豚箱、改め、宝石箱
「なぁ古里、知ってるかぁ? 世の中にはなぁ、ブタ箱って呼ばれている場所があってよ」
「はぁ? ブタ箱って、ムショの事だろ、刑務所」
「バーカ、当たり前だろ。人の話は最後まで聞けっての。ブタ箱つったら、罪を犯した悪い奴らがお勤めする刑務所に決まってんだろ」
「だーかーらー、それが何だってんだよ」
「だからよぉ、俺は刑務所をブタ箱と呼んでる奴らに物申したい。てめぇらのその呼び方は失礼だ、ってな」
「それはお前の勝手な価値観だろ。いかに人間であっても、踏み外した道に戻るには、それなりのペナルティは必要だ」
「古里ぉ、お前、本物のバカだな? お前はバカだからブタの気持ちを考えた事がないんだ。ブタと犯罪者を同列で語るな。ブタさんは俺たちの為に生きてるんだ」
「お前、物凄く意味不明なことを言うな。てか、ブタを食べてる俺らの方が酷くないか?」
「あぁ、確かにな。だけどよぉ、人類が飢餓に耐え生き残るため、必要だと自覚すれば、ブタさんへの感謝が自ずと生まれてくるだろう。それを何の価値もない犯罪者と同列に語るな! と俺は言いたい」
「なんだよ皮肉かよ。まさに豚に真珠だな」
「いい加減な自覚じゃ、餓死者が出るぜ?」
「その時には、核戦争が起こるだろうよ。少ない食料を奪い合う戦争が」
「人類の身勝手で生物が死滅か」
「てかブタ箱と関係なくなってないか?」
「関係大ありだ! 俺が言いたいのは犯罪者はブタさんよりも価値がねぇんだよ。それ以下の未満どころでもないんだ」
「だから見下してるんじゃねぇのか? 人以下に成り下がる侮蔑も込めて、ブタ箱にぶち込む、とか」
「古里ぉ、やっぱりオメーはバカだ。刑務所に入った奴が中で何して過ごしてるんだ。毎朝決まった時間に起きて、飯食って、家具を作って、寝る。その繰り返しだろう。ブタさんはな、食わされ続けるんだよ、食って食って食いまくる。どっちの生き方が価値があると思う?」
「話が見えなくて、良くわかんねぇ...」
「娑婆に出たとき、そいつの価値が決まる」
「ほぅ?」
「ムショ暮らしをしてた奴らは、社会という存在に必要とされ許されたからこそ、外の世界に出れる。ブタさんも、俺たちが食べたいと願うからブタ箱から出れる。それがそいつに与えられた価値だ」
「なるほど、それは確かにそうかもな!」
「あぁ、刑務所はブタ箱なんかじゃない、宝石箱だ。社会が美しくなるため、その中から価値ある宝石を取り出すための箱だ」
「ふ、深いな...しかし犯罪者が宝石だなんて、考えつかん」
「あぁ…人間の価値は、簡単には推し量れない。いくら宝石だろうと、社会が必要だと思わない限り、取り出されることもない。古里は、宝石は持ってるのか?」
「貴金属なら少し、あっ、でも確かに身に着けずに箱に入れっぱなしだ!」
「それが真実だ。いくら美しくとも、必要とされなければ、価値はない」
「そうだな。ところで、今日の相談ってなんだよ?」
「彼女に貢いでたお金って、取り返せる? なんか散々、貢がされてダイヤモンドの指輪まで買ったのに、買えるお金が無くなったら捨てられたんだよ~」
「お前の価値が、無くなったんだよ」