第4話 『不意打ちは唐突に』
おばさんと言っても、彼女の見た目は若々しさに溢れている。
愛乃も彼女の美しさを受け継いだのだろう、整った顔立ちとスタイルのよさが特徴的な女性だ。
いつもは愛乃と向かい合って座るが、今日は代わりにおばさんが向かいに座っている。なんだか不思議な気分だ。
「最近の愛乃の様子についてお聞きしたいのですが……」
一応、寝ている愛乃に気を遣って小声で話しかける。
すると彼女は「そうね」と頷き、テーブルに両肘をついて物憂げな表情をする。
「何から話そうかしらね……」
「じゃあ、学校を休むようになる前くらいから話してもらえますか?」
「分かったわ。愛乃はみんなに迷惑も心配もかけたくないってタイプの子でしょ? だから最初は何を聞いても笑って誤魔化されていたの。でも、親って子供の異変に気付くじゃない? それで気にしてたところに、ある日の食事中、突然倒れたの。それで、急いで救急車呼んで、搬送してもらったのが最初ね」
「そんなことがあったんですか……」
「それで、落ち着いてから精密検査をしてもらったんだけど、原因は分からなかったの。だから少し家で様子を見ることにしたんだけど、頭痛とか脚気とかあるみたいだったから、内科や精神科を転々として、結局ストレスとプレッシャーじゃないかって」
「その話は少しですけど、本人から聞きました」
「あらそう? それで、私にはまだ何か隠してるように感じるのよねぇ……。根拠は母親の勘ってやつかしら」
「そうですか……」
元気だけど、何かしらの影響を受けて頭痛などの症状が出る。精密検査でも原因は分からない。となれば、あとは愛乃が打ち明けてくれるのを待つか、おばさんが何かに気づくしかない。そう思うと、すごくもどかしい。
「う、うう……」
「愛乃?」
「れ、んじ……」
「俺はここにいるぞ」
「み、ずが、ほし、い……」
「分かった。すぐに持ってくる。おばさん、お願いしても──」
言いかけた時にはすでに彼女の姿はなかった。
愛乃が起き上がるのを手伝って、水を飲ませてから数分後。
「あ、お母さん……」
「落ち着いた?」
「うん、ありがと……」
「それじゃ、また何かあったら呼んでね」
「はい、ありがとうございました」
おばさんは言うが早いか部屋を出て行った。そんなに俺たちを二人きりにしたいのだろうか。
「ごめんね、心配かけて……」
「病人が心配をかけるのは当然だ。さっさと治して安心させろ」
「うん。ありがと」
「俺は今日も7時に帰るから、寝るなり喋るなり好きに決めてくれ。今日は愛乃の体調次第だ」
「じゃあ、喋る。客人を前に寝れないし」
「おいおい、別に気を遣わなくてもいいんだぞ? まぁ、愛乃がそういうならいいんだけど」
「じゃあ──恋バナして」
「は?」
「だから、こ・い・バ・ナ。廉治は好きな人とかいないの?」
「そんなんいてもお前には教えてやらねーよ!」
「へぇ~。好きな人いるんだ~」
「あ──────! はい、この話は終わり!」
「私にはいるよ」
「だから終わりって──」
「私は廉治が好き」
「…………」
才色兼備、文武両道の幼馴染にコクハクされた時ってどう反応すればいいんですかね? ダレカオシエテクダサイ。
この場合──
承諾すると、愛乃に告白した男子連中を中心に、俺への嫉妬と殺意が向けられ、危険に晒される。
拒否すると、なんで断ったんだと女子連中を中心に、俺への軽蔑と殺意が向けられ、危険に晒される。
「…………」
「廉治?」
よし、この場合はとりあえず、万能の──
「お前の病気が治ったら、返事するよ。だから、返事を楽しみにして、さっさと治せ」
「あ~。はぐらかした~」
返事引き伸ばし作戦。これでとりあえずは大丈夫だろう。
「あ、さっきの告白、冗談じゃないからね? 頑張って治すから、ちゃんと私のすべてを受け止める覚悟、しておいてね?」
「俺は考えておくとは言ったが、覚悟を決めるとは言ってないぞ!?」
「私に告白してくる男子は多いけど、私が告白する男子は未来永劫廉治しかいないって断言できるよ? 廉治は私の愛の包囲網から逃がさないんだから♪」
「お前絶対わざとだろ!! 俺の反応を楽しんで遊んでるだろ!?」
「ふっふっふ……。お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな……」
「てめぇっ……」
やっぱり愛乃を見てると、とても病人とは思えない。