殺して死んでやりたい
今日も社長に怒られた。
昨日も社長に怒られた。
一昨日も、その前も。
零細企業の片隅で、俺は社長に怒られる。
明日も怒られる。
明後日もその次も、毎日毎日怒られる。
理不尽な事で、毎日毎日。
仕事は真面目にやってる。
他の誰よりも。
何で目を付けられたんだろう。
何で俺なんだろう。
生きていても仕方ないと思った。
怒られる度に何度も何度も。
親の顔なんか知らない。
産まれてくる必要のなかった人間が俺なんだ。
どうせならこいつに少しでも迷惑が掛かる死に方をしてやりたいな。
どうせ今日も俺だけが独りでサービス残業だ。
サービス、ねえ。
そんなつもりは微塵もないんだけど、な。
会社の4トントラックの鍵を、目の前でくるくると弄びながらぐるぐるぐる色々考えていると、唐突に考えるのすら嫌になった。
気付けばトラックを走らせていた。
誰か人が居たら……、轢こう。
このトラックには会社の名前もばっちり入ってるし、出来るだけ殺しながら、すぐにカメラに映れる場所を目指そう。
役に立たないポンコツナビめ、何も設定していないのに勝手にどこかしらないゴールに向かって案内を始めやがった。
地図ディスクが読み込めませんだとか何とか、毎日画面に出してたくせに。
「この先、左です。」
だから何だよ、そっちは山だ。
俺は街を目指しているんだ。
「間も無く左です。」
うるさいな。
「ルートを外れました、再探索します。」
行かないって。
「この先左です、その先、信号を左です。」
ふと、一体このナビのゴールはどこに設定されたのか気になってしまった。
勝手に設定されたんだし、あらかたいつもの取引先のどれかだろうとは思うが、この山を越えて行くような取引先を、俺は知らない。
どうせこれから人を殺しまくって俺の人生は終わるんだ。
少しくらいの寄り道もいいか。
何ならその取引先に突っ込んでやってもいいかもな。
ナビの言う通りに、他に何もない山道を進んでいると、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。
次第に本降りになり始め、視界が悪くなる。
「間も無く目的地です。」
ナビのゴールは近いらしい。
画面に目をやった瞬間。
ドン!
何かにぶつけた。
慌ててブレーキをかける。
「目的地周辺です、案内を終了します。」
いや、周りには何もないんだが。
結局ただ単に壊れていただけで、くそ程も面白くない結果だった。
前方には何も見当たらないし、動物でもはねちまったのかな。
走れなくなっても目的が達成できないので、一応確認しておこうと運転席を降りて辺りを見る。
「はっ……、はっはは! やったぜ! 記念の第一号おめでとさん!」
トラックの後ろに倒れていた何か、よく見るとデブの兄ちゃんだった。
偶然最初の犠牲者を生み出せた事は本当に嬉しい。
もしかしたらギリギリになって躊躇してしまうんじゃないかと思っていたから。
もう殺人者だ、罪の重さとか関係ない、ここでやめようが続けようが人を殺したことは事実だ。
「おい、デブ、生きてるか? 生きてたらもう一回バックで轢かなきゃならんから返事しろ。」
返事はない。
雨も随分弱くなってきたし、下らない事やってないでデブの生死を確かめてさっさと次に行こう。
横たわるデブに近付こうとした時、理解不能の事態が起きた。
デブの体が淡い光を放って消えた。
「…………は?」
ビーーーーーーーーーーーーーー!!!!
デブが消えて困惑していると、トラックの中から変な音が聞こえ始めた。
「なんだなんだ次から次に……。」
消えたデブの事はまずは置いといて、うるさい謎の音の正体を確かめに車内に戻る。
ナビが見た事もない画面を表示していた。
・吉田 慎一郎(32歳)
・アルガスト皇国の王族
・全魔法の才能付与
・0歳
なんだこれは……。