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会社辞めて異世界送り業するわ  作者: 旬のからくり
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三人目

 しばらく女はビクンビクンと身体を痙攣させてたが、やがて光の粒になって消えた。

 スマホに送られてくる奴は送り先がわかんねーんだっけ。


 さて、残ったこいつはどうしてやろうか……。

「おい、あんた口きけるか?」

 倒れ込んだままの男に話しかけてみる、反応はない。

 でも目は開いてるな、答えたくないって事か。

「見ての通り、あんたが殺した女は消えちまった。あんたをポリさんに突き出してもいいけど、殺しは証明できねーし、不法侵入ならそりゃ俺も同じだ、良かったな。」

 別に俺は正義の味方じゃねえ、女が生きてりゃ警察にでも任せようかと思ったが……。

 取り敢えずまた歯向かってきても面倒だし、女が消えた勢いで床に刺さった包丁は蹴り飛ばしておく。


 しかしどうすっか、こいつは殺しても俺の得にならないどころか、普通にお縄だしな。

 おっさんに相談してみるかな、あまりいい知恵浮かばなそうだけど。


「お前……も、スマホか……?」

 今なんつった?

「お、俺もなんだ……。」



 思わず男の胸元を掴んで引き寄せてた。

「どういう意味だよ、でまかせだったらぶっ殺すぞ。」

「そ、そのままだよ、俺もスマホの画面に出た奴を殺してるんだ、嘘じゃない……」


 なんだと、ただのストーカー野郎じゃなかったのかよ。

「じゃあ何でさっきの女は服が破れてたんだ、説明してみろ。」

「そ、そりゃ可愛かったからつい、だよ。お前だってそのつもりだったんだろ?」

 こいつ送りを純粋に殺しとして楽しんでやがるのか、好みの女ならおまけもつけて。

 とんだ屑だったな、一瞬でも仲間かもしれないって喜んだのがアホみたいだぜ。

「あんたみたいなクソと一緒にすんな。」

 思いっきりぶん殴ってやった。

 荷造り用のビニール紐が転がってたので男を縛っておっさんを待つ。


 どうも有里渚って女は引っ越しの準備をしていたようだ、段ボールがいくつか積まれてる。

 ただ待ってるのも暇なので部屋を観察していると、女の手帳を見付けた。

 手帳をペラペラめくると、一言日記みたいなのが書かれている、マメなやつだ。


 3月30日

 もうすぐ新社会人。

 3月スタートの手帳をお父さんがくれた、頑張ろう。


 3月31日

 早く寝ようと思ったけど緊張して眠れない。

 もういっそ朝まで起きてようかな……。


 4月1日

 私が配属された部署はみんないい人達だった。

 上手くやっていけそう。



 ふーん、新社会人だったわけね。

 しばらくはあれが良かっただとか難しかっただとかそんな事ばかりが書かれてた。

 が、5月に入ってからどうも状況が変わったらしい。



 5月10日

 初めての給料日。

 お父さんに何か買ってあげたいな。


 5月11日

 先輩に「このままでいるつもりなら考えた方がいいと思うよ。」

 って言われた。


 5月13日

 コピー機が詰まったのを私のせいにされた。

 今日は私触ってないのに。


 5月14日

 緒方さんの営業について行った。

 仕事が出来る人ってかっこいいなあ、憧れる。


 5月15日

 先輩が凄く冷たい、緒方さんに指名されたからついて行っただけなのに

 私がさぼりたくてついて行ったと言われた。


 5月16日

 今日も緒方さんに指名された。

 先輩に怒られるから嫌だけど、仕事だからついて行った。


 5月17日

 直帰のついでに緒方さんに食事に誘われた。

 オシャレなお店だった。


 5月18日

 何だか会社のパソコンが重かったけど、

 やっぱり新人だから古いのを渡されてるのかな。


 5月20日

 緒方さんから社内メールで食事のお誘い。

 嬉しい。



 おー、恋人できそうじゃねーか頑張れよ。

 ……いや、もう送った後だけどよ。



 読み進めると、この後二人はどうもこっそりと付き合い始めたみてーだな、緒方って奴が「新人に手を出した」ってつっつき回されかねねーから、みんなにはばれない様に。



 6月3日

 誰かが緒方さんと私のメールを印刷して皆の机に置いた


 6月4日

 先輩が怪しい。

 けど私しかパス知らないはずなんだけど。


 6月5日

 緒方さんはまだ私がやったって思ってる。

 もう会いたくないって


 6月6日

 先輩に問い詰めた。

 ニヤニヤ笑ってバカにされただけだった。


 6月7日

 瑞生に相談したらパソコンに監視ソフトというのが入ってるんじゃないかと言われた。

 明日見てみる。

 パスワードなんか簡単に見つけられるらしい。


 6月8日

 最悪



 先輩ってやつの嫉妬かねこりゃ。

 ここから暫く日記は更新されていないが、今月の頭になって急に再開してる。


 

 7月1日

 会社を辞めた。

 お父さんに会いたい。


 7月2日

 あの町に帰って事務員でも探そうと思う。

 こんな所にはもういたくない。


 7月3日

 知らない男の人に有里渚さんですか?

 って声をかけられた。

 こわかった。


 7月4日

 昨日の男の人がマンションの前にいるのが見えたから今日はネカフェ


 7月5日

 引っ越しの準備を始めた。

 お父さんはいつでも帰ってきていいって言ってくれる。


 7月6日

 結局一回ものんびりできなかったから

 この町を散策してみた。

 別に何もなかった。


 7月7日

 緒方さんから連絡があった。

 引っ越すって言ったら最後に会いたいって言われた。


 7月8日

 緒方さんに会いにいった。

 行くんじゃなかった。


 7月9日

 明後日は引っ越し、今日は全部ダンボールにいれてしまおう。



 そして今日が7月10日。

 本当なら明日引っ越しする筈だったのか。

 いくつか気になる部分があんだよなあ……。

 と思ってるとおっさんから着信がある。

「はい。」

〔おう、俺だ俺だ、下まで来てるんだけどとめるとこねーからよ、路駐になっちまう。〕

「ああそうっすね、降ります降ります。」

〔わりいな、じゃあ待っとくわ。〕


 電話を切ってから、俺は三人目の異世界送りを知る男を担いで非常階段を降りた。

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