目に映らざる殺人鬼
「なぁ古里、知ってるか? 日本人とアメリカ人に共通する殺人事件の関連性を」
「日本人とアメリカ人の殺人事件? また唐突にどうしたんだよ。共通するような事が、何かあるのか?」
「あぁ、とてつもなく恐ろしい陰謀が隠されてる」
「なるほど、陰謀な。お前の話は話半分で聞かないとな、最近酷すぎる」
「古里、お前は浅い。この俺が太平洋の深さなら、お前はヴォンゴレ、クラムチャウダーか、っての」
「…それアサリな。ダジャレ言ってないでお前の言う陰謀とやらを教えてくれ。日本とアメリカで何が共通してるんだ」
「あぁ、それは文化の違いでもある。アメリカは銃社会だ、銃火器による死者が毎年3万人を超えてる。これは世界一位だ」
「そんなに多くのアメリカ人が銃で殺されてるのか…。日本だと交通事故の死者数とほとんど変わらないな」
「あぁ、恐ろしいことにそれが日常に紛れてる国だ。日本では到底考えられないぜ。引越してお隣さんに挨拶に行ったら、笑顔でズドン、だ。嫌になるぜ」
「俺達は日本で生まれ育って、幸せかもしれねーな。この幸福を、アメリカ人にもっと知ってもらうべきだな。日本には銃がないってよ」
「いや、そんな日本人も数多く、殺されている。ガンにな…」
「え? ガン? まさか『癌』か」
「あぁ、癌だよガン。日本人の死因の多くは悪性腫瘍、つまりは癌だ」
「発音が似とるだけかよ…ダジャレにしても、酷いぞ…」
「古里ぉ、お前には失望したぜ。俺の頭の中で鳴り響いたぜ。失望の鐘の音がな…ガ」
「で、俺の主張の何が違ってんだ?」
「遮るなよ…。いいか、言葉は特殊な意味を持っている。銃で撃たれた場合も、癌が発病した場合も、どちらにしてもその人の生命力次第だ」
「ん? 全然分かんねー」
「だからよぉ、癌が肺に出来たとして治療したとしても、どの道、その人の生命力で生死が決まる。銃で肺を撃たれて穴が空いても、治療すれば生死が分かれる」
「なるほど、漠然としてるが…何となくわかる気がするぜ!」
「ただ、こいつらは限りなく人の命を蝕む、恐ろしい奴だぜ『ガン』ってのはよ。その恐ろしさを知っているから、ガンって言葉になったんだ。威圧と恐怖の入り交じった、口に出すのも嫌悪したくなるぜ」
「あぁ、とんでもねぇ殺人鬼だ。ところで、今日はどうしたんだよ」
「いや、最近本の文字がボヤけて見えて、夕方になると特にひでぇんだよ」
「お前、老眼に蝕まれてるよ」