第漆怪 ごくごく普通の日常
さて、この日は安倍 月猫初の休日である。
逆にこの世界での休日はなんなのかと不安な部分もあるが、今現在月猫は布団に潜っていた。
「(下手に外に出てたら何かに巻き込まれそうな気がしてたまらない!生徒たちは寮生活だから絶対にどこか遊びに行ってるだろうし、私は寝ていよう!)」
そう、こういう決断である。
しかし、彼女の巻き込まれ体質はそうそう舐めては行けない。
巻き込まれ体質は家の中にいても発揮されるのである。
ピーンポーン
彼女が夢の中に落ちそうになった時、インターホンが鳴り響いていた。
「・・・居留守しよ、」
ピーンポーン
ピンポンピンポン
ピーンポーン
「無理だ!うるさすぎる!」
月猫は欠伸をしながら、入口に向かって誰が来たのかを見ると、何故か霊組生徒たちが集まっていた。
「月猫ちゃーん」
「あーそーぼー」
「にしても出てこないね」
「居ないんじゃない?」
お、男子軍が痺れを切らして去ろうとしている。そうだ、行けいけ!私はこのまま眠りに・・・
「ん?霊組勢揃いじゃねぇか。何やってんだ?」
「あ!酒呑童子先生!実は月猫ちゃんと遊ぼうと思ったんだけどね、居ないみたいなの」
「休みの日でも先生つけろよ。・・・たく、アイツ居留守でも使ってんじゃないのか?」
酒呑童子先生の感が冴えている!!
月猫はいっその事棚の中に隠れようと思い、その場から音を立てずに去ろうとしていた時だった。
忘れては行けない。霊組 お目付け役の存在を。
「お、いたいたー!先生いるじゃん!居留守バリバリ使って寝ようとしてる!」
「目良くん!?くそ、ここでも使えるのか・・・それは予想外だった」
今の月猫の格好はパンダのモコモコ着ぐるみパジャマである。
だが、彼女はその格好でもお構いなく出られる度胸を持ち合わせていた。
「・・・なんの用でしょうか」
「あれ?不機嫌だね。天邪鬼」
「ちっ、ポンコツの不機嫌なんぞどうでもいいっつーの・・・。おい遊びに行くぞ」
「え、ヤダ」
「あ?何つった?」
「行きます!!行かせていただきます!!」
目の前で生徒に恐喝される先生がいていいものなのかと思う酒呑童子なのだった。
彼もまた、まったりとした日常を過ごすために去ろうとした時、腕元に重みがあるのがわかった。
「酒呑童子先生?何行こうとしてるんですか?ああ、そうか・・・先生も遊びに行くんですね!」
「あ、月猫ちゃん冴えてる!いいね!酒呑童子先生もあそぼー!けってーい!」
「はぁ!?」
「・・・(ここまで来たら巻き込まさせていただきますよ先生!)」
一瞬で月猫が何を考えているのか悟ってしまう酒呑童子なのであった。
「先生の私服普通だね」
「酒呑童子先生はシンプルだけどイケメンだ」
「私、結構お気に入りなんだよねこれ」
そのTシャツには『ぐうたらにゃんこ』という猫のイラストが書かれてある普通に可愛いTシャツなのだが、黒ズボンを履いてるためか普通に見えてしまうようだった。
「でも、今から何しに行くの?」
「それはね、みんなで妖力使い放題なラウンドツーにいくんだよ!」
「え、お金・・・」
「え?お金もってきてない?」
「てっきり、公園で手毬するのかと・・・」
「古風!?」
その手に握られているのは手毬で、彼女は財布を持ってきていないようだった。
「先生、古いね」
「人間界の時は、お父さんが厳しくてねこういう古風なのでしか遊ばせてくれなかったからね」
「・・・月猫先生、俺が奢るけど?」
「え!?酒呑童子先生!?頭打ちました!?」
「んだと!?」
しかし、酒呑童子先生は純粋に奢ってあげようという気持ちがあるようだった。
「ただ、月猫さんって呼んでもいい、か?」
「・・・先生、」
「な、なんだよ!」
「給料、引きません?」
「俺をなんだと思ってんだ!てか、俺事は酒呑童子って呼べよ」
「それだけでいいんですか?」
「おう」
こうして、全員で『ラウンドツー』に行くことになったのだった。
さて、妖力で移動時間削減をし、たどり着いた『ラウンドツー』。
月猫は凄いはしゃいでいた。
「え、す、凄い!!建物がガラス張り!?」
「え、そこからなのか?」
「ポンコツ教師は置いといて、とりあえず中に入るぞ」
「天邪鬼、先生みたい!うける!」
「うっせぇ!」
一行が中に入ると物凄い電子機器に人数にタバコの匂い・・・
なれない匂いだらけな空間で、月猫は目を回していた。
「よ、妖怪だらけ・・・」
「そうだった、月猫ちゃん妖怪恐怖症だったんだっけ」
「それ忘れてた」
しかし、月猫は倒れることなく立ち上がっていた。
「これも、生徒たちのため・・・なれなくては」
「お、自覚出てきたのか」
「生徒たちに下克上するためになれなくては!」
「そっちかよ!」
月猫は意気込んでいると、不思議と震えが止まっていることに気づいた。
「あれ、怖くない・・・」
「思い込みが激しいんだよポンコツ。おら行くぞ」
「あ!天邪鬼くんまって!?」
そのとき、天邪鬼が大きい何かにぶつかった。むち打ちになったのか、鼻を摩っていた。
「・・・あ?」
「あ?」
「ちょ、天邪鬼くん・・・!?」
そこには図体の倍以上あるヤンキー集団らしきものがあった。