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その日は結局社長に会わずに終わった。
翌日は朝から社長にくそ程嫌味を言われたが、辞める決心はついているので聞き流した、どうでもいい。
昨日と一昨日はナビも静かで、特に変わった事もない、社長が機嫌悪いのと少しやつれてきたことくらいか。
今日は二台分のそこそこでかい搬入があったので、おっさんの推薦で俺がペアを組む事になった。
荷物を積み込んでから、現場に向かう道中でおっさんから着信がある。
「はい、どうしたんすか?」
「いや、一昨日の夜の話なんだがよ、あれ本気か?」
銀行に行って色々確かめた日、おっさんに適当に遅刻の理由考えて言っといてくれと頼んだら、原因はわからねえがとにかく内臓が痛えらしいから病院行くらしい、とか言ってやがった。
仕方ねーから話合わせる為に早退したんだが、病院に行く訳にもいかねーし、食あたりで下痢が止まらないだけだと説明しなおしといた。
さておき、早退した日の夜、おっさんが電話をかけてきて、
「おまえ腹大丈夫かよ?」
とかマジのトーンで心配してくるから、おっさんが中卒なのは深い理由があるわけでもなく、単に馬鹿なだけなんだな、と確信した。
その時の電話で、俺はこの振り込まれた金に手を付けるつもりだという事を話し、ついでに会社を辞めてしばらくニートをしようと思っていることも教えた。
昨日はおっさんとは会ってないし、話してもねえ。
「会社すか? 辞めるつもりすよ。」
「辞めるのは別に構わねえんだが、そうじゃなくて金だよ、使うんか?」
「勿論すよ、じゃないとニートできねえすから。」
「いやでも何か怖くねえ?」
「使ってどうにかなるならそれでもいいっすよ、言ってなかったすけど、俺も死ぬつもりだったんす、デブの兄ちゃん轢いた日。」
「簡単に死ぬとか言うなや……。」
おっさんてめえこの野郎、ギネス級のブーメラン投げてきてんじゃねーぞ。
「いやいや、お互い様やないすかそれ、高校生の夢見て死にたくなったって言ってたっしょ。」
「言ったけどよ……。まあいいや、でもよ、仮にそれ使ってもなんも問題ないとしたらおまえ、送りで生計立てんのか?」
おっさんには異世界送りで統一しようと伝えてある。
長いので異世とか送りとか言ってるんだが、人前で話す時に物騒な単語を使わなくて済むからってのもあるし、運送業だから聞かれても伊勢に送る便ですよとかなんとか誤魔化せそうだしな。
何より俺達の心にかかる重さが全然違う。
殺したんじゃなくて異世界に送ったんだ、輸送だよ輸送。
「どうなんすかね、送りがどんくらいのスパンでくるのかわかんねーし、っていうかもう来ないかもしんないすからね。」
「まあおまえの場合はナビだもんなあ、でも俺は携帯変えても来てたからよ、他の方法で来るかも知んねーぞ?」
「いや、仮に俺もスマホに来たとしても送る道具がないっすよ、何も持ってない俺の目の前でトラックに轢かれても俺が送った事にはならねーっしょ。」
「押せばいいんじゃねーか?」
「は?」
「いや、よくドラマであるじゃねーか、駅のホームで線路に後ろから押すみてーなの。」
「いや、流石に殺す気満々で送りたくはないすね……。」
「まあそうだな、それじゃあ殺し屋だな。あ、もうすぐ現場つくから切るぞ、この先の丁字路左行ってすぐな。」
「うぃっす、じゃあ現場で。」
駅のホームで後ろから押す、ねえ……。
デブは不可抗力だし、社長の娘の時は社長がムカついてしょうがなかったから、頭真っ白で咄嗟にアクセル踏んじまったんだが、明確に「さあ、こいつを今から殺そう」ってつもりで殺した事はないな、それは多分おっさんも同じだ。
出来るんだろうか俺に。