第9話 『踏み外した人生』
「愛乃、俺は──」
俺は背後から抱き着く愛乃を引き離し、正面に座らせる。
「愛乃、俺はお前の期待に応えることはできない。俺の知ってる愛乃はそんなやつじゃなかった。だけど、愛乃に教えてもらえれば、協力できることがあるかもしれない。だから教えてくれないか?」
「それは、できない。廉治が私を受け入れない限り、それは許されないの……」
「そうか……。じゃあ、俺には無理だ。ごめんな。それじゃ」
へたり込む愛乃を残し、一人部屋を出る。
これでよかったのだ。もし、ここで一線を越えていたなら、俺は俺を裏切ることになる。
愛乃はいつも元気があって、誰にでも優しくて、それでいて自分のことは後回しで。
けれど、今の愛乃は自分のことが最優先で、何か焦っているように見えて、一時の感情のみで動いているような気がする。
ごめんな、愛乃。告白の返事、俺もどう答えていいか分からなくなってきた。
俺が好きなのは俺が理想とする愛乃なんだ。けれど、今の愛乃はそうじゃない。だから、ごめん。
○
私は何を間違えたのだろう。
やれることはすべてやったつもりだ。できる限り精一杯頑張って、廉治の気を引こうと頑張ったはずだ。
きっと、私は冷静ではなかったのだろう。廉治は私のことを変わったと言った。確かに私は一心不乱で強引で死に急いでいたのかもしれない。
賭けを始めさせられてから、私の中にあった感情は、恋慕、恐怖、焦りの3つ。
私はずっと前から廉治のことが好きだった。だから、すぐに結果を求められる状況に陥って、とりあえず告白をしてみた。結果は返事の先延ばし。
どうしてかは分からなかったけれど、私に残された時間は僅かしかない。だから、積極的にアピールして、気を惹く努力をした。賭けに負けた後のことを考えると、とても自我を保っていられないと直感したからだ。
しかし、廉治の言う通り、私は死に急ぎすぎたのかもしれない。今まで通りを壊してまで焦る必要は果たしてあったのだろうか。短絡的思考だけで行動した私の誤りだ。
いくら私でも、さすがに余命宣告をされれば苦しみもするし、焦りもする。その恐怖が私を駆り立てていたのかもしれない。
後悔先に立たず。今頃反省と考察をしたところで手遅れだろう。きっとすぐにでもやつは現れる。
だから、やつが来る前に廉治に謝っておこう。そう思い、ケータイを手に取り、言いたいことはたくさんあったけれど、送信できないと意味がないと考えて一言『ごめんなさい』と打って送信した。
「恐怖が正常な判断力を鈍らせる。一週間でどうこうできると思ったか?」
「…………」
「ま、何はともあれお前は負けた。廉治はお前を受け入れなかったとみなす。ま、成功しそうだったら俺が邪魔に入る予定だったんだがな!」
「…………」
「おい、なんとか言えよ」
「…………」
「もう気力すらなくしたのか? つまんねーの。だが、俺はお前に約束したからな。約束はきちんと守るぜ」
「…………」
「さあ、始めようか。俺の娯楽の時間を」