決意
変態野郎がやってる事は胸糞悪いが、今回は放っとくしかねえ。
「お前がターゲットになったら速攻で殺りにいくからな。」
そう言って解放する事にした。
俺たち以外にも送りをしてる奴らはいる、そうじゃないかとは思ってたが……。
楽しんでやがるとは思わなかった。
おっさんのトラックで家まで送ってもらう道すがら、今後の話をした。
「俺、ちょっと考えがあるんすよ。」
「なんだよ?」
おっさんは運転しながら返事をする。
珍しく機嫌が悪い。
「俺達のところに表示された奴らを無視しても、結局誰かが送るまで転々としてるって事がわかったじゃないすか?」
おっさんは黙ったままだ。
今まで無視してきた事で殺さずに済んだと思っていたのが、実は他の奴、下手すりゃさっきみたいな変態サイコ野郎に回されてたかも知れない。
絶対に送りが成立するまでこれが続くのだとしたら……。
大元を突き止めてやめさせる事が一番カッケーのかもな。
でもそれが正しいのかがわかんねえ。
送られた世界でこっちの事なんか忘れちまうくらい楽しくやってるかもしれねえ。
俺達は見て見ぬ振りをして足を洗うのか。
あいつみてぇに割り切って楽しむのか。
それとも……。
「これ、仕事にしないすか?」
おっさんは口を開かない。
怒ってんのかな。
「さっきの変態野郎みたいな奴が他に居るかもしんないし、組んで下調べしてるって言ってたじゃないすか。てことは金持って無さそうな奴はスルーしてるって事すよね。」
「そうなるな。」
おっさんが返事をした。
「今のとこ確認できたのは、送りの相手は皆不幸だって事すよ。死んでもいいと思ってる。下手すりゃ死にたいとまで。」
「だからって犯すのは違うだろうが。」
そうだ、そこなんだよおっさん。
「だから、今後は出来るだけ早く、それも楽に送ってやらないすか? 苦しい時間が短い方がいいのくらい誰だってわかるでしょ?」
「どういう事だよ。」
「そういう事っすよ。住所が出たらすぐに現場に向かう、相手が確認出来たら一瞬で即死を狙う。」
「それでどうなるんだ? 俺達が喜んでやってるようにしか見えねーじゃねえか。」
「そりゃさっきの変態野郎が見たらそう言うでしょうね、でも実際は行方不明になるだけで誰も見ちゃいない。」
「俺の気分が悪いだろ。おまえおかしいぞ、自分の言ってる事わかってるか?」
わかってる。
おかしい事言ってるのは百も承知だ。
殺し屋になりたいって言ってるようなもんだ、誰よりも先に標的を始末しに急ぐってな。
「そうすね、俺がおかしかったんで忘れてください。」
おっさんは無理だ、諦めよう。
こんな事無理やりやらせるような物じゃないしな。
おっさんが選んだ選択肢は「見て見ぬ振りして足を洗う」だ。
悪いとは言わない、人殺しなんて普通はやりたいと思うもんじゃねえ。
幸い金は有る、しばらく引きこもる事も出来るだろうし、何なら海外に移住でもしてみればあの表示に悩まされる事もねーかもしれねーな。
だが俺はやる、この世に未練がない奴らを救う方法なんか知らねえ、出来るのは最期に苦しまずに新しい人生のスタートに誘導してやる事だけだ。
おっさんはそれから俺の家まで無言だった。
勿論俺もだ。
おっさんとの短かった付き合いも今日で終わりかもしれねえな。
そう思って深々と頭を下げて挨拶をした。
「お疲れっした!」
「お、おう、どうした急に。お疲れ。」
おっさんは何か言いたそうだったが、諦めたようにドアを閉め、トラックは小さくなっていく。
部屋に戻り、煙草に火を点ける。
まだ夕方だがかなり疲れた、シャワー浴びなきゃなあ、そんな事を考えながら俺は意識を失った。