第3.5話 『リンク』
「ようやく意識がリンクできたぞ。初めまして、お前にに囁いていた者だ。では、早速答え合わせを始めようか」
「半分は正解。完答はお、ま、え、は、こ、ど、く、だ。お前は容姿に恵まれ、才能に恵まれた。そんで、できすぎるがゆえに、いつも周りの人間が自分と対等な立場にないことを悩んでいた」
「お前自身は周りと歩幅を合わせようと努力していたのだろうが、完全に対等になることはできない。そうだろう?」
「対等に見せかけた欺瞞。虚偽の信頼。脆い友情。それらを守るためにお前は努力してきたが、無駄だ。天才と凡人は、生まれた時から立場が違う。そういう人間は高嶺の花とか言われるんだろうが、まさしくその通りだ」
「IFの話をしよう。もし、10年前に廉治と出会っていなかったら、お前はどうなっていたと思う? 答えは、孤独。常に自分一人で、何事も器用にこなせるから、何事にもすぐに飽きがくる。やがて人生に希望を見いだせなくなっているだろう」
「だが、幸い10年前からお前を目標に努力する凡人がいた。お前を理解し、お前に寄り添い、お前と時を共にする凡人だ」
「だから、お前の恐怖の本質はもっと単純だ。いつか廉治とやらがお前の元から離れて行ってしまうこと」
「だから賭けをしよう。少し鎌をかけてみるといい。廉治とやらが受け入れるようならお前の勝ちだ。それはそれで壊しがいがあるが、それでは今までと変わらん。だから、俺は今回お前から身を引こう。
だが、もし廉治とやらが拒むようなことがあれば、貴様を徹底的に絶望させて、心を壊す」
「裏切りに絶望する様を見るのが一番悦に浸れるからな。自分の一番の拠り所を失った時、心が折れる。そこから心を粉々に壊す過程こそ至高なんだ。お前のような恋する乙女の心は特に、だ」
「一週間だけ待ってやる。その間にやれるだけの努力をするといい。ただし、俺の存在を他人に明かすのはご法度だからな。バラしたら問答無用でお前を壊す」
「安心しろ。俺は廉治とやらといる時のお前には干渉できない。今まで廉治という抑止力に阻まれて断片的にしか掌握できていなかったんだが、今日のこの様を見られたことで、お前の心に大きな隙ができた。抑止力が効く前にほぼ完全に掌握できてよかったぜ」
「まったく、こんなに手こずったのはお前が初めてだ。だが、俺がお前の魂にリンクした以上、賭けないという選択肢も、蔑ろにする権利もすでに失っていることを忘れるな」
「ちなみに、賭けに応じない選択は言語道断。俺のできうる最恐を以てお前の心を粉砕してくれよう」
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は貴様らみたいな期待と希望に満ちた生活を送る連中を破滅に導く悪魔のような存在だ。ま、これから死にゆく者に自己紹介したところで無駄なことではあるんだが」
「抗え。もがけ。苦しめ。悔め。涙しろ。そして最後に絶望し、俺を楽しませてみせろ。お前には期待している」
「もう一度言うが、すでにお前の心は掌握済みだ。お前の生殺与奪権は俺が握っている」
「では、しばらく俺は静観することにしよう。それではな」