ある高校生の死
「おまえ都市伝説って好き? おもしれー話があんだわ。」
トラックの中で突然おっさんがそんな話を振ってきた。
興味なんかねえけど、今まさに都市伝説にでもありそうな状況にいるよ。
面倒だから無言で返すと、おっさんは勝手に喋り始めやがる。
「携帯ってみんなもってるじゃんか、で、その携帯がガラケーからスマホに変わり始めた頃から出始めたらしいんだけどよ、ある日突然携帯にわけわかんねー画面が表示される事があるんだと。」
知らねーよどうでもいいわ、さっさと駅につかねーかな。
ナビも地図は動くのに常にゴールにいるし、やっぱりどっちかが死ななきゃなんねーのか?
「でよ、その画面ってのがよ、人の名前と住所だけで、後は真っ黒らしいんだわ。でも当然そんな画面を出した覚えはないんだよ。その画面を見たほとんどの奴らは、わけわかんねー、って無視するか、電源切ってみたり、故障じゃねーかって電話会社に問い合わせたり、まあそんなところだわな。」
試しにその住所に行ってみたら……、とかいう話だろわかりやすい&くそつまんねえ。
「でよ、試しにその場所に行ってみたやつがいたんだと。そこに何があったと思う?」
うるせえな、見えない崖とか廃屋とか、墓とか悪霊とかがいて殺されでもするんだろ。
じゃあ誰がその噂広めたんだよっ! ってツッコミまでお約束のやっすい話だぜ。
「その場所に辿り着くと人が居てな、気になるからトラックから降りて名前を聞くと、画面に出てる名前の奴だったんだよ。」
一番避けたいストレートな展開だな、出会い系アプリの都市伝説かよ。
「で、その画面の話をして、何の不具合でしょうかねなんてだべってよ、まあ謎だらけだけど取り敢えずこの辺で帰りますわ~、なんて別れようとしたんだよ。」
なんだそりゃ、オチもないのか。
やっぱり幽霊だったパターンか。
「でよ、トラックの運転席から前を見てもさっきまで話してた奴がいねーんだ。あれ、もうどっか行っちまったのか、まあいいやって取り敢えず発進するじゃねーか。そしたらよ、タイヤが何かに引っかかって中々前に進まねんだ。縁石でもあったかなってアクセル強めに踏むわけよ。そしたらよ、何かに乗り上げて、すぐに降りたんだよ、前輪がよ。」
なんだ、この話……。
何でトラックの話になってんだ?
画面の名前の奴は何だったんだよ。
「後輪はさ、わりとスムーズに抜けた訳よ。なんでだと思う? すでに前輪が乗り上げた時に潰されちゃってたからだよ。一速でよ、ゆっくりゆっくり潰される気分ってどんなもんだろうな。」
「潰される……って?」
「お、聞いてねえのかと思ったら聞いてたのか、まだわかんねーのかよ、会話して、トラックに乗り込む間に、そいつ倒れてたんだよ。前輪の前に頭が来るようにな。」
「なんすか、その話。まるで自分のやった事みたいに喋るじゃないすか。」
「そうだよ。」
「そうだよ……って。」
「都市伝説なんかじゃねえ。俺が殺した。高校生の兄ちゃんだったよ。学校で虐められてて、もう死んだ方がマシだって言ってたな。
思いついちまったんだろうな、こいつのトラックに頭から轢かれれば、万が一にも助からずにあの世に行けるんじゃねーかってよ。」
「何で、そんな話を俺に……。」
「実はな、その一回だけじゃねえんだ、それが出たのは。それよりよ、俺は確かに高校生を轢き潰した。でも今もこうして社会の歯車やってる。何故だと思う? 捕まっててもおかしくないだろ?」
まさか、これって、このおっさん、俺のやった事に気付いてるのか?
回りくどく責め立てて、金でもせびろうって腹か、それとも義憤にかられて自首でも促そうってのか。
「死体が消えでもしたんですかね。死体が無ければ捕まえようにも事件にすらなりませんし?」
気付いてやがるとしてもこう言われたらどうしようもないだろ。
「よくわかったな。そうなんだよ、確認の為に降りて見たらよ、俺の目の前で死体が光って消えちまった。」




