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会社辞めて異世界送り業するわ  作者: 旬のからくり
21/22

下準備

 目が覚めると病院だった。

 また新しい世界か?

 ……いや、そんな事はねーか……。

「おう、目ぇ覚めたか!」

 ドアを開けて入って来たのはおっさんだった。

「どうしたんすか俺。」

「おまえ寝たばこしたろ、煙吸い込んでここに担ぎ込まれたんだよ。ボヤで済んだけど大家がキレてたぞ。」

 ああ……、そういえばデブの世界に飛ばされる前、煙草の火つけたままだったな。

「すいません。なんでここにいるんすか?」

「おまえの携帯に俺の番号しか入ってなかったとかでよ、俺にかかって来たんだわ。」

 そういう事か。

 迷惑かけちまったな。


「……あのっすね、夢か現実かはわかんないんすけど、俺、社長の娘に会って来たんすよ。」

「成美ちゃんか?」

「そうっす。見た目は全然違ってて、お姫様みたいでした。」

「じゃあなんで成美ちゃんってわかるんだ?」

「本人に直接聞いたんす。今の生活が幸せだっつってました、俺に感謝してるって。」


 それから俺はデブの事も含めて、おっさんに見て来た事を全部話した。

 勿論俺も半分は自分を疑ってる。

 罪悪感が作り出した都合のいい夢だって言われりゃそうかもしんねー。

 おっさんもそう言って馬鹿にするだろうと思ってた。


 でも違った。おっさんは俺の話を最後まで黙って聞いて、しばらく黙り込んだ後、笑って言った。

「良かったじゃねーか、お前の予想は当たってたんだな。」

「夢なんすかね、やっぱり。」

「いや、夢じゃねーよ多分。だっておまえデゾルクエスト知らねーんだろ?」

「ああ、まあ知らないっすけど……。」

「じゃあデゾルの勇者が魔王を倒す前に、賢者の山のイベントで伝説の鎧を取るのも知らねーよな?」

 知らねー。

 知る訳ないだろ。


「まあサイコロで6出すまで先に進めないだけの足止めマスなんだけどよ、そこで貰える伝説の鎧カードの絵がお前の言う通り真っ黒でよ、こんなんで動けんのか? ってくらいゴツゴツした鎧なんだわ。」

 魔王を倒して帰って来たばかりだっつってたな、じゃあ俺が見たあの鎧は……。

「まあガキ向けのボードゲームだしな、見た目がかっこよけりゃ何でも良かったんだろうな。」

 おっさんはデゾルクエストってやつを思い出しながら懐かしそうにしてる。


「魔王を倒した後ってもう続きはないんすか? 2が出てるとか。」

「聞いた事ねーなあ、でもそいつアルガストから魔王倒したんだろ? すげーよな。」

 何が凄いのかよくわからねーが、ゲームを知ってれば「確かに」って言えたんかな。


「凄さはよくわかんないんすけど、魔王を倒した後もそこで終わりって訳じゃ無くて、その世界はそこからも続くんすよ。」

「そりゃそうだろ、倒して終わっちまったらゲームと変わらねーじゃねーか。」

「そりゃまあ、そうなんすけど……。」

 何が言いたいのか俺にもわからねーな。

「そっからそいつらの本当の人生が始まるんじゃねーの? 決められた事やってる間は他人に与えられたもんでしかねーしな。」

 ……そうだな、そうかもしんねー。

 社長の娘もきっと、今の父親が横領なんかしないように……、ゲームの内容を書き換えてからが本当の人生の始まりなんだろうな。


「そうなんすかね……、新しい人生が楽しければいいんすけど……。」

「楽しいに決まってんだろ。」

「何で言い切れるんすか?」

「こっちがくそ過ぎたんだろそいつら、不幸と幸せは同じくらいの量なんだってよ。」

 何回も聞いた事ある、あるけど下らねえな……。

「だからよ、間違いなくこっちの世界の不幸の分、あっちでは幸せだよ。」

 下らないけど、今回はおっさんのしょうもない持論を信じたくなっちまうな。

「そっすね……。」


「俺は今日は帰るけどよ、お前の意識が戻ったらポリさんが聞きたい事があるって言ってたぞ。」

「はあ……。」

 そりゃそうだよな、寝たばこでボヤ起こしちまったみたいだし。



 おっさんを見送った後病院から連絡受けた警察が来て、俺に色々聞いてきた。

 俺が無職で独りもんだからか放火を疑ってたみたいだが、何日もかけて結局過失だったと認められたのと、大家に家は現金ですぐ修復するって約束した事で示談が成立した。

 ボヤで済んで良かった、手持ちじゃ足りないとこだった。



 おっさんはちょくちょく俺を見舞いに来てくれる。

 最初は作業着でいかにも現場帰りって感じだったが、いつからか私服で現れるようになった。

 今日もおっさんはパチンコの景品をどっさり、それと暇だろうからって本を何冊か持って来てくれた。

 中にはエロ本もあるわけだが、正直いらねえ。

 しかしエロ本の差し入れなんか本当にするやつが存在してるんだな、よりによって只野仁美の追悼本……。

 馬鹿しかいない世界に行って幸せになれんのかね本当に……。


「最近現場無いんすか?」

「なんでだ?」

「いや、作業着着てないし、いっつもパチンコ行ってるみたいなんで。」

「ああ、辞めたよ俺も。話したろ、辞めるつもりだって。」

 そういやそう言ってたな。

「人居ないのによく辞められたっすね。」

「退職金いらねーっつって、ついでにトラックも2台プレゼントしてきた。」

「はあ? なんすかそれ……。」

 無茶苦茶しやがんな。

「4000万かかったけどよ、宝くじで1億当てたからって適当に誤魔化してな。確かに振込なら自由に使えるわあれ。代わりにおまえのあのトラック、貰って来たぜ。」

 あのトラックってナビ付きのあれか?

「なんでまたあんなもんを?」

「そらおまえ、やるんだろ? 異世界送り業。あのトラック必要だろうが。」

 おっさんは呆れた顔をしているが、呆れてんのはこっちだよ……。


「と、取り敢えず喫煙所行かないすか?」

「ああ? おまえまだ煙草懲りてねーのかよ?」

「加熱式に変えたっすよ。」

「ならいいや、いくべ。」


 おっさんの行動力は何なんだ、俺の予想を遥かに超えて来やがんな……。

 でもまだ一億以上余裕で持ってんだよなおっさんは。

 半分貰ってくんねーか? とか言ってたし、最後に俺に花を持たせてくれるつもりなんだろうな。

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