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2004年 冬
彼女と初めて出会ったのは夕方の公園で、「寒くないの?」と訊いた覚えがある。
私達のいた公園はともかく、街中には赤色の帽子を被ったおじさんや、トナカイのイルミネーションが目立つ時期だった。なのに彼女は半袖のワイシャツとスカートを履いているだけで、酷く寒そうな格好だったから。
反応がなかったので、もう一度訊き直した。寒くないの?
「別に」
そっけない反応をされて悲しくなって、――それだけが原因じゃないんだけど、泣いてしまった。私と同年代にしか見えない彼女は、この重たいランドセルを背負っていない。それがとても羨ましくて、なのに何故か寂しかった。
彼女は私の姿を上から下まで確認して、どこかのトナカイみたいに鼻を赤くして泣いてる私を見て、それでも表情を変えずに言い放った。あなたこそ随分寒そうだけど、と。
それはきっと、私のボロボロの制服と、その原因を指していたのだと思う。当時十歳だった私は、寒そうだと例えられた、その意味すらも分かっていなかった。
――クラスメイト全員が、私は存在しないと言った。姿は見えないし、声は聞こえないと言って嗤った。いない人間の持ち物なんていらないのだと、ボロボロにした。
だから、彼女に話しかけた時、返事をしてもらえて嬉しかった。彼女には私の姿が見えているし、声も聞こえているんだって。けれどその反応があまりにも冷たくて、悲しくなった。やっぱり彼女にも、嫌われてしまうんじゃないかって。
「ともだち……」
泣きじゃくりながらもなんとか発した言葉に、彼女がぴくりと反応する。
あの時の彼女は、おもちゃ屋にいる人形のようだった。自分を買ってもらえるかどうか緊張していて、けれども表情は変えない、人形。
「わたしは、ともだちがほしい、だけなのに」
友達が欲しい。泣きじゃくりながら、なんとか呟いたその一言。
あの日の私はきっと、彼女にそれを伝えるため、そこにいた。
「――――なってあげようか?」
彼女は笑わない。けれど、嗤うことも、なかった。
「……え?」
「トモダチ、がほしいのなら」
友達が、欲しい。
「五百円くれたら、あたしがあなたのトモダチになってあげる」
あの時の彼女が欲しかったのはきっと、その一言だった。




