表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

SNSの神様

作者: 束田慧

 この国には八百万の神がいる。自然のものはもちろん、あらゆる人工事物に至るまで、万物に神が宿る。

 人間は、ほんの一瞬の間に多くの神を殺し、また生み出してきた。文明が発展するにつれ、神も多様化してきている。

 性格も十柱十色。およそ神らしくないものもいくらでもいる。スーパールーキーことSNSの神であるこの俺のようにな。


 俺は新しくて楽しいことが大好きだ。厳格で保守的なご尊老の方々にへつらうなど反吐が出る。

 SNSは俺の暇つぶしの為の庭だ。何をしようが自由だし、咎められることはない。

 SNSにのめり込んでいる人間も俺と同じだ。神様気取りの輩が多いこと多いこと。

 それをただ眺めていても、いずれは飽きがくるものだ。時には、この俺自ら火種をまいてやることもある。

 最近爆発的にユーザーが増えている『神の庭』もその一つだ。自称神様達の憩いの場として提供している。

 神が下界に対して何かする時は基本的に相互不干渉だが、独りじゃ何も出来ない下界の神はさすがと言うべきか、他人を貶めて快楽を得ることばかり考えている。涙が出てくるね、面白すぎて。

 とはいえ、このままだといつもと同じだから、何か一つ刺激を与えてやろう。


 例えばそう、自称を本物にしてやるとか。


 最初に目を付けたのは、『ブログの神様』とかいうハンドルネームの女だ。同名である先達の神には散々世話になったからな。たまには恩返しをしてやるのも悪くない。

 神にしてやると言ってもその力の効果範囲は「神の庭」で書き込んだことに限られる。さらに、ブログの神ならば、ブログに関わる内容のみだ。

「ブログの神様」がもっとアクセス数を稼ぎたいと呟いたらどうなるか。簡単だ。どんなにつまらないブログだろうと、その瞬間からトップブロガーの仲間入りである。

 神のすることだ。誰も不自然さは感じない。本人にも自覚はないがな。だが、彼女はすぐにでも、名実ともに神になるだろう。人間は、何でもかんでも神と言いたがるからな。


 実験的に一人だけ本物にしてみたが、その後「ブログの神様」は俺を大いに楽しませてくれた。この分だと、全てのユーザーに力を与えてやったら最高のショーになりそうだ。 俺はあくまでもこの国の神なので諸外国にまで力は及ばないが、この大国の過半数が力を持てば、良くも悪くも世界はかつてない変革を遂げる。

 考えただけでもゾクゾクしてくる。「ブログの神様」もそうだっだように、元の神も含め、同じ神が何柱も誕生することになるだろうが知ったことではない。むしろ、そっちの方が複雑で面白そうだ。


 全てのハンドルネームを確認することなど一瞬で済むが、俺はあえてそれを怠り、数百万にも及ぶ人間を神に取り立てた。

 するとどうだ。一日も経たないうちに人類の短い歴史はねじ曲がった。

 我が子とも呼べる神達は、その力を遺憾なく発揮してくれている。こんな爽快感は、神として生を受けて以来初めてだ。

 俺は今、多くの神を統べる神の中の神になった。ただ偉そうにしているだけのお歴々とは訳が違う。相互不干渉などクソ食らえだ。この勢いで、他の神すらも支配してみせる。

 と、俺にしては珍しく熱くなってしまった矢先、あるものを見付けて、爽快感は一瞬にして不安感に変わった。


 この『?の神様』というのは一体何者だ?


 そいつは、全てが謎に包まれたユーザーだった。プロフィールは空白。写真もなく、今までの書き込みは全て消されている。神である俺に、隠し事など出来るはずはないが、そいつはまさに正体を隠しているようだった。

 こんなことが出来るのは俺と同等以上の力を持つ神か、あるいは…… 

 他の可能性もあったが、それを考える余裕を「相手」はくれなかった。まるで俺が今こうして見ているのを知っているかのようなタイミングで、


『お前の悪行、全て知っているぞ。神といえどやっていいことと悪いことがあるのだ。俺はただの人間だが、お前の愚かな行いのおかげで同じステージに立てている。世界をこんな風にしてしまった責任は取ってもらうぞ』


 と書き込みがあり、直後、『?の神様』が『SNSの神様』に変わった。空白だったプロフィール欄には『二代目』の文字。続けて、こう綴られた。


『先代はお隠れになられた』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ