青春のシンボル
あれから四カ月、俺はニートを満喫している。
好き放題使ってやろうと思った金も、いざとなるとパチンコと飯くらいにしか使う事も無く、自分の無趣味が良い事なのか悪い事なのかよくわからねえまま一カ月が過ぎた。
取り敢えず今日も昼からパチ屋でだらだら過ごしている、もう夜の八時か。
スマホは買い替えた、社長の席に「やめる! バーカ!」と書いた紙を置いて辞めて来たので、電話がかけらんねーように番号も変えた。
当然引っ越しもした、その準備に三カ月。
整い次第コンビニで筆ペンを買って、会社のコピー機から引っ張り出した紙に殴り書きして、社長が帰った後に席に叩きつけて今に至る。
新しいスマホの電話帳にはおっさんの名前だけ、社長が烈火の如くブチ切れてたらしいが知ったこっちゃねえ。
おっさんも知らんふりしてくれたみたいだ。
辞めるまでの三カ月で、送りをしたのは5人。
みんな色んな能力を貰ったみたいだが、中には異世界の神になった奴も居た、なんだよ神ってすげえな。
送りで入った金は60万くらい、やっぱり若い奴は持ってないパターンが多いな。
おっさんの所にも未だに指示は来るらしいが、おっさんは送らず真面目に働いてる。
パチンコのハンドルに指をかけたまま、これからどうすっかななんてボーっと考えていると、コーヒーと煙草が差し出された。
「よう、出てるみたいだな。」
おっさんだった。
「あれ、珍しいっすね。」
「ちょっとな、横いいか?」
「ご自由に、でもそこ多分出ないすよ。」
「パチンコしに来たわけじゃねーからいいんだよ。実はおまえに大事な話があってな。」
おっさんは横に座って打ち始めた、そんで1回転で当てた。
「はーーーー!?」
「おう、やったぜ。」
畜生おっさんめ、俺の勘を秒で否定しやがって……。
「何なんすか話って、社長が捜してるとかすか?」
「違う違う、俺も昨日久々に送りをしたんだわ。」
おっさんに何があったんだ。
「え、どうしたんすか? たまたま近くに現場があったとか?」
「いや、自分から行ったよ、おまえのトラックに乗ったらナビが出たんでな。」
なんと、じゃあやっぱりあのナビがねーと指示はこねーのかな。
「そんで、どんな奴だったんすか?」
「おまえはニュースなんか見てないだろうから知らんだろうが、聞いて驚け、あの只野仁美だぜ。」
「え! あの只野仁美っすか!?」
誰だろう。全然知らねえ。
「おお、まさかだよな、ナビには知らねー国の名前と、【自分以外知能低下】って書いてあったわ。」
「じゃあ馬鹿ばっかりの世界に行ったんすかね。」
「只野仁美が行く事で馬鹿ばっかりになるんだろ。」
どっちでもいいわそんなもん。
「まあでもよ、流石にあれだけの大物となると額が凄くてよ。」
額? ああ、振り込まれた金額か。
「いくらだったんすか?」
「2億以上あったぞ。」
「流石只野仁美っすね……。」
誰だ! 只野仁美って誰だ! でも一回知ってる顔しちまったから今更聞けねえ、2億とかいかれてやがる。
「だから俺もおまえの真似してよ、会社辞めようと思ってな、おまえがどんな感じか見に来たんだ。今のとこ金使っちまっても何も起きてないんだろ?」
「特に無いすねえ。」
「だよなあ、でもやっぱりこえーからよ、おまえ半分貰ってくんねー?」
「金をすか?」
一億くれんのかよ。
「そうそう、只野仁美送っちまったからよ。俺はあんまり世話になってないけど、ないこともないから良心が痛むわけよ。」
誰だよ……。
「俺も只野仁美には世話になったかもしんないす。」
どうだ、合ってるか?
「マジかよ、おまえ結構古いの好きなんだな、変わってんな。」
只野仁美って古いの?
「そうなんすよ、新しいのより古いのすね。」
「マニアだなおまえ……、見る目変わったわ。」
おっさんの差し入れのコーヒーを一口。
「ちょっとしょんべん行ってきます。」
スマホで只野仁美を検索しながらトイレに向かう。
只野仁美は、おっさんが若い頃流行ったAV女優だった。
ふざけんなくそ。
席に戻った俺はおっさんから貰った煙草に火を点ける。
俺は煙草は吸ってなかったんだが、おっさんが美味そうに吸うから吸い始めた。
「只野仁美の事なんですけど、あれ嘘っす、見た事ないっす。」
「ああ、そう。」




