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*13 想うこと

 ──なんだか寂しそうに見えた。

 

 車に酔った栂谷(つがや)の為の飲物を買って戻った時、彼女に抱いた印象だった。

 

駐車場の車止めのコンクリートに座り、俯く彼女はなんだかはかなげで。

 

近付きがたくてつい、足を止めそうになった。

 

 ここのところ、彼女はこんな表情を浮かべることが多くなった。

 

奴 ─市田 歩─ が忙しくなったあたりから。

 

奴が忙しくなった理由もわかっている。

 

指導教官が変わって、尚且つ人使いの荒いことで有名な保田先生に妙に気にいられてしまったから。

 

自分の時間さえ取れないような過密なスケジュールに追われているようだ。

 

(こき使われている、とも言う)

 

それだけ、期待されている、とも言えるのかもしれないが。

 

 だからと言って、彼女へのフォローを怠るのは理由が違う。

 

たとえ、彼女が『大丈夫』と言ったとしても。

 

 

──大した事は出来なくても、気づいてぐらいやれよ。

 

 

 奴は知っているんだろうか?

 

彼女にこんな表情をさせてしまっていること。

 

 振り返って、手を引かれるままの彼女の様子を伺う。

 

こんなことでも、少しは彼女の気を紛らわせてやれるだろうか?

 

細い指を握り締める。

 

 

 

 

「ね、ここも写真撮って良い?」

 

「あ、すみません。お願いします」

 

 ──ほんとにすみません。

 

栂谷に頼んだ俺が馬鹿でした。

 

 資料用のカメラを栂谷に頼んだら、忘れなかったものの電池切れ。

 

確認させなかった俺も悪いけどさ。

 

自前のデジカメを持って来ていた佐伯さんにお願いした。

 

「……糸屋くん、ごめん」

 

 栂谷が俺の様子を伺う。

 

いつも寄せている眉を更に寄せて。

 

いつにもまして、オドオドしてやがる。

 

──どこの捨て猫だよ、おい。

 

「……仕方ねぇよ。確認しなかった俺も悪かった」

 

 栂谷の、そういった所でドジを踏む気質を、すっかり忘れていた。

 

今に始まった間の悪さではないのだ。

 

「だから、気にするな。今回は佐伯さんに助けられたけど、最悪使い捨てカメラ買うとか、どうにでも出来るんだから。まとめる時はあてにしてるから、頼むな?」

 

 こんなドジばっかする奴でも、研究室で一緒にいることが多くなったせいか、いい所も見えて来たりする。

 

物事を見る視点が俺とは違うし、細やかだ。

 

出来れば、一緒に卒業したいし、させてやりたいと思う。

 

「栂谷くーん! ちょっと来て?」

 

「はぁい」

 

 佐伯さんに呼ばれた栂谷の代わりに、佐伯さんが俺の隣に戻って来た。

 

「カメラ、栂谷君に預けて来ちゃった。あたしばっか撮ってちゃダメだし」

 

 論文の資料だし、さすがにダメだよね、と彼女は笑う。

 

寂しさなど感じさせないくらいの笑顔で。

 

「うん。あいつに任せとけばいいよ」

 

「……それでもダメだったら言ってね。去年撮ったやつならまだあるから」

 

 内緒話をするように耳元で囁かれる。

 

「はは。その時はお願いします、先輩」

 

 思わず、苦笑してしまう。

 

行動パターン読まれてるよ、栂谷。

 

「え~、なんで笑うの?」

 

「いや、ちょっと……。なんでもない」

 

 つられたように彼女が笑った。

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