第17話 『最悪のクリスマスプレゼント』
「なあ、俺が言うのもなんだけどさ、本当に俺でいいのか?」
「もちろん不安はあるよ? でも、ずっと一緒にいた幼馴染の頑張りを信じられないほど、私は薄情な人間じゃないから」
愛乃ははにかむように笑い、「それと」と付け加える。
「……廉治以外の男になびくなんてありえないし」
「愛乃……」
「さ、帰った帰った。どうせずっとここにいたんでしょ? 一旦帰って休んできなって」
「そうだな。愛乃が起きたから、安心して疲れが出てきてるかも」
大きなあくびをして、伸びをする。
「それじゃ、少し寝てから、また面会開始時間には来るよ。おやすみ、愛乃」
「うん。おやすみ」
○
「久しぶりだな、愛乃」
「誰!?」
突然何者かの声が頭に響いてきた。初めてのはずなのに、どこか知っているような響き。
辺りを見回すけれど、誰もいない。
「まぁ、そう警戒するなよ──と言っても無駄か。俺に関する記憶を抹消したんだからな」
声が次第に近づいてくる。
「来ないで!」
「とにかく、俺からもクリスマスプレゼントとやらをやろう」
ベッドの上に、一匹の黒猫が飛び乗ってくる。片目に傷を負っているのが特徴的な猫だった。
この黒猫が私に話しかけているのだろうか。
「一筋縄じゃいかないやつは嫌いじゃねえ。けどな、俺のシナリオをぶち壊すやつは大嫌いだ。初めからこうするべきだったよ」
「なんの……こと……?」
言い知れぬ恐怖。かつて聞いたことがあるような底冷えするような声。これは──あの“何か”。
「思い……出した! お前は──」
「お? 記憶の隠蔽効果も薄れてきてたか。こりゃすげえや。でもな、その抗力が今からお前を苦しめる。俺がお前に何をしてきたかは思い出したんだろう?」
すべてを思い出した。恐怖、焦燥、悲哀──そして喪失を。
「なんで何度も何度も私の前に現れるの!? どうして私から何もかも奪っていこうとするの!」
「いいね~。取り乱した貌も最高だ。もっと見ていたいが、あんまり騒がれても面倒だ。ちょっと寝てろ」
「待っ────」
黒猫の目が突然光ったかと思うと、私の中に黒い奔流が流れ込んできて、意識を失った。
「俺の辞書に情け容赦という文字はないんでな。もう1回きっちり絶望してもらうぞ、井原愛乃」