ひかりみちたり
ライゾンのことを切っ掛けに、全ての罪が露呈した私は、今赦しを求めてこの地にいる。
下界、と私達が呼んでいる場所に。
この世界に住んでいる者は皆、生まれた時から黒の髪と目をもっている。
ここは呪われた者ばかりがいる、汚れた地なのだ。
この地に堕とされる。私の罪はそれほど深かった。
けれども私はここでは罪を償えない。
なぜなら私は今とても幸せなのだから。
この世界の者は誰もが私を美しいと誉めそやした。
世辞でも嘘でもない心からの賛辞。
私は沢山の男から贈物や愛の歌をもらった。
しつこく愛を語る五人の男には、私が上界でライゾンの為に必死にかき集めた宝の数々を持ってくるように言った。
そうすることで私の上界での苦しみが少し救われる気がしたからだ。
ここは私の全てを受け入れてくれる。
わたしが上界で味わった苦痛を癒してくれる。
生まれながらに呪われた者が住むこの地で、最も呪いの色を強く受け継いだ私が輝ける。
そして私はこの地で、私と同じ黒い髪。私と同じ黒い瞳。そしてほんの少しライゾンの面影のあるあの人に出会った。
彼が愛しい。ライゾンと違って本当に私を想ってくれる彼が、好きだ。
私はもうすぐ刑期を終え、上界に戻されてしまうけど、それでもいつか絶対この地に戻ってくる。
それは数十年、数百年の時をかけるものかもしれない。
それでも彼には生きて待っていてもらいたい。
懐から上界から持ってきた天緑の薬をそっと取り出す。
そう、あの人にこれを飲んでもらうのだ。
下界のあの人がこれ飲めば、不死の薬となる。
私はまた上界という、私にとっての地獄に戻る。
けれどいつの日かこの地に戻ってきて、待っていてくれた彼と再会する時、私はようやくライゾンを赦せるのだ。
月をぼんやりと見上げる女の横顔を翁が見つめていた。
ああ、なんて美しい私のむすめ。
この子は天からの贈物。
誰よりも美しく清らかな私のむすめ。
けれどもなぜだろう、むすめは時々今にも消えてしまいそうな程に儚くみえる。
憂い顔を見せることが殊更多くなった。
一体何が不安なのだろう。この子はあの、帝にさえ想いを寄せられているというのに。
むすめの頬にはらはらと透明な涙が流れるのを見て、翁は驚いて声をかけた。
「どうしたのだ?なよ竹の……」
むすめは泣いているとも笑っているともわからない顔で言った。
「私はもうすぐ月へ帰らなくてはいけないのです」