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会社辞めて異世界送り業するわ  作者: 旬のからくり
3/22

死の上の平和

 翌日、社長はいつにも増してすこぶる機嫌が悪かった。


 大事な娘が帰ってこないんじゃ当たり前か、死体は消えちまったし家出とでも思ってんのかね。



 ただ、今日は朝礼だけしてとっとと帰っちまったから、下らねえ八つ当たりはくらわなくて済んだ。



 

 そういえば昨日気になった事がある。


 仮にあのナビが俺に人殺しをさせようとしているなら、トラックで轢く必要はあるんだろうか。



 完全に停車した時、ナビは目的地まで徒歩2分とか言ってたからな。



 まずは取り敢えず、ナビが人殺しの指示を出しているという説を正解として、あの場合は発進して下さいとか言う方が余程しっくりくるじゃねえか。




 取引先への配送を終えて、会社への道を進む。


 いつもは憂鬱な帰り道だが、今日は社長がいないから残業もないし晴れやかな気分だ。



 何なら寄り道して帰ったって……。


 そうだ、警察署に行ってみようか、確かめておくに越したことはないだろう。




 

 警察署の空気は好きになれねえ、何だか酷く見下されてるような気がしちまう。


 受付のメガネに要件を伝える。


「友達の吉田慎一郎ってやつが一昨日から見当たらないんですがね、親兄弟じゃないと捜索願ってのは出せないんですかね?」


「いえ、親密な間柄なら可能ですが、ご親族がいらっしゃるならそちらから出されるのが普通でしょう。」



 いけすかねえメガネだな、態度が冷たすぎるんだよ。


 こいつとこれ以上話したくねえ、適当に切り上げて帰るか。



 と思ったら、奥で聞いてた若い兄ちゃんがこっちにゆっくり歩いて来た。


「吉田慎一郎さんなら、昨日捜索願が出てますよ。自分が対応したんで間違いないです。」


「あ、そうなんですか。いえね、いつも連絡したらすぐに返して来るのに全くなしのつぶてなんでね、心配してたんですよ、まあ32歳のおっさんを心配するってのも変ですがね。デブだしねあいつ。デブ関係ないか。」



 取り敢えず出来る限り知ってる情報盛り込んで、疑われるのは避けようという作戦。


 

「じゃあ、俺はこれで、何かあったら俺もすぐ知らせますんで。」




 警官二人の視線を背中に感じながら、警察署を後にする。



 やっぱりそうか、あのデブも行方不明として処理されてるな。



 まあ死体は残らねえから行方不明以外ありえないっちゃありえないんだけどよ。





 こうなると次は確認作業だな、ナビが出してるのは殺人指令で間違いないのか、それとも他の事をさせたいのに俺が間違って殺しちまってるのか。

 デブに至っては偶然だからな、撥ねる気で撥ねたんじゃねえ。



 次があるかもわかんねえけどな。



 のんびり会社に帰ると、いつもは定時になると即消えるおっさんが、何故か今日は社長の席で缶コーヒー飲みながら煙草吸ってやがった。


 俺は定時前に会社に戻れる事自体があんまりねえから逆にすげーなとは思う。



「よう帰って来たな。」

「めずらしっすね、こんな時間に事務所に居るなんて。」

「あの馬鹿狸が居ない事務所が快適過ぎて何となくな。」



 こいつも社長が嫌いなのか。

 まあ好きな人間なんかいやしないだろうが、いつも標的は俺でこの人達は特に何もされてない筈だけどな。



 あ、しまった運転席にスマホ忘れて来た。




 忘れたスマホを回収しに行って、例のナビと三度目の遭遇をした。



 ただ、今回はすでに地図ではGが表示されている場所、ゴール地点にいる。


 まさか俺に自殺しろって訳じゃないよな、いや、ありえるか、目的を達成したら駒は用済みだから消す。

 テレビや映画でよく見る話だ。


 そもそもは人を殺して俺も死のうとしてたんだし、殺させてやったんだからとっとと死ねってことかもしれねえな。




「目的地まで徒歩一分以内です。」



 やっぱり俺か。


 いや待てよ、もう一人いる、一分以内の距離にもう一人いるぞ。


 おっさん。


 俺だとしてもおっさんだとしてもこれは疑問を一つ解決するチャンスだ、どちらにせよ放置して様子を見るとするか。



 事務所に戻ると、相変わらずおっさんは煙草をくゆらせてやがった。

 他にやる事ねえなら帰りゃいいのに。



「おまえあの馬鹿狸が朝何で帰ったか知ってる?」


 んなもん俺が娘を殺したからだよ。


「いや、知らないっすね。」

 

「成美ちゃんが誘拐されたんだとよ。」


 誘拐じゃねえ、死んだよ。


「誘拐、すか? でも誘拐なんかされたら会社に来てる場合じゃないっしょ。」


「そうそう、多分単なる家出なんじゃないの? ってみんな言ってるよ。馬鹿狸が勝手に誘拐されたって思ってるだけで。あんなブス誰が攫うか。」


 それは同意しかない。

 社長の血を顔面に色濃く継いでしまった上にお嬢様学校なんかに通わされてるせいで、清楚な服を着たクリーチャーが誕生してしまっていた。


「んでもよ、成美ちゃん、学校は行ってたけど出席日数? ってーの? 俺中卒だからよくわかんねーけどさ、出勤ノルマみてーなもんか? それがギリッギリだったんだと。普段は引きこもってファミコンばっかりやってたらしいよ、タケばあが言ってたわ。」


 事務の竹葉(通称タケばあ)は何でも知ってんな、まじで盗聴器仕掛けまくってんじゃないのか。




「そんなだからよ、家出もありえねーと思うんだわ。」



「そっすね。」




 まああの子に罪はないんだが、これもナビのせ……い……。





 ……そういやナビはどうやって対象者を選んでんだ?



 俺が恨みのある人物だとしたら最初のデブの時点で違うし、社長への恨みで娘を狙うってのはわかる話ではあるが、直接殺した方が早かっただろ。

 苦しみが続くから娘をってのもなあ、それだと最終的に俺を始末する必要性が……。



 あっ、そうだ、ナビどうなったかな。



 ナビを確認しに行こうとドアノブに手をかけた時、後ろから呼び止められた。



「鍵持ってっけどどっか行くのか? わりーけどついでに駅まで乗っけてってくんねーかな。」



 しまっためんどくせーな。

 送るのは別にいいけどナビ見られんのがな。


 忘れ物取りに戻るってのはさっきやったしどうすっか……。



 とか考えてる間におっさんはすでに身支度を終えて、俺のそばまで来ていた。


 しゃーない腹くくるか、ナビが壊れてるのは知ってるだろうし、ずっとゴールが表示される不具合が起きちゃってー、とか言っときゃ大丈夫だろ。

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