批評家になろう
「なぁ古里、知ってるかぁ? 世の中には何でも知ってる批評家共がわんさか居てな」
「はぁ? んだよ突然。批評ってなんの?」
「決まってんだろ、批評は批評だ。人が汗水垂らして作り出した物に対して、くっだらねぇ価値基準を付けるアレだよ」
「だーかーらー、それが何だってんだよ」
「だからよぉ、俺はそいつらに物申したい。てめぇの基準なんて市販薬の説明書なみに読む価値もねぇって」
「それはお前の勝手な価値観だろ。薬品の説明書は大切だ。批評だっていい目安になるだろ」
「古里ぉ、お前、本物のバカだな? お前はバカだから風邪を引いたことがない。だから薬に頼ることもなく、説明書を読む機会すら無かったから、知ったような口を聞けるんだ」
「お前、物凄く失礼なことを言うな。てか、そこまでして批評する人を批判したいのか?」
「あぁ、したいね! 世の中は批評で溢れかえってる。やれあの薬は効かないだの、やれあのジュースはマズいだの。イチイチ誰かに伝えなきゃならない事情でもあるのかよ!」
「天気予報と同じだよ。当たるも八卦当たらぬも八卦」
「いい加減な情報じゃ、死人が出るぜ?」
「その時は気象庁から特別警報が出るだろ」
「直面してからじゃ遅せぇんだよ!」
「てか批評と関係なくなってないか?」
「関係大ありだ! 俺が言いたいのは人の言うことに右往左往するんじゃなくて、自分の感性で受け止めてこいってことだ」
「だから批評してるんじゃねぇのか? 評判見てその通りだった、とか、違う印象を受けた、とか」
「古里ぉ、やっぱりオメーはバカだ。明日からうどん屋始めようとうどんの暖簾掲げてた奴が、あれ? 俺の作ってたの蕎麦だった、やっぱり蕎麦屋始めます。って暖簾をかけ違えるほどのアホだぞ」
「その例えがよく分からん…」
「批評の風呂に浸かってから外出するなっての、バカでも風邪を引く」
「ほぅ?」
「外から帰ってきてから、批評の風呂に浸かれ。そしたら残るのはお前の真っ直ぐな感性だけだ」
「なるほど、それは確かにそうかもな…! お前は自分の感性だけを信じて生きてきたんだな」
「あぁ、映画も小説も、俺に感じられないものはほぼ無い」
「ほぼ? 熱く語ってたお前が、感じられない物があるのかよ!?」
「あぁ…神が唯一俺から奪った、モノ、とも言えるな」
「お前から奪ったモノ…?」
「あぁ愛だよ」
「ん…? あぁ…愛ね。そっか、お前、まだ童貞だっけか…」
「彼女って、良いものなの?」
「自分の感性で受け止めてこい」