中年連続殺人鬼からの情報
「は? 何だよ、おまえわざわざ俺の話に被せて何がしてーんだ?」
いやいや、信じるとこだろそこはよ。
「言った通りなんすよ、俺もわけわかんねーメッセージで人殺しさせられてんす。まだ二人なんすけど、二人共光って消えたとこまで同じなんす。」
「え、え? マジか? あれ、そうなの? お前もなの?」
何だよこのおっさん、察しが悪すぎるぜ。
「マジなんす、ただ、ちょいちょい違うところがあってすね、俺の場合、名前は殺すまで出ないんすよ。」
「じゃあお前誰殺すのかわかんねーじゃん。」
「そうなんす、ただ、殺した後に名前が出るんすよ、そんで、知らない国の名前とか、能力がどうとかも出て来るんす。」
「じゃあどうやって殺すんだよ? 住所だけで行ってもどいつかわかんねーだろ。」
ナビの事は言うべきだろうか。
これを言うって事は、今ゴールにいるって事もバラすことになるんだよな……。
いや、おっさんは全く知らないんだ、誤魔化しようはある、か。
「ナビが始まるんすよ、いきなり。ナビ通りに行ったら、目的地に独りだけ人間がいるんす。」
「じゃあよ、今のこの画面は……」
「いや、今は違うんす、これ普段ずっとこの画面なんで最近。走ってたらいきなり声で案内が始まるんすよ。」
「ふーん……。」
多分これでいけた筈だ。
おっさんの話じゃこれは無視しても問題なさそうだしな、少なくとも無視してたおっさんは今こうして生きてる。
「これ、社長の娘殺した後に出て来た画面すよ。」
おっさんに昨日スマホで撮った写真を見せたら、首をかしげた。
そりゃそうだよな、こんな画面見てもわかんねーわ。
「二人殺したって言ってたよな、一人目の時はどうだったんだよ。」
「一人目は見た事もないデブの兄ちゃんで、名前は吉田慎一郎っすね、検索履歴に残ってるんで間違いないす。」
「吉田慎一郎ってやつもさっきの携帯の写真みたいなのが出たのか?」
「そっすね、アルガスト皇国って書いてました。」
そんな国聞いたことねえな。
そうくると思ってたが、意外な事におっさんの口から出た言葉はその逆だった。
「アルガスト皇国っていやあ、俺がガキの頃に流行ったボードゲームにあったな。」
まさかの情報だが、どういう事だ、流行ったんなら検索した時に出て来てもおかしくないだろ。
「まあ流行ったっても一瞬だったけどな、ゲームの名前は……、何だったかなド忘れちまった。俺は貧乏だったから買ってもらえなかったんだよ懐かしいな。」
そうか、ボードゲームの設定にあるだけなのか、余程社会的ブームにでもなってなけりゃ、そりゃアルガスト皇国だけ検索しても出てこねー筈だわ。
じゃああのデブの兄ちゃんは、そこにいっちまったんだろうか。
でも別にそのゲームの話だって断定できた訳じゃねーしな。
「全魔法付与? 才能付与? みてーな事が書いてあったんすよ。」
「そりゃすげーな、全部の魔法カードが使えるようになるにゃ、最初のサイコロで四回連続6出さなきゃならんのだぜ?」
わけわかんねーわ。
ボードゲームの話なんかしてないっての。
ただ、まあそのゲームにも似たような設定はあるみたいだな。
「で、話戻すんすけど、殺した後とか、いや、前でもいいんすけど、いつもと違った事があった日とかなかったんすか?」
「いつもと違った日ねえ、とくにねーかな。」
やっぱりこれ以上の情報は手に入らねーかな、いや、十分だ、俺だけじゃなかったって分かったのがでかい、他にもいるかもしんねー。
「いや、一回あったなそういや、いつも大抵即死か、そうじゃなくても死んだ後に確認するんだけどよ。」
あるんじゃねーか、さっさと言えよ。
「一度だけ、まだ死に切ってねーときに近付いたことがあるんだわ、そん時、意識はなかったみてーなんだがよ、なんかぶつぶつ喋ってたんだよ。」
「何て言ってたんですか?」
「確かな、勇者がどうとか、異世界がどうとか、ステータスオープンだとかチートだとか、単語しか聞き取れんかったけど、誰かと会話してるみてーだったわ。」
ただの死に際のうわ言とも取れるが、今までの状況から考えて、どっちかっつーとマジで誰かと会話してるって受け取る方が自然じゃねーかな、例えば社長の娘もデブの兄ちゃんも、俺が殺したから他の世界、ボードゲームだったり乙女ゲーム? だったりの世界に飛ばされた、いや、0歳からって書いてたから転生って言った方が正しいかもな、デブの方は。
こう考えたら辻褄があうんじゃねーか。
おっさんが言うには、殺したやつはみんなこっちの世界に未練が無さそうな奴ばっかりだったみてーだし、デブは知らんが社長の娘も引きこもりだったんなら似たようなもんじゃねーかな。
死にたいやつら、死んでもいいって考えてるような奴らが、スマホやらナビを通して紹介される。
された方は殺して、殺された方は異世界に転生する、その先にどんな人生が待ってるのかは知らねーけど、これなら殺された奴らは俺達に恨みなんか1ミリもないって事になるよな?