Ep5 もう一人の王子
①~④ 誤字脱字、文脈の修正などを修正加筆しました。
ご指摘、感想、ブクマありがとうございます!
「もう少し早くたどり着くかと思っていたけど、ギリギリ及第点ってとこだね、アルベリク」
まだまだだね、とからかうように言いながら彼にも紅茶を勧める。
「……あんなに複雑な術式を使っておまけに隠空間のダミーを嫌ってほど作っておいて何を……」
憮然とした表情で答え、国王から奪い返したリディアーヌの腰を抱いてホールド体制のアルベリク。
(な、なんでこんなことに?)
あまりの展開にリディアーヌはされるがままだが、気づけば自分がとても恥ずかしい体制で抱えられており激しく動揺した。
「強引すぎる男は嫌われるよ? ね、ベラもそう思わない?」
国王はあきれたまなざしを投げ、隣で茶を飲む王妃に問いかけた。
「あまりこの子をからかわないであげて……でも、アル警告します。リディを離しなさい」
夫と息子どちらにもに呆れながら、王妃は今にも火を噴きそうな顔色をしているリディアーヌを気遣いアルベリクを睨んだ。
「リディ、ごめんなさいね。今までの話しでだいたい気付いているかだろうとは思うけど……そこのルイス、ああもういいわね、アルベリクは私たちの息子よ。そしてシュナウザーとは双子の兄弟です」
ああ、とリディアーヌはうなずく。
「はい。陛下のお話しを伺いながらそうなのかな、と考えていました……」
(彼のことはこれから何て呼べばいいのかしら?)
「リアが呼びやすいように呼んで。でも、できれば本当の名前を呼んで欲しい……」
(え?!)
驚いてアルベリクの方へ顔を向ける。
余りの距離の近さにぎょっとして離れようとするが、離すものかといわんばかりに彼はリディアーヌの腰を抱く手に力を入れた。
「アル、は皆が使っていおるし……できればリアだけの呼び名がいいなぁ」
「え? え? あの、その……」
バキッ!!
すさまじい音とともに、一瞬でアルベリクは後方に吹き飛んだ。
「離しなさい、と警告したでしょうに。それを無視した揚句、更に距離をつめて不埒なことをしようとするのだから吹き飛ばされても文句はないわよね?」
(……ベ、ラさま?)
リディアーヌはぽかんと絶句してしまった。
「あはは、うちの奥さんの拳は相変わらず破壊力抜群だね! アル、回復だけはかけてあげよう。ほら、言うこと聞かないと次はないよ? 私も吹き飛ばされたくないからね」
国王はやれやれ、と言いながら回復をかけていた。
(さっきも思ったけど……陛下って発動するまで魔力を練っていることに気付かせないのね)
二重三重の驚きに思考が停止しそうながら、リディアーヌは国王の力に驚いていた。
「リディ、うちの奥さんはね ”ブルーエルフィンの戦狂姫” って二つ名持ってるんだよ?」
パチンとウィンクをしながら国王は魔法で散らかった空間を整えていく。
(そういえば……さっきの陛下のお話の中に胸ぐらつかまれたとか駆けずり回ったとか、王妃様に似つかわしくない表現がいくつかあったけど、聞き間違いじゃなかったのね)
途端に気が遠くなるリディアーヌ。
少し離れた場所では王妃とルイスもといアルベリクが親子喧嘩? に突入したようだった。
(……もう、帰りたい……)
いろいろありすぎて既に限界だった。情報の整理が追いつかない。
ゲンナリとしたリディアーヌに気付いた二人は慌てて親子喧嘩を停止した。
「ベラ、アル。本題に戻っていいかな?」
「「はい……」」
「よし。すまないけど、リディはもう少しだけ付き合って?」
(どうせ帰り道わかりませんし……)と諦め気味にリディアーヌはうなずく。
「本題とは、さっきのお願い、だ。どうだろう? 君の気持ちは最大限尊重したいとは思う。もう王家とかかわりたくない! と思ったとしても仕方ないことだ。愚息たちはそれだけのことをしたからね」
でもね、と優しいまなざしで国王は続けた。
「シュナウザーのやり方はどんな理由があったにせよ悪手だった。でも、それをする理由もあった、それだけはわかってやってほしい。だからもう一度王家に、愚息達にチャンスをくれないか?」
”お願い””チャンスが欲しい”国王はそういった。
リディアーヌは臣下の娘だ。いっそ命令してくれれば楽なのに、と思う。
「陛下、ご命令とあれば私にもちろん異存はございません。臣下の務めとして謹んで拝命いたします」
臣下の礼をとり、リディアーヌは答えた。
寂しそうな表情で国王は顔を上げるよう彼女に告げる。
「……そうだね、命令、ならきっと君は何があっても受けてくれるよね。でもこれは、王命ではなく、ひとりの父親としてのお願いなんだ。
君への謝罪と親としてちょっとばかりのおせっかい、というのかな? アルの子供のころからの恋心へのエールもあってね」
「こ……? え……?」
リディアーヌの顔かボンっとゆで上がったように真っ赤になってしまう。
「ち、父上!!なにを勝手に!!!! これからゆっくり口説いていこうと
………あ………」
ニヤニヤとこちらを眺める国王に苦い顔をする。
「じつはね、シュナウザーとアルベリクは神殿の選定を受けてないんだよ」
内緒だよ?とほほ笑む国王に、リディアーヌは本日何度目かわからない深いため息をついた。
「また、内緒ですか。王家は内緒が多いのですね……」
「ふふふ、だね。
双子は6歳まではまったく同等に育てるんだ。より適性のある方が王になるから。同等、というよりも、同一に育てるという方が近いかな。で、6歳になり教育が規定に達すると神殿で選定をうけて神託を仰ぐ。んだけど、アルはなぜか選定前に影になるって自分で勝手に宣言しちゃったんだよ。
当然許されない事だ。でも、この子は『好きな女の子をやがて起こる災厄から守るんだ』って、聞かなくてねぇ」
国王はクスクスと笑い、アルベリクをからかうように指差した。
「父上……あなた相当面白がっていませんか?」
げんなりとした顔のアルベリクは恨めしそうにしている。
(な、なんだかよくわからないけど、陛下がとても悪い顔をしてる……)
王妃は、混乱するリディアーヌをただ優しく抱きしめた。
小さく「ごめんなさいね、巻き込んで…」と言いながら。
(なんなの、シュナウザー様の暴挙の理由? ルイ、いえアルベリク様の好きな女の子? それに双子って言ってもお二人は顔も体つきも全然ちが……あ、認識阻害?)
時折ルイスから強い、まるで呪いの様な魔力を感じることがあった、とリディアーヌは思い出す。
(しかも彼が5歳の時……? 私、婚約どころか顔合わせすらしてない……私、なにかを忘れて…? でも、もうだめ、何も考えられない……)
子供のころのことを思い出そうとしたが、靄がかかったようで記憶が曖昧なことに気づいたが、深く考える前に限界が訪れたリディアーヌは意識を手放した。
設定集を作成中ですが、ネタバレを含むので一部完結してから掲載します。
王妃様は武闘派でした^^
国王は建国以来、随一の魔道士です!