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ふせうなりしかば

コミコス=アバリシアはあらゆる意味で問題のない男だった。

通常、父親の仕事をそのまま息子が受け継ぐが多かった。しかしそれは必ずしも長男というわけでなく、生まれた子どもの中で優秀な者を周りが選ぶことになっている。バルロマは三人兄弟の長男。勤勉でなかなか合理的な考えをする人間だった。父親の跡継ぎとしては今のところ有力な候補である。

きちんと撫で付けた灰色の髪に、生気のない暗い顔立ちをしていた。妻になる女を初めて目の前にして、その酷く眠たそうな瞳を僅かに不快そうに顰めたきり特に何の反応もしなかった。

王の臣下と皇女が結婚することは、そう珍しいことではない。国王は財力を持った臣下を確実に手元に置いておく為、臣下はさらなる権力を手に入れる為、大臣クラスの人間と王家の人間が婚姻関係を結ぶことは時折あることだった。

しかし未だ確実に大臣になると決まってない者との結婚はさすがに稀なことだと言えた。

王は正に念のためのカロラリヤ家の力を手元に置きたかっただけだろう。だから女が選ばれたのだ。

王にとって娘など、より王家の力を絶大なものにするための道具にしか過ぎないのであろうが、その中でも女の存在は、一番乱暴に扱っても構わない、念のための予備者だ。

そしてそんな女を当てがわれたコミコスもそのことはよく知っているに違いない。

「お会いできて光栄です」

全く抑揚のない声で挨拶をするコミコスの瞳には、女への興味が微塵もなかった。昔の女だったらそんなコミコスの姿に傷ついていたかもしれない。しかしこの身を愛してくれる者の存在を感じる今は違う。この男ならいくらだって欺くことができる。

ライゾンとの逢瀬の時間を充分にとることができるだろう。表面上は人形のようにお前に傅こう。だけど本当の心はいつだってライゾンのものだ。

「私も貴方の妻になることができて光栄ですわ。コミコス様」

婚礼を間近にして初めてお互いの姿を見た男女は、心からお互いを嘲りながら、ひどく空虚な微笑みを交わした。


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