双子vs双子
馬鹿でも分かる。
どうやら僕たちは異世界にいるらしい。そうでなければ、あの緑色の太陽のことやロンという少年の言葉にも説明がつかない。
学校で変人呼ばわりされている僕だけど、さすがに異世界までは信じていなかった。だが、この状況を察する限り、信じなければ生きていけなさそうだ。
僕がそう考え込んでいたすきに、バカ姉はレンという少年にアホらしい話を繰り広げている。にこにこ笑って話に付き合っているレンさん。ただ者じゃないかも。2人の隣で話を聞き流しているレンさんとは案外気が合いそうだ。満莉愛の話に付き合わない人なんて稀だからな。みんな見た目に騙されすぎだっつうの。
でも、相変わらず2人が上半身裸なのはさっぱり理解出来ないけど。
ん?
さっきまで2人が持っていた剣はいつの間にかそれぞれの腰についている鞘にしまわれていた。おかしい。いつのまに?剣なんて物騒なものしっかり見ておかないと何されるか分からないのに。
警戒していたはずなのに。
「ねぇ、満茉!レンさんが家に来ないか、だって。行くよ~」
そうだ、あいつのせいだ。あいつにいちいち構っているから本来怠ってはいけない警戒心がとけていたんだ。いけない。いけない。警戒しなければ。
本当、1日に軽く三桁は溜め息ついている。
ハァ~。
「満莉愛、いくら何でも初対面の人の家に行くわけにはいかないだろ。そちらさんにご迷惑がかかるだろ」
満莉愛の肩をポンポン叩き、そう言う。
こいつらのこともこの世界のこともよく分からない今、迂闊に近づくのは危険行為だ。
ちらりと2人の少年を見やる。よく見ると、意外と2人の顔が似ていることに今更ながら気づいた。名前も似ているし、兄弟なのか?まあでも、異世界だし。あんまり深読みしないほうがいいかも。
「なぁ、あんた」
「?」
ロンさんだった。ロンさんがこちらを鋭く睨みつけている。
前言撤回、やっぱり僕は誰とも気が合わないのかも。僕、なんか失礼なこと言ったかな?もといた世界でも、誰とも仲良くなんて出来なかったし、ましてや異世界なんてもってのほかなのかな。
「おい、満茉つったっけ?」
「そうだけど」
「さっきからお前の警戒心バレバレなんだけど。そんなに俺たちが怖いのか?それとも、お前は俺たちの敵なのか?」
そう言うと、少年は剣を抜いた。
何を言っているんだ。この人。
僕は満莉愛を引っ張り、自分の後ろに置きつつ、軽く10歩ほど後退した。
とりあえず彼らからは少なくとも距離を置けた。
「ロン、せっかく俺がゆっくりと素性明かそうとしてたのに、どうしてお前はいつもそう焦るんだい?」
今度はレンという少年が剣を抜いていた。その顔には相も変わらず笑顔が浮かんでいる。優しそうで上品な。
やっぱり、人は信じられないよな。
相手が1人なら余裕でいけるけど、2人は少しきついな。
しかも今の俺の格好はダボダボのジャージ。満莉愛はワンピース姿。剣がかすりでもしたら命取りだ。
「満莉愛、下がってろ。お前には警戒心が足りないんだよ」
「だってさ、もしかしたら、この人たちが知らないだけで日本への帰り道はあるかもしれないじゃん。だって、地球は空で繋がっているもん。だから、お話していろいろ聞くことは大事よ?」
あぁもう、本当に馬鹿だな。
こうやって喋っている間にも向こうはこっちの様子をうかがっているっつうのに。
「満莉愛、よく聞け。日本へは帰れない。ここの空は日本と繋がっていないんだ。ここは‥異世界なんだよ!」
そう叫ぶ間も、僕は少年達と目をそらさない。瞬きもしない。したら確実に終わりだ。僕には分かる。
「異世界?どうして?」
戸惑う満莉愛を後ろ手に突き飛ばす。
そして、剣を構える二人のもとへ走った。
「そんなの、僕だってわかんねえよ!」
2つの剣は僕の体目掛けて振り落とされる。僕はそれをなんとか行った、前周り受け身で交わし、剣が再び振り下ろされる前に素早く起き上がり、それと同時に2人の背後へと移動する。
『!?』
2人の驚愕の言葉など聞かないうちに、僕はまず、レンの右腕を蹴り上げる。
昔教わったとあるツボ。
そのツボは激しい刺激を与えると、右半身がしばらくの間機能しなくなるのだ。正直言って、異世界人に利くのかは賭けだったけど、どうやら僕は賭けに勝てたようで、レンは動けない右側から崩れ落ちた。
やっぱり、しばらくのブランクで速さも威力も落ちているけれど、それでもなんとか行けそうだ。
ふと、剣の切っ先が僕の脇腹をえぐろうと延びてきた。
僕はそれを重心移動でなんとかよける。だが、反応が遅かったらしく、剣は脇腹を掠めた。チクリと痛んだがそんなのは気にしていられない。
最悪の場合、満莉愛一人でも生き延びればそれでいい。
だが、相手を見る限り、それは杞憂だったらしい。
「お兄さん、かな?やっぱり先に倒して正解だったかも」
「な、なんだと?」
ロンの瞳は据わっていたが、手がガチガチに震えている所為で剣をまともに持てていない。先にレンを倒したことが利いたらしい。なにせ、一蹴りで相手を崩させたんだからな、さっきの僕は。でもこれでは、彼の剣は対象物を斬れない。
「言いたいことがあるんだ。ロン、さん」
「敵であるお前の言葉など聞かない」
なぜそんなことを言うんだ。
僕は戦う気なんて、君達が持たなければ持たないのに。敵になる気はないのに。どうして僕はいつも…
「先に手を出したのは僕だけど、僕は、僕たちは、君達の敵じゃない。僕たちは君達をどうこうしようとなんて、思ってないんだ」
「そんなこと、信じられるか!お前たちのそのなり、それに変な言動、何より他の国からきたというその言葉、敵としか考えらんねー!」
確か、この人、ロンさんは今僕たちがいるこのなんとかという国にしか、人間は住んでいないと言っていた。じゃあ、他の国には“何”が住んでいるのだろうか。
それが彼らの敵。
他の国から来たら敵。
それじゃあ…。
僕はダメ元で叫んだ。
「僕たちは異世界から来たんだ!」
ロンは首を傾げた。異世界人でも、異世界って言葉はよく分からないのか?さすがに僕も早まり過ぎたか。僕はどうしてこう、いらないことして失敗してしま……
「異世界人なら、何故すぐにそう言わないんだ?」
呆れた。という表情で、ロンは剣を鞘に収めた。
…………………………ハア?
「い、異世界って意味、分かるのか?」
「当たり前だろう。この世界の名はマリスユーヌ。昔の言葉で異世界を紡ぐ場所。昔から異世界からいろんな者達が来る。そして俺と、兄貴はそんな異世界人の保護を先祖代々請け負ってきているんだ」
そ、そ、そんなこと、あるのか?
本当に僕たちは異世界に来て。
本当に僕たちは異世界人を保護する人に会った。
そんなこと…
「だから言ったじゃない。いろんな人とお話して情報を得ることは大切だって」
ふと、声のした方を見ると、満莉愛が未だ右半身が機能しないレンを自分を支えにして、立たせていた。
「ね?」
満莉愛はにっこりと笑った。
やっぱり、適わないんだよなぁ。こいつには。
こうして僕たちはなんとか和解した。未だに腑に落ちないけど。