表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんで俺が異世界転移してるの?  作者: 特に何も考えてない
6/8

4.初めての仕事

今日から冒険者としての仕事が始まる。


とは言っても、当面はリアーナの教育と体力作りが主になる。

なんて言ったって、先日までただの村娘で、しかも一日の生活ですら苦しい環境下で暮らしてきた為、体力が落ちきっているのは明白だった。


しかし、最低限仕事をしなければお金が稼げず、ちゃんと食わせていけないので、一日のサイクルの予定を立てる。


「午前中は図書館で勉強、午後は採取系の依頼と体力作り、夜も図書館で勉強。当分はこのスケジュールで行こうと思う。」


「わかった」


頷きいい返事をする少女、改めて見ても栄養失調が目に見えて酷い。

徐々に改善していくしかないよな…。



その後は、なけなしのお金で最安値の朝食セットを2つ頼んだ。

昨日ギルドに来た段階で1200C、最安値のセット料理が1つ150C、寝泊りに1人50C

そこに更に今食べてる朝食の最安値のセットを2つ頼んだ為、半分まで減ってしまった。

稼がないと明日には所持金がゼロになってしまう。


幸いだったのが、どうやら朝はセット料理が100C・2・3・4・500Cまでのようで、昼と夜に比べて少し安かった事だ。

それでも稼げるようになったら正直関係無いし、この最安値のセットしか頼めれない生活からは早く脱却したい。



朝食を食べ終えた後はすぐに図書館へ

午後の薬草採取を円滑に出来るようにする為にもまずは、薬草関連の本をと思ったのだが。


「そこの青年、待ちなさい。」

「はい?何でしょう」


入口近くのカウンターに腰掛けた壮年の男性が話しかけてきた。


「新人だろう?それなら今入ってきた扉横に飾られてある本を見るといい。ここらで冒険者をするなら、知っておいて損のない物だ。」


彼の話を聞き、視線を移すとブックスタンドに飾られた本が目に入る。

見ると冒険者向け図鑑 ポゼス編と書かれている。

厚みは2cm届かないぐらい、中身をパラパラと適当に捲ってみると、どうやらこの街周辺に生息する動物、魔物、植物の模写絵と特性。

更には、大まかな地図と土地の歴史や伝承なんかも書かれているようだ。

そういえばこの地図、最初に訪ねたギルドのカウンター上に額縁に入れて飾られてたな。


「その本は各ギルド支部が作るように義務付けられてる本でな、別の支部にも同じような物があるから、別の街に移った時にも先にそれを探すと良いぞ」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます。おじいさん」

「うむ、お嬢ちゃんも頑張ってな」


早速席についてこの本を読み進める。

目次を見たところ、地域別に纏めて情報が乗っているようだ。

地図と照らし合わせると俺とリアーナが出会った森は"邪生の森"と呼ばれているようだ。

現れる魔物も邪族が主で…


「うん?邪族」

「うん、邪生の森は魔獣は滅多に出ないの。邪族達の森なの」

「…あぁ、邪族や魔獣を一纏めにして魔物って呼んでいるのか」

「その他も居る」

「その他?」

「魔獣は、普通の生き物が変異したモノの事なの」

「じゃあ、その他は?」

「その他は、その他だよ」

「んー?」


お、これについて乗ってるな。なになに…

魔獣とは、自然の動物、虫、植物がその地域の魔素によって変異したり、その後に種として定着した物達の事を示す。

うん、これに関しては知ってる。


邪族とは、太古に封印された邪神の眷属共の事を示す。


それ以外に、魔素によって生き物が変異した魔獣とは違い、生き物を媒介にせずに魔素のみで生まれる魔物も居る。


なるほどね。

魔力を媒介に肉体を作り出して生まれる魔物をその他と記してるのか。


「むー…」


膝上に乗せてたリアーナが膨れてしまっている


「ごめんごめん、一応本に載っているのも読んでおこうと思って。」


ちなみに、リアーナは読み書きや計算なんかは最低限習ってるそうだ。

ただ、途中から学校には行けなくなってしまった為、高学年の授業は習っていないそうな。


その後、お腹が空きだすまでその本を読み続けた。

とりあえず、低ランクにオススメとされていた邪生の森の項目は読み終えた。


その中でも特に興味を引いたモノは邪族についてだ。

邪神の眷属とされているがおとぎ話の域を出ていないようで、そもそも邪神自体が太古の存在らしく、数万年前に例の人々を導く美の女神が邪神を討った後、世界各地で現れた種族らしく、明確な繋がりなどはハッキリしていないそうだ。


ただ、邪神が滅ぼした街や国の跡地にのみ邪族が生まれる様だ。

この仮説通りだと、邪生の森は元々人々で栄えていたことになる。

更に、邪神による最初の被害があの地とされている。

故に、邪生の森と呼ばれているとか。


そして邪族の生態について


これもかなり興味を引くもので、邪族はどの魔物よりも数が多いと言われており、その理由の1つが先ほど書かれていた、生物を媒介にしないで魔力や魔素のみで生まれる。コレが邪族の最弱種であるゴブリンに当てはまるらしい。

勿論、普通に交尾して数も増やす。

そして、人と交わる事で、上位種を生み出し、更にその上位種が人と交わる事で更に上位種を生み出す。

こうして他の魔物とは比べ物にならない速度で数を増やすそうだ。


幸いなのが、上位種になるに連れ出産までのサイクルが長くなることだろう。

それでも、確認出来ている中でも半年と掛からない。と書かれている。


そんな邪族達の行動パターンは人に固執している様で、見かければ問答無用で襲い掛かってくるそうだ。

更に、上位種は肉体的にもそうだが知能も良くなり、人の痕跡発見からのそのまま追跡なんかもしてくるらしい。

ここまで来るとどっちが狩りをしているのか分からないな。


邪族は厄介な上、一度数が増えると対処出来なくなる事例も有った様で、とにかく気を付けるようにと何度も書いてあった。



とりあえず、採取系の依頼もこれでやれるはずだからお昼を食べた後はお仕事をしなければな。

もう明日食べるお金も持ち合わせてない。





ということでやってきました邪生の森。

とは言っても、今は街の外壁が見える森の入口だ。

それから、来る途中でちゃんとなけなしのお金で買い物も済ませたから準備万端


この辺では見るからに貧しい子供が薬草探しをしている。

ま、現状貧しいとか人の事言えませんけど。

服だっていつまでもこれを着続ける訳にはいかない、というか絶対目立ってるよジャージ…。


さて、俺たちも深い場所に足を踏み入れずに、此処で子供たちに混じって薬草採取するのもいい。

しかし、主に治療薬に使われる薬草は、日の当たりが薄い場所に生えるらしいので奥に行かない手はない。


そもそも、子供たちが明らかに効率が悪い此処で採取し続けるのも、邪族に遭遇した時の為だろう。

此処なら大声で叫べば街の門番まで声が届く、まぁこんな森の隅っこに邪族が出てくるのは珍しいだろうから、危険が少ない事も容易に想像付く。


しかし、俺達は遭遇した方が美味しい。

薬の素材もそうだったが、この森の邪族は常に討伐依頼が出されてる。

討伐した証に指定された体の部位を見せれば、それだけでお金が貰える。

更に魔石も売れる。そして数が多くて弱い。


こんな美味しい仕事はそうそうない。

まぁ、それだけ厄介な相手だって事だ。


本来、FランクとEランクのペアでは、討伐依頼は受けられない。

しかし、偶然襲われた場合は別だ。

たまたま倒してしまったなら、依頼は達成として扱われる。

フフフ、これならここらの一般冒険者と同じレベルで効率よく稼げる。


(ぁ、ユイお兄ちゃん悪そうな笑みをしてる…。)


そんな事を考えながら森に入っていく。



森に入ってすぐ、魔力で周囲の索敵をし始めると、思いの外簡単に薬草を発見。

あっちこっちの木の根元に生えている。

あと、低木なんかに隠れて複数個あるようだ。

ほんと、日陰になりやすい場所に生えてるな。


早速採取をし始める。


「しかし、森で迷ってた時によく見かけてたコレが薬草だったとは」

「私は、お母さんと一緒に森によく入って取ってたから知ってたよ」

「そういえば言ってたな、…うん?」

「どうしたの?」


手を止めることなくリアーナが聞き返してくる。


「この薬草と邪族の説明に、肉食系の魔物はこの薬草の切り口から出る特徴的な匂いを好まず、避けて行くが、邪族はこの匂いの先に人が居る事を知っているから寄ってくるって書いてあったけど」

「うん、それがどうしたの?」

「リアーナは、お母さんと二人で森の中まで入って薬草とか木の実を取ってたんだよな?」


そう、リアーナからそういう話を昨日聞いたのだ。


「そうだよ」

「寄ってきた邪族とかはどうしてたんだ?お母さんが元冒険者で退治してたのか?」

「違うよ?私、ゴブリンの実際に見たのって一昨日が初めてだったよ」

「じゃあなんで、今まで森で邪族に合わなあったんだ?」

「お母さんが魔除けだっていつも森に入る前にお祈りしてたから」

「へぇ、どんなお祈り?」

「いつも首に付けてるネックレスを両手で挟んで、ぎゅってお祈りするの」


リアーナは作業と止め、しゃがんだままこっちに向き直り、仕草を交えて教えてくれた。


「そっか、リアーナはお母さんのお陰で安心して森に入れてたんだな。」

「うん!」

「でも、今回からはそうはいかない」


スッと立ち上がり、一点の方向を睨む。

まだ姿を出してないけどさっきからずっと索敵に引っかかってた邪族4体がこちらに近づいてきてる。


リアーナを後ろに引き寄せてから、先手必勝、2日連続で氷の魔法を放つ。

氷柱状に生成された魔法数発は、茂みの中へ入り込み、その直後に短い悲痛と何かが地面に落ちる音が返ってきた。


しっかり命中し、絶命したようだ。

リアーナも連れて死体を確認しに行く。

そこにはゴブリン4体が頭部に氷柱が生えた状態で仰向けに倒れていた。


「凄い、綺麗に頭に刺さってる」

「さて、確か邪族は右耳で良かったんだよな」


魔力のナイフで耳を切り取り、血で汚れると嫌なので水で血を抜いてから買っておいた袋に入れていく。

その作業をリアーナはジーッと見てくる。


「…やってみるか?」

「!、うん」


俺からナイフを受け取り、見様見真似で耳と掴み切り取る。

そして俺が出した水の中で耳をほぐし血抜きをした後、水を軽く払い袋に入れる。


「ついでだし魔石もやってみるか?」

「うん、やる」


まぁ皮を剥ぐとかじゃないから素人でも簡単に出来るだろう。

リアーナは俺の指示通り、心臓下をナイフで切り込み、手を入れて心臓を引きずり出してみせた。

後は心臓を切って中から魔石を取り出す。

繊維が魔石に繋がっていた為、抜くときにブチブチっと音がする。


後は魔石を水で綺麗にしてたから『出来たよ!』と魔石を見せてくる。


「よし、傷つけないで綺麗に取れたな。偉いぞ」

「うん!」


そう言って嬉しそうに返事をする。

良かった、こういうのに一応耐性があるようだ。


「さてと、残りのも取ったら、また薬草採取して、ゴブリン達が寄ってくるのを待つか」


その後も夕暮れになるまでこの繰り返しをし続け、薬草も両手で持つほどに、ゴブリンの耳と魔石も袋から重みを感じれる程に溜まった。

ホブゴブリンも数匹倒してるし、これを毎日と考えると食事と宿は大丈夫そうかな。

薬草に関しては10本で1束として買い取ってるので買ってた麻縄で束にしてある。


その後は真っ直ぐ街に戻り、

ギルドのカウンターで薬草を換金

1束150Cで12束渡して1800C

邪族の討伐

ゴブリン1体50Cで30体討伐で1500C

ホブゴブリン1体300Cで4体討伐で1200C

総額で4500Cが手に入った。


めちゃくちゃうまい、昨日の魔石だけ売った金額の3倍だ。

ここで魔石を売ればもっと金額が凄くなるけど、売らない。

なぜなら、この魔石でレベルアップをすることが出来るからだ。

とはいえ、この34個の魔石をすべて注ぎ込むのは流石にリアーナの魂に良くない。


しかし、何故か邪族の魔石は、普通の魔物の魔石に比べると力が弱い。

本来、肉体には適した魂が宿る物だ。

しかし、実際に邪族の魂を取り出してみるとびっくりするぐらいスカスカだ。

ということで、今回はゴブリンの魔石だけをすべてリアーナのレベルアップに消費し、ホブゴブリンのは売却することに。


ホブゴブリンの魔石分も合わせ、6500Cの儲けとなった。


「それで、残ったゴブリンの魔石30個、全部をそちらの子のレベルアップに消費、でよろしいのですか?」

「えぇ、リアーナもそれで構わないか?」

「うん、私も早く強くなりたい。」

「ということで、お願いします」

「かしこまりました」


職員さんは魔石を受け取るとそれをすべて装置に取り付けられた筒の中に入れてた。

この装置で魔石を消費して、対象のレベルを上げる。

初日からこれでレベルを上げることが出来るのは気付いていた。

何せ目立つから。

「レベルが上がった」「足りなかった」

といった声がこのカウンターから聞こえて来ていたからだ。


リアーナが職員の指示通り、手を付け、装置が稼働を開始する。

魔石はその物体としての形が保てなくなり、すべてが魔素と魔力に帰す。

そして、それはリアーナの中へと吸い込まれるように流れていった。


「はい、終わりましたよ。良かったらレベルの確認もどうぞ。」

「う、うん」


4(=)


流石にスカスカとはいえ30個の魔石、レベル2から一気に2つも上がり、レベル4となっていた。

そして、後ろに付いてる記号?も変化がある。

やはり、この子の中でリアーナとは別の魂が生まれ、成長している様だ。


多重人格、その可能性はある。

しかしその場合、先天性の…例えば、

胎児の時に双子だったとして、片方への栄養不足や片方の胎児によるもう片方の侵食。基、同化などによって生まれなかった場合に1つの肉体に複数の魂が直接宿ることもある。


しかしその場合、物心がついて間もない頃にもう1つの魂も意思がしっかりするようになる。

つまり、その器本来の魂とともにもう1つの魂も成長する。

であれば、このような、片や数値、片やバグった様な記号として表示されることはないはずだ。


そもそも何故正常に機能していないかだが、やはり正しく測定できていないからだろう。

それが人の目から見れば低すぎてこうなっているのか、高すぎてこうなっているのか、それも分からないはず。



しかし、もしもこれが後天性のものと考えると納得がいく答えが二つある。


一つ目は、心的ショックによる人格形成。

魂は意識の塊の様な物だ。

無意識とはいえ、既に魂が掌握している器の中に別の入れ物を作ってしまえば、その中に魂が入り込んだり、生まれる事もある。


二つ目は…、正直コレが一番最悪のパターンだが。

何かの媒体として選ばれたパターンだ。

これの場合、大体はその入り込む予定の魂が強大すぎて、結果的に本来の宿主たる魂が破壊される可能性も十分あり得る。

勿論、肉体にも負荷が掛かる。


ただ、これも救いが無いとは言わない。

これは彼女自身の問題になるが、己の魂をより強く、強固で、確かな物として成長すれば、追い返すは無理にしても、崩壊は免れ、肉体の主導権を一時的にでも奪う事も可能になる。

しかしこれは、その相手が強大すぎる存在だった場合、自身の魂を食われたりする事もある。


そう、もし彼女を媒体に何かが出てこようとしているのなら、もうカウントダウンは始まっている。

俺が直接手を加えた所で、リアーナの体に新しい魂が根付いてしまった時点でそれを引き離そうとすれば、リアーナ自身を傷つけてしまう可能性だってある。


実際どういう理由でこうなったかは分からないが、今後の彼女のレベル上げにはあまり惜しまない方が良さげだ。




レベルの測定も終わったリアーナが台から降り、こちらに戻ってきた。


「よかったな、2つもレベルが上がってて」


そう言いながら頭を優しく撫でる。


「うん、えへへ」


その後、そのまま食事をとりに酒場へ足を運び、今日から食事のグレードも上げる。


「リアーナの初レベルアップを称して乾杯ー」

「カンパイ―」


二人、ジュースで乾杯をし食事を進める。

久々にしっかりとした食事だ。

最安値のは量少ない、具が少ない、肉が見当たらないという、本当に悲しい食事で味も薄い。

それが、量も具も増え、味もよく、肉も入ってる。


ふと、子供たちの集団が目に入ったのでそちらを見てみると、朝に森の入口で見かけた覚えのある子供たちが羨ましそうな目でこちらを見ている。

あの子たちの食事は、今日のお昼まで俺たちが食べていた、最安値の物だ。

改めて見ると本当に少ない、食べ盛りにとって、明らかに足りない量だ。


というか、よくよく見ると…結構色んな所から視線を感じる。

少なくとも、酒場内にいる冒険者たちは、食事をしながらもチラチラとこちらを見ている。

初日から稼ぎすぎたか…?

武装もしていないルーキーがいきなりあの量の報酬を受け取ってるのだから、そういう目で見られるのも仕方がないか。


なるべく早く、長期で止まる宿とか決めた方がいいかもなぁ…。

そう思いながら、久々のしっかりした食事を噛みしめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ