ルールの把握
黒っぽい何かに近付くにつれ、当然だが姿がはっきりしてくる。
予想通り、俺の期待を一身に背負って向こう岸へと続く橋。
ありがてえ、弁慶が仁王立ちしてる訳でも、この橋渡るべからずって張り紙してある訳でもなさそうだ。
橋を渡ってからそのまま真っ直ぐ城に近付くと、城壁に囲まれた城下町があるらしいって事がわかった。
城壁があるって事は、やっぱ門番が通せんぼしてんだよなきっと。
さっきの荒野で見た奴らがここに来るってんなら、どっかに隠れてそれを待ってんのもいいかもな……。
まあでも一応門番が居るかくらいは確認しとくかやる事ねーし、もし居なけりゃラッキーだ。
城壁に沿って進んでみる事にしよう。
右にあるか左にあるかはわかんねー、勘だ。
川を左に進んだし今度は右に行ってみるか。
しばらく壁伝いに歩く。
ああこりゃ左が正解だったかな、なんて思い始めたころ、城壁の近くに人が居るのが見えた。
この町の奴か? って事は入り口もちけーのかな。
不審者の自覚はあるんで、一応見付からないように気を付けながら先に進む。
進むにつれて人が増え始めた、旅人? っぽいやつもいる。
呑気にデートを楽しんでる風なカップルもいる。
馬車に乗ってる奴もいる。
そろそろ隠れ続けるのも難しーなこりゃ。
ていうかもしかして結構自由に出入りできる感じか?
どう見てもあいつら日本人じゃねーから言葉は通じねーだろうけど、何とかジェスチャーで「水下さい」くらいなら伝えられるかも知んねーな……。
けつポケットに財布が入ってはいるけど、円が使える奇跡は流石におきねーよな。
まず俺自身が怪しまれずに水下さいが通じても、金払えって言われたらアウトだな。
……どうせ夢だ、当たって砕けてみるか。
腹をくくって物陰から踏み出してみた。
誰もこっちを見ない。
服が全然違うから怪しさだけなら誰にも負けねー自信あんだけどな。
土が剥き出しになってる道っぽい所まで進んで、立ち止まってみた。
何人かとすれ違ったが、やっぱり誰も俺を見ない。
やっぱり夢なのか? そんで透明人間設定なのか?
それとも俺は死んでる説が正しくて今は霊とかか?
んなわけねーよな……、まあ気にされないならそれはそれで都合がいいな。
結局誰の視線も感じないまま、門までこれた。
門自体は開いてるが、左右に一人ずつしっかり門番がいやがる。
他の奴らが気にしなくても流石にこいつらは無理だろ……、って思いながら前を通ってみたが、やっぱりここでも無視された。
……本当に見えてないのか?
試しに門の左右に設置されてる門番の休憩所っぽいところに手を伸ばして、飲み物をパクってみたがそれは普通に飲めた。
俺が幽霊説は無くなったな。
飲み干したグラスを門番の目の前に差し出す。
俺が透明人間ならこのグラスは宙に浮かんでる筈だ。
しかし門番は全く気付く気配がねえ。
それならと門番を触ってみても無反応だ。
俺に係わる事が全く認識できてねーって事か?
……よくわからねえがそれでいいか、俺に都合がいいのは間違いねえ。
煙草もポケットに入ってたんで、休憩所の椅子に座って一服でもするかと手を伸ばしたら、その辺の奴らがざわつきだした。
でも何言ってるかはさっぱりわからねえ。
俺が来た方を指差してる奴がいたからそっちを見たら、荒野で見た鎧軍団がすぐそこまで来ていた。
普通に忘れてたわ。
ていうか俺の事見えねーならあんなダッシュで逃げなくて良かったじゃねーか、損した。
こっちに向かって来る鎧軍団は右手を上げ、笑顔で何か叫んでやがる。
それを聞いて、何人かこちら側から走って寄って行く奴らが居る。
鎧軍団の中の一人に抱き着いたり、泣きながら手を握ったり。
何やってんだこいつら?
何か戦争から帰って来た兵士とその家族みたいだな……。
……ああ、いや、多分まんまそれだな。
言葉がわからんから確信はねーけど、あいつら凱旋して来てんだわきっと。
となると黒い鎧の奴が大将か指揮官ってとこだな。
興味がわいたし、何より俺が見えてねーってので強気になって、大将っぽいやつのとこへゆっくり近付いてみることにした。
近くで見るとすげー鎧着てんなこいつ。
俺も男の子だ、こういうのに憧れねーわけじゃねーが……。
(こりゃゴツすぎやしねーか? 動けんのかよ。)
そう思って肩の何か凄い模様の入った部分に触ってみた……、ら、その瞬間とんでもねーことが起こった。
「ははは、お前達、再会を喜ぶのはわかるが……、まずはこのアルガストの英雄達を休ませてやってくれよ? 休養を取ったら国をあげての祝いだ! その時は派手にやるぞ!」
いきなり言葉が分かるようになった!?
どういうこった?
いや、それよりアルガストって何か聞いた事あるな、なんだっけか……。