吾輩はモブである。名前はまだない
「なぁ古里、知ってるかぁ? 小説家になろうにはなぁ、評価システムってのがあってな、作品に対して評価を付けることが出来るんだぜ」
「はぁ? 小説家になろうってなんだよ」
「バーカ、今、俺たちが出てるこの場所だろ。小説掲載数約50万作品。登録者数約100万人。国内最大級の小説投稿サイトの事だっての」
「メタな発言は、控えろ。んで、評価システムがどうした...」
「だからよぉ、俺は評価システムでポイントで一喜一憂してる、これを書いてる作者に物申したい。てめぇの小説の質は、そんな事じゃ一切変わんねぇぞ!ってな」
「それはお前の勝手な意見だろ。第一、お前も俺も小説の中の登場人物に過ぎない。物申せる立場でもない」
「古里ぉ、お前、本物のバカだな? お前はバカだからただのモブ扱いなんだよ。お前はまだこの小説世界で本当の自分に目覚めていない」
「お前、頭大丈夫か? 俺たちキャラクターは作者様に生かされてるんだ。作者様なしに俺たちを語る事はできない」
「あぁ、確かにな。だけどよぉ、それは作者の痛い勘違いだ。真実は真逆、作者は俺たちキャラクターに生かされている。チート、最強主人公、ハーレム、異能力。作者が、さも設定しているように見えて、実はキャラクターが自ら掘り起こした力なんだよ」
「作者ディスかよ。馬の耳に念仏だ、こりゃ」
「馬はお前だぜ、古里ぉ。お前のセリフを、今の俺は簡単に消すことが出来る」
「そんなことしたら、読者が困るだろうが。てか████████████████████だろ」
「はぁ? 何言ってるかさっぱりだぜぇ、古里(笑)」
「っ!? お前、マジでチート使えんのか...お前への罵詈雑言が綺麗に消えた。そこまでして、この作者に何か言いたいのか...」
「当たり前だ! 俺が言いたいのはこんなくだらねぇコメディーもどきなんか書いてねぇで、さっさとペチュニアを完成させてくれ、ってことだ」
「だから試行錯誤してんじゃねぇのか? いい小説を書きたいが為に、たとえ遠回りだとしても。書いて書いて書きまくる事で何かを得る、とか」
「古里ぉ、やっぱりオメーはバカだ。こんな会話だけの小説に、一体なにが得られる? 俺とお前の掛け合いで、誰の心を揺さぶることが出来る? 小説はな、悩み続けるんだよ、悩んで悩んで悩みまくる。答えのない道を、ずっと歩き続ける」
「悩んでるだけじゃ、小説すら書けないだろ...」
「悩むからこそ、俺たちキャラクターがそいつの中で喋りだす」
「ほぅ?」
「悩み続け、頭がおかしくなりだすと、変な会話が脳内で始まる。小説家はな、自分で見聞きした事が、頭の中で不思議なストーリーとなって生まれ変わる特性がある。そこから数多くの名作が生まれたんだ。一朝一夕で成し得る事じゃない」
「なるほど、それは確かにそうかもな!」
「あぁ、評価なんて本当は必要じゃない。まずは自分が納得できる作品を書くことが、一番重要なんだぜ」
「そうだな。そう考えると、この作者にはもっと悩んで貰わないと、ならないな」
「あぁ…評価ポイントを頂いたくらいで、作者に満足して貰いたくねぇ。まだ道半ば、ここで立ち止まるにはいささか早すぎる。なぁ? 作者さんよぉ。甘ったれてると、俺がチートでこの小説を滅茶苦茶に荒らしてやるぞ!」
「今回は、俺の負けだ。お前が正しいぜ」
「古里、ありがとな。作者には悪いが、ここから、俺とお前のボーイズラブでも発展させようじゃねーか!」
「それは無理だ。ところで、なんでお前には名前が無いんだ? 俺は古里って設定があるのによ」
「え? え、ちょ、...作者さーん!俺の名前って、なんですかぁ?! 名前、付けてくださいよー」
「お前の方が、作者の手のひらで踊らされてたな」