第二十四話 愛すべき友たち
『これより、作戦会議を執り行う!』
学がグループに加わったところで。終えたところで、剛がそう盛大に宣言した。
いや、そんな大層なものではないんだが……。当事者である俺は少しそのテンションに気圧され気味だった。
『おー! 幸人に恥をかかせるわけにはいかないかんね』
もう一人の友人もこれまた気合十分である。こいつら、その幸人を差し置いて、盛り上がりすぎではないだろうか。画面を見ながら、すでにげんなりしてきた。
……はあ。何やってるんだか。思わずため息が出た。一体何が行われるのか。その起源は、ほんの一時間ほど前まで遡れば十分だろう。
*
その日の夜のこと。夕食を食べ終えて、俺はいつものように自室に籠った。明日は念願の土曜日……つまりは二連休! テンションが上がらないことがあろうか、いや絶対に上がる――しかし、それはいつもならという条件が付く。
部屋に戻って、すぐに俺はとんでもないことをしてしまった、という自責の念に駆られた。どうして、あんなことを言ってしまったのか、自分で自分がわからない。
しかし理由はどうあれ、そう提案してしまったのは事実なのである。約束はすでに取り付けてある。明日の午前十時――しめて、今からおよそ十四時間ほど後のこと。俺がどうしようと、容赦なくその時間はやってくる。
「じゃあ行ってみるか?」
きっかけはその些細な一言だった。ほんの出来心のつもりだったのだ。
会話の流れ的に何か自分に酔っていたというか。逃げ場を探していたというか。何を言うべきかわからなかったというか。
とにかく、ホント咄嗟だったんです! その瞬間、何者かが乗り移って勝手にその言葉を発したと弁解してもいいくらいに、勝手に自然と気が付けば。
政治家の失言みたいなもんだった。許されるのであれば、彼らみたく撤回したい。
それを聞いたあいつはというと……一瞬虚を突かれた様な顔をした。しかしすぐに理解が追い付いたようで、見る見るうちにその顔は高揚していった。
「はい、ぜひ! 明日とかどうでしょう?」
食いついてからが早かった。すぐに日取り調整に入ろうとする辺りはさすがというべきだろうか。獰猛な肉食獣を相手にしている気分だった。隙を見せたから殺られるみたいな。
当然、言い出したのは俺である。断るという選択肢は持っていなかったわけで。というか、あの様子を前にしたらそんなことできようもなかった。
いつも俺と一緒の時は嬉しそうにしているが、あの時ばかりは今までで一番幸せオーラを纏っていたと言っていいだろう。それに見事に当てられたわけである。
ということで、明日テレビでやっていたカフェに明城と出かけることになった。しかし、困った。女子と二人きりじゃなくても、そんなこじゃれた場所初めてだ。果たして、どんな振舞い方をすればよいのやら……。
さんざん悩んだあげく、俺は愛すべき友人たち(ばかども)を頼ることに。まず連絡したのは、頭脳担当の剛。
『ちょっと相談に乗ってもらいたいことが』
『おっ、デートの件か?』
……なんで知ってるんだこいつ。一瞬激しく動揺したものの、すぐに当てずっぽうだということに気が付いた。昼間っから、馬鹿の一つ覚えみたくずっと言っていたじゃないか。
『いや、違う。
明日、明城と二人で出かけることになったんだが、どうすればいいか、と』
『それを人はデートと呼ぶんだ
幸運を祈る!』
『頼む、ツヨえもん! 助けてくれ!』
『それ、ジャイアソと合体してるだけだから』
『いいツッコミだ。頭の馬力が違います。
その頭脳を是非とも俺に!』
『わかった、わかった。このメッセテロは止めような。
せっかくだし学も混ぜよう。待ってろ、グループ作るから』
初めこそ雲行きは怪しかったものの、交渉は成功だ。大力剛が仲間になった! 頭の中に、おなじみのファンファーレが流れてくる。今なら、ドラゴンだって退治できる、みたいな。
しばらく待っていると、早速例の新グループから正体が来た。その名前は――
『おい、なんだこの≪幸人くんの恋路を実らせる会≫ってのは!』
『おおっと。やはりお気に召さなかったか。
俺、ネーミングセンスないからなぁ』
……なんてやり取りをしていたところ、最後の一人が乱入してきたわけである。
*
とりあえず、俺は明日朝十時にやつとカフェに出かけることを伝えた。連中、変に茶々を入れてくるので、たったそれだけの事実を説明するのに、十分ほど要したのは誤算だったが。
『まず待ち合わせには絶対遅刻しないこと、それが鉄則だな』
『そういえば、どこで待ち合わせてんの?』
『駅だよ。南口のあのへんなオブジェの近く』
『これまたべたな場所を選んだもんだ』
『……合流するの、大変じゃね? 結構、人多いよ。
俺も部活の用事で集まる時、いつも一人取り残されるから』
それを見て俺は居た堪れない気持ちになった。すぐに返信するのを躊躇う。
『それは無視されてるのでは(確かに人が多いから見つけづらいのかも)』
『剛、本音と建前が逆』
『まじかよ……今日一の衝撃の事実だ。
とにかく、やっぱり目立つしかないよ。大きな花束を持って行くのは?』
『待て待て、初デートだぞ? 気合入りすぎだ』
『だから、デートじゃないって』
『認めろよ、女の子と二人で出かけるそれすなわちデートなんだ!』
だが、そこは俺と同じく彼女いない歴=年齢軍団。当然、デートの経験すらない。なんなら、この間のハンバーガー屋の件を考えれば、俺が一番経験豊富ともいえる。
こうして、一向に話は前に進まない。すぐに脱線する。人選を間違えたとも思うが、しかし他に当てはない。
『……とりあえず、合流のことはおいておこう。
問題は無事に会ってからだ』
『というと?』
『話題がない』
『話題って、そういう時は天気の話と相場が決まってる』
『あー、あれでしょ? 本日はお日柄もよく、絶好の結婚式日和で』
『ずいぶんと話が飛躍したな!』
『待て待て、雨だった時が困るぞ。天気予報をしっかりチェックしなければ』
『遠足じゃねえんだぞ!』
『えー、本日は足取りが悪い中、お越しいただいてありがとうございます』
『他人行儀過ぎるだろ……』
――疲れてきた。そもそも俺は何を期待して、こいつらに頼ったんだっけ。当初の目的さえわからなくなってくる。
『じゃあ逆に聞くけど、何の話をすれば盛り上がると思うんだ?』
『そもそもそれを考えてるんだろうが!』
『やれやれ、幸人はわがままだなぁ』
ムカつく顔文字が送られてくる。……あわやスマホを握りつぶすところだった。
『幸人、こんなもの用意したって仕方ない。
その場のノリで切り抜けろ。大事なのはフィーリングだ!』
『いいこと言っている様で、何の中身もないな。それは……』
まあ確かに考えたって仕方ないか。ノリ、ねえ。ここにきて、長年ちゃんと女子と会話してこなかったツケが回ってきた気がする。
普段相手にするとしたら、この気のいい友人たちか、クラスの男子かくらいだ。大抵の話題は、野郎にしか通じないくだらないもの。……あいつなら、どんな話でもニコニコ顔で聞いてくれそうだと思うのは、相手に依存し過ぎだな。
まあこれは臨機応変に対応するとして。できるとは言ってないが。
『早々にカフェを切り上げて別のとこに行けば会話しなくて済むのではないだろうか』
『おおっ、さすがは剛! その発想はなかった』
『……別のとこも何も、それで終わりだと思うんだが』
『あーあ、全くこの子は! ほんと、女心ってもんがわかってないんだから!』
『ほんと失礼しちゃいますわよね、奥様!』
いつの間にか、俺は人妻と会話をしていたらしい。おかしいな、事実は小説よりも奇なり状態だ。
ツッコミに疲れたので、そのボケはスルーすることに。
『まあ真面目な話、ちゃんとデートプランは練っていた方が良いと思うぞ。
昼どこで食べるとか、その後何するとか、解散時刻はどれくらい、とか』
『向こうはそんなこと期待してないって』
『そこであえて用意しておけば、お前の株もあがるってもんさ』
『はげどう』
『ちょっと古いな……。
でも株なんて上げる必要はないんだけど』
『じゃあ、どうして俺たちに頼ろうと思った?』
核心を突く、剛の問い。今までふざけてたと思ったら、すぐこれだ。この脈絡のなさと、無遠慮に切り込んでくるスタイルこそこいつの長所だった。
俺は、明城にがっかりされたくなかった。せめてもの体裁は保っておこうと。せっかく一緒に出掛けるんだし。あわよくば、前世じゃない今の俺を見て欲しかった。
それをたどたどしくも文字に起こして、二人に伝えた。
『な、だったら必要だ。さて、これからは真面目に考えんぞ!』
『あたぼーよ!』
今までは真面目じゃなかったのかと、思いながらも、張り切る二人を少し頼りに思うのだった。そして、そのまま夜は更けていく――




