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なんで俺が異世界転移してるの?  作者: 特に何も考えてない
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6.生徒が増えた

「お願いします。俺達にも魔法を教えてください!」

「むっ」

「え…、ええええええええええええええ!!??」


オズ兄が土下座して、それで、魔法を教えてくださいって

な、なんで急に…


ふと、さっきまで居た方向を見てみると

両手で数える程のゴブリンやホブゴブリンがざっと十体以上倒れている。

あんなに居たのか…、そしてあの数をあの数秒で倒しちゃうなんて…


土下座してるオズ兄と僕を一瞥した後こう告げた。


「断る」


あっさりと切り捨てられてしまった。

彼のその声から、僕らに対しての興味を一切感じれなかった。


「お願いです。アナタから見て見込みがあるうちのメンバー数名だけでいいんです!だから、お願いします」

「断る。ほら、さっさと仲間の所に帰りなさい」

「……………」


それでもオズ兄は動かない。

そんなオズ兄を見たからなのか、気が付けば俺も隣に並んで頼み込んでいた。


「…理由は3つある。1つは俺に対するメリットの無さ、寧ろ今はデメリットの方が大きいな、この子の魔法の訓練を見る時間や稼ぎの時間を削ってやる程の理由が無い、教育費も出せないだろう?」

「俺達のは合間合間に見てくれるだけで十分です。…お金は稼げるようになったら必ず!」

「…2つ目は、俺じゃなくてもいいからだ。図書館には初心者向けの魔法基礎の本はあるし、街に魔法使いはそこら中に居るだろう。その中の誰かでもいいはずだ」

「俺たちは殆ど文字が読めません、学校にすら行った事が無い奴らが殆どです。それに、親しい大人は俺達みたいな貧民街出身の人ばかりで、それ以外の人にはあまり、まともに相手もされません」

「3つ目は、俺達がずっとこの街に留まるとは限らないからだ」


当然だ、引退した冒険者とかならまだしも、現役冒険者が同じ街のみに固執するのはクランに所属する者ばかりだ。数名のパーティーであれば街を転々とする事が多い。


「それでも…、それでも、構いません!」

「………」


オズ兄は強く頼み込む。

でもきっと無理だろう。

実際この兄ちゃんの言う通り、二人には何のメリットも無く、見知らぬ貧民街の子供にわざわざ魔法を教える理由もない。

…僕がオズ兄を無理やり引っ張って帰った方が怒らせないで穏便に済むかもしれない。

そう思った矢先


「明日の朝ここに仲間も連れて来なさい」

「そ、それって」

「全員に教える訳じゃない、魔法に適してる者だけに教える。そのための選定をするだけで、もしいなかったら諦めてもらうからな」

「それでも構いません!よろしくお願いします」


そう言うとオズ兄は僕を立たせ、手を引くようにこの場を共に去った。





「ユイお兄ちゃん、良かったの?」

「断って次の日人数を増やして土下座しに来られても困るからな」

「ユイお兄ちゃんって、なんだかんだ言って優しいね」

「聖人君主でない事は認めるけど、なんだかんだってどうなのさ…」


リアーナは本心からそう思って言った。

彼はお伽話の勇者のような、弱い人みんなに手を差し伸べて全てを救おうとする様な事はしない。

けれど、実際あの様に堅実に頭を下げられればどうにかしてあげようとするし。ちょっと前の私みたいに、誰かが手を差し伸べなければ消えてしまう様な人には簡単に手を差し伸べる。


彼女が慕う彼にはそういう優しさがあって、そういう強さがある。

普段は気怠そうな冷めた目をしているけれど、私を見るその奥の瞳には何処か優しく、包み込んでくれるような温かさを感じる。

共に居る時間はまだ短いけれど、その短い時間でそう確信できる程に包容力を感じるのだ。


「それよりお昼も近いし、ここらでご飯を食べに戻ろうか」

「うん!」





一度昼食を食べに街へ戻り、午後から昨日同様、森で邪族討伐と薬草採取をしていた。

でも、昨日までと違う所もある。

それは、私が今からゴブリンに、魔法でトドメを刺さなければいけないという所だ。


「いいか?しっかり狙って魔法を放つんだぞ。それから、目を瞑っちゃダメだ。怖いかもしれないけど、これからの生活をするには必要な事だから、頑張るんだぞ」

「う、うん」


ただ、そのわざわざ残した1体を、植物系の魔法で蔦を使って木に巻き付けて動けなくしている。

やっぱユイお兄ちゃんってちょっと過保護な所あると思うの。

ゴブリンは初めてだけど、村では家畜の鳥さんの解体の手伝いだってした事あるし。

…お母さんの亡骸だって見た。

だから、今更生き物を殺すのは別に怖くない。


そう強く思って魔法を放った。


ザクッっと刺さる音がした。

私がユイお兄ちゃんの魔法を見よう見マネで作った氷の魔法。それが刺さったのだ。


「グッゥ、ギャアアアアアアア!」


でも狙いがズレたのか、浅かったのか…とにかくゴブリンはまだ生きていて、必死に叫んでいる。

その苦痛な雄叫びに思わず体がビクリとした。


…怖い?

そう、怖いと思った。

今思えば。死にそうになっている生き物の必死な叫び声も鳴き声も聞いたことが無かった。


お母さんは静かに…ただ静かに亡くなっていた。

屠殺したあの鳥だって、薬で事前に動けなくしていたからこそ、無抵抗で静かに死んだのだ。


今思えばこんな光景初めてだ…

いつも守ってくれるユイお兄ちゃんは、相手に叫ぶ事さえ許さずに邪族を狩ってきた。


でも、コレが本来の殺すって意味なんだ…。

…怖い。気が付けば私は、体が震え、魔法を放った手を胸元に引っ込め、縮こまっていた。


「ガァ!ガァ!ガァァアア!」


その威嚇にまたビックリして、思わず後ろに下がりそうになったその時。

後ろからギュッっと抱きしめられ、頭を撫でられる。


「大丈夫、大丈夫だよ。なんて言ったって、俺が付いてる」

「ゆ、ユイお兄ちゃん」


彼を呼ぶ声が涙声で震えていた。

でもそれは恐怖から来るものでなく、安心感。

私を抱きしめてくれるこの落ち着く様な暖かい温もり。


落ち着く。

実は、お母さんが死んでから全然寝れなかったのに、ユイお兄ちゃんに出会ったあの日。初めて一緒に寝たあの日から不思議とよく眠れるようになっていた。

やっぱり、ユイお兄ちゃんの傍は落ち着くなぁ…。


「もう落ち着いた?」


そう聞かれて気が付く。既に体の震えは止まっていて、気分も落ち着いていた。

そして、いつの間にかユイお兄ちゃんに正面からギュッと抱き着いて泣いていた事に。


寝る時はいつも、手や腕を握って肩あたりにおでこをくっ付ける程度だったからかな?

なんだか急に恥ずかしくなって、少し熱く感じてきた。


私はユイお兄ちゃんから顔を隠すように後ろを向き涙を拭う。

さっきまで怖くて心臓がドキドキしていたのに、今はなんだか恥ずかしくてドキドキする。

これじゃあ何か別の意味で落ち着かない…。

と、とにかく深呼吸。


スー…ハー…、スー…ハーー…。

うん。落ち着いた。と思う。


「うん、もう大丈夫そうだね」


そう言いながら頭を撫でてくる。

…またドキドキがぶり返してきそう。

でもそれを振り切って

「うん、大丈夫!」と答える。


そして再びゴブリンを睨みつけ両手を前へ翳す。

ゴブリンは低く「グゥゥ、グゥゥ」と唸っている。

さっき私が放った魔法はいつの間にか魔力へと霧散していて、開かれた傷穴から結構な量の血が出ている。

もうだいぶ弱っている。


…次でしっかり終わらせるからね。

魔法に集中する。


私の魔力はまだ少なく、今使ってる魔法だけでも短時間で十発も使うと魔力を枯渇させ、フラフラになってしまう。そうなると魔法が使えない時間が生まれて効率よく鍛錬が出来ないそうだ。

そこで、まだ魔力での魔法構築が甘い点も改善するために教えられたのが、空気中にある自然の魔力を掻き集めそれで魔法を発動させる方法だ。


確か、今後より巧みに魔力を操れるようにする為の修行でもあるらしい。

一番最初の魔法練習で、自分の魔力を使い過ぎで意識が朦朧としたときはそれなりに辛かったから凄く便利だ。

これなら1日に何度使っても辛くなることも無い。


そして、自然の魔力を使った氷の魔法が出来た。さっきより良い出来だ。

でも、まだユイお兄ちゃんの使う同じ魔法みたいに、同じ大きさの魔法でも構築する際の魔力の量や密度が全然違う。

私もあんな風に出来るように頑張るんだ。


そして、放たれた魔法はゴブリンの頭に深々と刺さった。


…やった、出来た。

さっきみたいに体が震える事も無い。


「やったよ!ユイお兄ちゃん!」

「あぁ、よく頑張った。えらいぞ」


そう言って頭を撫でてくれる。

最初は、お母さんに撫でられた時みたいに暖かくて優しくて嬉しい気持ちに感じたのに。

今はなんだか、嬉し恥しい感じがする。


それからは倒していた魔物の魔石と部位回収をして、いつも通り薬草採取に戻った。

その後も何度かゴブリンやホブゴブリンが来て、残り一体だけ残して魔法を当てる練習をした。

さっきみたいな拘束されてるのとは違って動くから難しかったけど、それでも凄く怖く感じる事は無く、段々と当てるのにも慣れたし、魔法構築が少し早く出来るようになった。


でも、私を抱き上げ、近寄って攻撃してくるゴブリンやホブゴブリンを蹴りで軽くあしらいながら、私に魔法を撃たせるやり方は、なんだかよく分からないけど、凄くドキドキして落ち着かなかった。

だって、すっごく密着してて温もりが間近で感じられるんだもん。

正直そっちの方が大変だった気がする。





次の日の朝、いつも通りリアーナの魔法練習に行くと既に子供達が待っていた。


「おはようございます、今日はよろしくお願いします」

「「「よろしくお願いします」」」

「うん、おはよう」


子供の数は17名、ギルドの食堂で見る顔皆揃っているようだ。


「じゃあ早速適正を見ていくからそのままで居てね」


そもそもの話、魔力の適正云々は肉体に依存する。

言ってしまえば、基本は生まれた段階で適性が決まっている。

例外としては魔素濃度の高い地域で長年暮らすこと、これにより肉体が魔力の通しやすい体へと変化する。


いや、進化するとも言えるだろう。


また、生まれつき魔力量が多い子なんかは産みの親の魔力量が多い、妊娠期間中魔素濃度の高い場所での生活、力の強い魂が宿るといった原因がある。

しかし、これらは肉体に魔力適正が無ければあまり意味をなさない。


肉体の魔力適正は言うなれば、蛇口そのものだ。

口が小さければ一度に大量の水は出せないし、栓が壊れてればそれだけ出力調整が難しい。

頑張って使い続けようとすることで改善出来るが時間は掛かる。


それに、魔力量はレベルを上げることで増やす事も出来る。

なら魔力適正のある子に魔法を学ばせて効率よく実用的なモノにするのがいい。

その後は、どうにか自分で考えて力を伸ばして欲しいものだ。




うん、生まれつき魔力量が多い子は居なかった。

もし居た場合、その子が学んだ子から魔法を教わって使ってみた結果暴発したなんてことになりかねないからな…

とりあえず、教えればすぐ魔法を使えそうな子は3名、内1人は昨日居た小さい方の少年だ。


「という事で、この3人以外は今回は諦めてもらう」


そう言うと露骨にテンションが下がる


「だが、この3人から学ぶことは自由だ。わかったな?」


そう言った途端テンションが上がる

あんま騒いで年少組怪我させるなよ…?

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