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雪のしずく

作者:


真白い世界の中に、少女は居ました。

真白い世界の中、黒いワンピースを着た少女はわんわん泣いていました。

真白い世界に小さな少女は独りぼっち。

黒髪の少女の前には、巨大な湖。

水面を覗きこむと、そこには何かの残骸や瓦礫が沈んでいます。

まん丸大きな白銀の月が、黒い少女を照らしています。

ふと、真白い世界に雪がしんしんと降りだしました。

しかし、黒い少女は構わずに泣き続けます。

涙が枯れ果てるまで、わんわんわんわん泣き続けます。


やがて、黒い少女は降り積もった雪にそっと体を預けます。

泣き疲れたのか、襲ってきた睡魔に身を任せて重い瞼を閉じました。

瞼を閉じたと同時に、大きな悲しみが黒い少女を覆いました。

我慢できなかったのか、閉じられた瞼は再び開かれてしまいます。

その瞳から、枯れ果てたはずの涙が一筋流れ落ちました。


黒い少女は横たわったまま、湖を見つめます。

何かの残骸や瓦礫の姿が、悲哀を醸し出していました。

黒い少女はそれらの姿に自身を重ね合わせ、声を漏らさず静かに泣きました。

涙は留まる事を知らないかのように、とめどなくその瞳から溢れだします。

黒い少女は泣きながら、考えます。

どうしてこんなにも悲しいのか。

考えても考えても、答えは見つかりません。

答えが見つからないまま、心が満たされないまま、黒い少女は独りで泣き続けます。


ふと、黒い少女は気付きます。

湖の水面に映るモノが残骸や瓦礫だけでないことに。

真白い世界を照らす白銀の月も、湖の水面に投影されています。

しかし、そこに映されているのは輝くような金色の月。

そして、黒い少女が横たわっているはずの場所に黒い少女はいません。

そこには、白いワンピースを着た白髪の小さな少女。

可憐に微笑む白い少女は、ただそこに立っていました。

泣いている黒い少女を、白い少女はただただ優しく見つめています。

白い少女は微笑みながら、黒い少女に向かって両手を広げます。

その微笑みからは、触れてしまえば弾けて消えてしまいそうな、儚さが漂っていました。

脆く儚い雰囲気を醸し出しながらも、白い少女は微笑み両手を広げています。

黒い少女は無意識に、右手を湖に向けて伸ばします。

小刻みに震えながら、それでも真っ直ぐに白い少女に向けられる小さな手。

白い少女はその震える手に、そっと両手を添えました。

震えは徐々に治まって、黒い少女に小さな温もりを与えます。

白い少女は黒い少女の手を優しく握り、ゆっくりと引っ張りました。

されるがままに黒い少女は、湖へ引っ張られていきます。


黒い少女の目の前には、彼女の手を握り締める白い少女が立っていました。

優しく可憐に微笑んで、白い少女は目の前に横たわる黒い少女を小さな両手で抱きしめました。

先程よりも大きな温もりが、黒い少女を包み込みます。

白い少女は、黒い少女の瞳に溢れる涙をそっと拭いました。

その仕草に、その微笑みに、黒い少女の瞳から一粒の涙が零れ落ちました。

しかしそれ以上、涙が溢れてくる事はありません。

黒い少女は小さく淡い微笑みを浮かべて、白い少女を見つめます。

白い少女は立ち上がり、黒い少女に手を伸ばします。

黒い少女は、躊躇わずその手を取って立ち上がります。

黒い少女はもう悲しくなどありませんでした。


真黒い世界の中に、黒い少女と白い少女が居ました。

真黒い世界で、黒い少女は淡く白い少女は可憐に微笑んでいました。

黒い少女は、もう独りではありませんでした。

二人の少女の前には、巨大な湖。

水面を覗きこむと、そこには真白い世界がありました。

真白い世界にはしんしんと雪が降り、寒々しさを感じさせます。

真黒い世界では、まん丸大きな金色の月が二人の少女を照らしています。


黒い少女はもう悲しくありません。

黒い少女はもう独りではありません。

黒い少女の空っぽだった心は十分に満たされました。

黒い少女は白い少女に向けて、淡く微笑みました。

「ありがとう」

二人の少女は手を繋いだまま、真黒い世界へ消えていきます。

リンと小さな鈴の音が真黒い世界に響きました。


黒い少女の消えた真白い世界の湖の前に、小さな花が咲いています。

誰もいない真白い世界に、凛と咲き誇る一輪の花。

しんしんと雪の降り続ける真白い世界で、淡く自己主張する純白の花。

真白い世界の中で可憐な一輪の純白の花が、白銀の月に照らされて淡く輝いています。



――「スノードロップ」


 花言葉は……「希望」――




初めての童話作品です。

童話といっていいのかはわかりませんが。

冬の花「スノードロップ」をモチーフにしました。

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