403
翌日、まだ夢の中の俺をスマホの音が叩き起こす。
なんだよアラームなんかかけてねえ、おっさんから電話か?
目を擦りながら画面を見ると、知らない奴の名前と住所。
有里 渚、多分女なんだろうが渚で男ってのも無い事は無いよな。
(きたか……。)
おっさんに聞いてた通りだ、スマホなら先に名前が出る。
今まではトラックに乗ってたから、それに絡んで勝手に死んでいった。
じゃあ殺す気は無く何も持たずに行ったらどうなる?
……確かめなきゃなんねえ。
この住所がどこかわかんねーし、スマホで調べようにも画面の消し方がわからねえ、どこをタップしてもボタンを押しても消えねえ。
仕方ねえから引っ越す時に買ったパソコンで地図を開いて検索してみる。
……いや、これ歩いて行ける距離じゃねえなおい。
チャリでも買っときゃ良かった、そう思いながらタクシーを拾って運ちゃんに住所を告げる。
運ちゃんはナビに言われたまま打ち込んで出発した、最近はタクシーもナビついてんだな。
「もうすぐ着くみたいですけどどこに停めますか?」
「ああ、えーっとどこでもいいんで停めやすいとこで。」
タクシーから降りてスマホの画面を見たら表示は消えてやがった。
マップを開いてメモに取っといた住所を打ち込んでみると、この辺りで間違いは無いんだが細かい場所がわからねえ。
一応マップ上でマークが付いてるマンションがあるにはあるが、オートロックで入れやしねえ。
どうしたもんかと自販機で買ったコーヒーを飲んで考えてると、配達の兄ちゃんが普通に非常階段のドアを開けて入って行くのが見えた。
(セキュリティガバガバじゃねえか……)
いや、それならそれでいいんだが、それにしてもひでえ話だな。
コーヒーを飲み終えて、俺も非常階段を目指す。
有里渚ってやつがここに居るかは知らねえが確認はしておくに越したことはねえ。
非常階段からエントランスへ、郵便受けには名前があったりなかったり。
一階から順に読んでいく。
…………あった。
403有里
渚とまでは書いてなかったから、これがビンゴかどうかはわからねえが、ここまで来てこの珍しい苗字が他人って事もないだろ。
後は家族が居るのか独り暮らしなのか、ガキなのか成人なのかだな。
エレベーターに乗って四階を目指す、エレベーターの目の前は401号室。
402号室を通り過ぎて角を曲がり、曲がった先にお目当ての403号室。
丁度さっきの宅配の兄ちゃんがインターホンを押したとこだった。
気まずいからそのままゆっくりと通り過ぎて、非常階段で上に登り、5階に向かう踊り場から、403号室を観察してみる。
おかしい、ドアは閉じられ配達の兄ちゃんがいない。
出ないからあっさり諦めて帰ったのか?
煙草一本吸い終わるまで眺めてみたが、特に動きはなし。
そういやあの兄ちゃん、トラックどこ停めた?
配達って建物の前に停めてる事が多くねーか?
チャリで配ってるやつもたまに見るっちゃ見るけど、チャリも無かったよな?
おそるおそる403号室に近付いて、ドアに耳を当ててみる。
「お願いやめて!」
そうドア越しに小さく聞こえた。
参った、こりゃ事件だわ。
面倒だから帰ろう。
見なかった事にするのが一番だな、巻き込まれるのはごめんだ。
そう思ってドアから離れようとした時、ふらついて手をついちまった。
その手を付いた場所がまさにインターホンで、何てドジなんだありえねえだろと思ったが、おっさんの言葉を思い出す。
「その度に死ぬんだよ俺の目の前で……、いや、俺が殺す事になっちまうんだ。絶対に殺さないように気を付けてもよ、死ぬんだよ。突然飛び込んでくるやつもいれば積み荷が落ちて潰れた奴もいたよ。」
そうか、そうだった。
近付いちまったらもう異世界送りにスイッチが入っちまうんだな、そういうことだろ、えーと、誰だ? 誰がこれ送って来てんだ?
まあいい、後戻りは出来そうもねえ、どうなるか確かめてやるよ。