線を下ろすと、目の前に大きな熊がいた。

「え・・・・・・?」

 さすがのリリーも熊相手に、何かできるわけではない。

「あるーひ、森の中、熊さんにであった~♪どっかに行ってくれると助かるんだけどな~♪」

 歌ってみるが、熊はうなり声をあげて、立ち上がった。

 リリーよりずっと大きな体をしている。大人の体より大きいように見える。

「・・・・・・どうしよう」

 気の強いリリーもさすがに、足がすくむ。

 そのとき、空から人が降りてきた。

「お嬢さん、手を開いて胸の前で組んでごらん」

「こうかしら?」

 リリーは言われたとおり、胸の前で両手を開いてその手を重ねた」

「それでいい。ヴィンドシュートと唱えてごらん」

「わかったわ。ウィンドシュート」

 男の手がリリーの肩に触れている。

 体が後ろに飛ばされそうだ。

 信じられないけれど、重ねた手から勢いよく突風が飛び出した。

「すごいわ」

 熊は、少し吹き飛ばされたが、また立ち上がって、今度は向かってくる。

「ライニング・ウイング」

 男は熊に向かって、呪文を唱えた。

 稲妻と突風が起きて、熊は吹き飛ばされた。岩にぶつかり動かなくなった。

「すごいわ。お兄さん、魔術師なの?」

「お嬢さんも魔術師の素質を持っている。気配を感じて来てみたが、可愛らしいお嬢さんだった。初めての魔術はどうだった?」

「素敵よ。私に素質があるの?」

「練習次第で、私以上の魔術を使えるようになれるだろう」

「お兄さん、私を弟子にしてください」

「私の名前はビエント・アネモス・アストラべー。ビエントと呼んで構わない」

「ビエント様、私に魔術を教えてください」

「ああ、いいだろう」

 リリーは、その日、いろんな魔術を教わった。

「師匠には、どうしたら会えますの?」

 ビエントは少し困ったような顔をしたが、リリーに首飾りをつけてくれた。

「この笛を吹いたら、会いに行こう」

「それなら私からは、これを」

 リリーはビエントにシロツメクサの冠を贈った。

「私はリリー・ホワイト・アコラサード伯爵令嬢。13歳です。よろしくお願いします」

「リリーは伯爵令嬢だったのか?」

「はい」

「ビエント師匠、隣の国のアストラべー王国の人なのですか?」

「ああ、そうだ」

「お目にかかりに行ってもいいですか?」

「そうだね、いつか・・・・・・」

 ビエントはリリーの白銀の髪を撫でた。

「美しい髪と瞳を持っているね」

「ええ、容姿には恵まれたようですわ」

 ビエントは声を出して笑った。

 ビエントも美しい姿をしている。

 金髪に透き通るような青い瞳。背も高くて、素敵な紳士だ。

「・・・・・・お嬢様。リリーお嬢様・・・・・・」

「・・・・・・リリー。どこだよ。リリー・・・・・・」

 遠くでリリーを探す声が聞こえる。

「一人で帰れるね」

「もっとビエント師匠と一緒にいたいです」

「また今度だ」

 ビエントはリリーの髪をもう一度撫でて、体を離すと空中に浮かんだ。

「その呪文はなんですか?」

「飛びたいと思ってごらん。リリーならできる。ではまたな」

 ビエントは空を飛んで行ってしまった。

 くり抜かれた空から、見えなくなった頃、兄と騎士がリリーを迎えに来た。

「なんで一人で行くんだ。何時間も山の中を探したんだぞ」

「ごめんなさい」

「何はともあれ、ご無事でよかった」

 騎士はリリーの頭を撫でると、「さあ、帰りましょう」と言った。

 手を引かれそうになり、リリーはその手から逃げるように走り出した。

 ビエント様に会いたい。

 もらったネックレスを握って、走った。

「お嬢様、もう、どこにも行かないでください」

「リリー、いい加減しろよ。僕たちはずっとリリーを探してくたくたなんだからな」

「知らないわ」

 リリーの後を二人は追いかけて走った。


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