古里、それは悪手だぜぇ
「なぁ古里、知ってるかぁ? 世の中には明らかに無駄なものを売りつける奴らが居てな」
「はぁ? 無駄なものって、例えばどんなのだよ」
「離婚届や領収書、果ては体毛すら売り物にしてる奴らがいる。面白半分でやってるつもりだろうが、センスってもんがねぇ。加えてその横に扇子が並んで売られてた。笑えねぇ冗談だ」
「そンなものに需要があるのか…? 売れる訳ないだろ!」
「それを買うバカも居る。売り手も買い手も精密なマーケティングでもしたんだろうよ。需要と供給のバランスは針の上にやじろべえを乗せるくらいピタッと、均等に保たれている」
「日本はその豊かさの意味を履き違えてるな。無駄なものを買えるほど金に価値が無くなったのか」
「古里ぉ、お前はバカだな。バカだからそいつらの思惑にハマるんだよ。底の浅い落とし穴にな」
「どこの誰の思惑に、俺がハマったんだよ」
「利益を貪る企業と、目立つことだけに関しては嗅覚が鋭いアホの、ハイエナ共にな。そんな奴らに品性を求める時点でお前は術中にハマったんだよ」
「別にハマってないぞ。そいつらに利するような事は、何一つとしてしてない」
「本当に、そうか? お前は心のどこかで『俺も何か売れないかな』と私物を思い浮かべただろう? 何かを売ろうかな、と思わされ、惑わされた。まさに思惑だ」
「…ぐっ。た、確かに逡巡してしまった。体毛に買い手が付くくらいなら、俺の小学校時代のテストの答案すら売れるんじゃないかと、考えてしまったぜ…」
「掘り起こしたタイムカプセルに大量に入れてあったやつか…。流石に思い出を入れておくべき場所に、忘れたい記憶を残しておく辺りはお前らしい」
「まぁ最終学歴は俺の方が上だけどな…。で、誰にも真似出来ない発明をしたって、何のことだ」
「あぁ、握手券目当てで買ったCDが大量に余っててよ。1000枚有るから全部繋げてベランダに垂らしたら鳩も猫も近づかなくなったんだぜ」
「そんな事しても、お前はハイエナ共の餌食になってるな」