第14話 『すれ違い』
12月21日。金曜日。
覚悟していたとはいえ、周りからの鋭い視線が私に突き刺さり、とても長く辛い1日だった。
授業中だろうと、廊下ですれ違った時だろうと、私のことなど考えずに無遠慮な視線が注がれた。これまでとは明らかに違う、攻撃的な視線だ。
自学ノート100ページと反省文は昨日の夜に書き終わり、押印回りは今日の休み時間を使って終わらせた。
先生たちは反省文とノートの出来を見て、いくらか溜飲が下がったのか、当たり障りのない「相談があればいつでも来なさい」という信頼できる教師アピールをしてきた。相談したところで絶対信じてくれないくせに口だけは達者だ。けれど、時と場合を考えて、申し訳なさそうに返事した。
昨日は、お母さんには電話で伝わっていたんだろうけど、いつも通りに接してくれた。決して追及することも怒ることもなく、黙って私に寄り添ってくれた。
廉治とは今日も話してないし、連絡も取っていない。もしかしたら廉治にも何かしてしまっていたんじゃないかと思いと怖くて聞けない。
でも、話さなきゃならない。廉治だけには絶対に離れて行ってほしくない。だから、震える手でケータイを握りしめ、廉治にメールを送信した。
きっと廉治なら分かってくれる──そう信じて。
待ち合わせ場所に指定したのは、家からほど近い小さな公園。そこは、幼い頃廉治と一緒によく遊んだ公園だ。
寒空の下、ベンチに腰掛けてからどれくらい時間が経っただろう。辺りは次第に暗くなってきて、ついさっき公園の街灯がついた。
○
愛乃からメールをもらった時、思わず身構えてしまった。
恐る恐る確認する。「話したいことがあるの。公園で待ってるから」という短い二言だった。
甘言に釣られて現れたところに、また罵倒を浴びせられるのだろうか。それとも、謝罪したいのだろうか。
これ以上傷つきたくない反面、行かなければ後悔する気がした。
急いで支度をして、家を飛び出す。
何もかも忘れるように、ただひたすら公園までの道を走った。
「…………」
公園の植木の隙間から様子を窺うと、愛乃はベンチに座っているようだった。
愛乃を見たからか、心臓が激しく脈打ち、膝が笑っている。指先は震え、足が竦む。
『告白だと思ったか? バーカ! そんなわけないじゃん(笑)』
『お前みたいなやつと付き合ってやってる私の身にもなってみろよ』
『出来損ないの幼馴染だな、お前。私があれだけ手ほどきしてやったのに』
『所詮、凡人が努力したところで天才には釣り合わないし、届かないんだよ』
屋上での罵詈雑言がふと頭をよぎる。
追いかけた背中は知らず知らずのうちに遠のいていたのだろう。愛乃も俺に合わせようと努力していたけれど限界に達したのかもしれない。
絶交しようと言われるのだろうか。俺の存在は、愛乃にとって枷だったのだろうか。
「ごめん……」
それでも俺は、まだ愛乃という憧れを失いたくない。
たとえ、幻滅されていたとしても。たとえ、失望されていたとしても。たとえ、見損なわれていたとしても。
愛乃は俺のすべてだった。失ったら俺には何も残らない。
これは俺のわがままだ。もしかしたら絶交の話じゃないかもしれないけれど、それに賭けるほど今の俺は強くない。
もう一度愛乃を見る。相変わらず俯いていた。
愛乃を見るまでは後悔するかもしれないと思っていた。けれど、絶交は後悔するより辛い。
「ごめん……」
もう一度呟いて、踵を返した。
まだ俺には、愛乃に会う勇気がない。