第15話 『自罰』
誰も私のことを信じてなんてくれない。
もう私のことなんて誰も見てくれない。
最後の頼みだった廉治も遂に現れることはなかった。
この辛さをどこにぶつけたらいいんだろう。
居場所を失った私に、誰が手を差し伸べてくれるのだろう。
この苦しみを忘れさせてくれて、みんなに私の辛さを最大効果で伝えられる方法ってなんだろう。
ああ、そうだ。テレビで見たことあるよ。
この辛さを、痛みで上書きしちゃえばいいんだ。みんなにとっては全部私が悪いんだから、私が罰を受ければみんな許してくれるはずだ。
確か仏間にはお父さんの形見のサバイバルナイフが置いてあったはずだ。
お母さんに迷惑をかけたくないし、悲しませたくもない。だから、今一番近いところにいるお父さんに助けてもらおう。
仏間からサバイバルナイフを持ってきた。
パジャマの袖を捲って、手に当てて、スーッと横に引いた。
痛かった。でも、辛い気持ちは、さらに刺激的な痛みによってかき消された。
痛かった。でも、私が罰を受けなきゃいけないんだ。そうしたらみんな許してくれるはずだ。
腕を血が一筋流れていく。床に血が滴る。その紅は罰の象徴。
もっと、もっと、もっと、もっと、この辛さを上書きしよう。
私が救われるために。
私が許されるために。
私が耐えるために。
みんな、ごめんね。みんなに罰せられるのは怖いから、私が私を罰します。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
……ところで、どれくらいやったら許してくれるんだろう。
しばらくして、私の周りには血だまりができていった。
意識が遠のいていくにつれて、思い出が走馬灯のように駆け巡る。
引っ越しの時、初めて廉治とあったこと。
毎日のように廉治と遊んだこと。
告白されるようになって、ようやく自分の気持ちに気付き始めたこと。
何でも器用にできるから自己嫌悪して泣いたこと。
廉治がいつでも側にいて慰めてくれたこと。
廉治がいじめられていた時、少しだけ距離をおいたこと。
それでも「お前が側にいれば大したことはない」と言ってくれたこと。
一緒に受験勉強をしたこと。
一緒に合格発表を見に行って、肩を抱き合って大喜びしたこと。
一緒に登下校して、他愛もない会話で笑いあったこと。
そして、今すべてを失ったこと──。
思えば、私の人生にはずっと隣に廉治がいた。
「れ、ん──」
伸ばした手は誰にも届くことはなかった。