第6話 村にて(1)
久しぶりの投稿
村の手前、100メートル程離れたところで降りる。そのまま飛んでいってもよかったのだが、旅をしているということを装わなければならないからだ。
マジックポーチは便利だが、こちらの世界の人が持っているとは限らない。軽装で行って怪しまれるより、それなりに荷物を用意するべきだろう。
そう判断し、倉庫からリュックを取り出す。その中に戦利品であるドロップアイテムを入れた袋を詰め込む。ついでに着替えとして、最初に来ていたシャツとスカート(なぜか下着を含め何枚もあった)を入れる。剣をしっかりと左腰に固定し、体の前にナイフを装備する。右腰にポーチを着け、リュックを背負う段になって、ふと気付く。
「羽があったか……」
どういう原理か知らないけれど、服を透過して羽が出ているのだ。リュックまで出来るかどうかは、分からない。下手して羽を痛めたら、飛ぶことが出来なくなるかもしれない。
「あの感覚は、癖になるからな」
いろいろ試したのだが、ほぼ思い通りに飛べるのだ。急上昇、急下降、宙返りに、錐もみ飛行なんでも出来た。風を使って飛ぶせいか、風の幕みたいなものが体の周りに出来、風を切るという感覚はないものの、雨に濡れたり、虫などが体にぶつかったり、ということがないのである。
「……試してみるか」
リュックの代わりになりそうなものはない、あったとしても、詰め替えるのは少し面倒だ。
透過しろと思いながらリュックを羽に近づける。すると、思いが通じたのか、羽がリュックを透過して出てきた。
「むう? 不思議だ。普通に触れるのに……」
後になって出来た神人の知り合いによると、この現象は透過の術と言い、神人や獣人が本能的に使える術だということだ。逆に知らないことに驚かれた。
問題が解決したため、リュックを背負い改めて村の方に歩いてゆく。
村に近づくにつれて、日本の村とまるで違うことが分かる。
まず簡単な木の柵に、村と畑などが囲まれている。その柵の周りに、簡単な堀が掘ってあった。鑑定モードで見れば、柵には魔物除けの結界が張られているのが分かる。外観の見た目的には、戦国時代の堺の町に似ているだろう。ただし、門のところに見張り台などはなく、門は開け放たれているが。
急ぐ理由もなかったため、ゆっくりと村の入り口まで歩く。
堀にかかった簡単な橋を渡り、長めの棒を立てただけの簡単な門をくぐり村の中に入り、辺りを見回して村の全容を確認する。
街道をそのままメインストリートとして利用しており、いくつかの家が道沿いに建っている。いくつもの横道があるが、そのほとんどが、農地につながっており、パラパラと家が建っている。なんというか、町と村がごっちゃになったような感じだ。
まだ日が高いせいか、道を歩いている人はまばらで、奥にある農地の方から人の声が聞こえる。
「とりあえず宿屋か? いや、その前にお金をどうするか……」
切実な問題の一つだ。
ゲームで使っていたお金は、金貨、銀貨、銅貨の三種類だった。試しに金貨を出したが、ここで使えるのかどうかも分からない。道具屋にドロップアイテムを売るという手もあるが、買い取りをやっているか定かではない。
「まずは、場所を聞くか」
ちょうど、こちらに歩いて来る老人の姿が目にとまったので、その人に聞こうとこちらから歩み寄る。
「あの……」
「ここは、ワルタの村です」
「そうですか。それで……」
「ここは、ワルタの村です」
「いえ、あの……」
「ここは、ワルタの村です」
「……」
壊れた機械のように、同じことを繰り返す第一村人。つーかRPGか? こんなむだなところでRPGなのか?
「ボケてんのか? 糞爺」
「なんじゃと、このアマ」
どうやらボケてはいないようだ。
「チッ。ばれてしまってはしょうがないのう。なにが訊きたいんじゃ、嬢ちゃん」
どうやら遊ばれていたらしい。舌打ちまでしなくてもいいと思うが。
「えーと、この村に、宿屋はありますか?」
「宿屋か? あるぞい。この道沿いに少し行ったところにある。青い屋根じゃし、ギルドの隣じゃからわかるじゃろ」
あるのか、よかった。
「……ギルド?」
「なんじゃ。珍しい物でもなかろう」
「冒険者ギルドのことですよね?」
「そうじゃが」
なにを言っているんだという目で見る老人を無視して、考える。
冒険者ギルドがゲームや漫画、小説と同じような組織なら、ドロップアイテムの買い取りをやってくれるはず、さらに登録することが出来れば、これからの旅が有利になるかもしれない。
「おい、どうした? 嬢ちゃん」
「いえ、ありがとうございました」
老人に礼を言って、その場を後にする。
当面の目標は、青い屋根の宿屋の隣にあるギルドだ。
場所はすぐに見つかった。青い屋根の建物は、それしかなかったからあっさりと見つかり、隣にあるギルドも分かった。
「まずは、ギルド」
看板に、『冒険者ギルド・ワルタ支部』の文字と、シンボルマークなのか、盾のなかに獅子の横顔が書かれてあるマークが書かれていた。
扉を開けて入ってみると、中はそう広くなく、奥にカウンターがあった。
「ん? 新顔だな。何か用か?」
カウンターに座って、煙草をふかしている大柄な男が訪ねて来る。カウンターに置かれたジョッキの中身は酒だろう。
「ほう、神人か。珍しいな」
なんとなく横柄な態度に、ちょっとムッとしたが、当初の予定通りにすることにした。
「ドロップアイテムの買い取りってやっています?」
「ん? ああ、やっているが、何かあるのか?」
尋ねる男の前に、ドロップ品の入った袋を置く。
「確認するから、座ってろ」
そう言い、男が袋の中を確認し始める。
その間やることがないので、大人しく椅子にすわり、周りを見渡す。
広くない空間に、テーブルとイスがセットで何脚かあるだけ、掃除は行き届いているのか、ほこり一つ落ちていない。目の前で、何かつぶやきながら頭をかき、鑑定している男がやっているのだろうか? だとしたらものすごくシュールな光景になるな……
「ふあ~あ」
今日もギルドは開店休業。客の一人も来やしねえ。
まじめな女性従業員は、『お客様に気持ち良くいてもらおう』と言って、毎日のように掃除をしているが、おそらく無駄だろう。
客が来ないことは、平和であるんだからいいことなんだが、暇なのはいただけない。王都勤務の奴らは、楽な仕事だと言うが、なにもしないっていうのは結構苦痛だ。
「ふあ~あ」
もう一つあくびをして、エールが入ったジョッキに手を伸ばしかけたところで、カランと言う音とともに、一人の子どもが入ってきた。
「ん? 新顔だな。何か用か?」
入ってきた子どもの背中には、大きな羽が付いていた。
「ほう、神人か。珍しいな」
本当に珍しい。神人は、あまり外界のことに興味がない奴が多く、ほとんど里から出てこないのだ。ましてや子どもなんて、珍しすぎる。
近づいてくるにつれて、その容姿が明らかになる。
一言でいえば、可愛いだろう。ストレートの銀色の髪、大きめのスミレ色の瞳を含む顔のパーツが、バランス良く収まっている。低身長がさらにそれを強めている。うちの可愛いもの好きの女性従業員が好きそうな容姿だ。
「ドロップアイテムの買い取りってやっています」
鈴を鳴らしたような声でそう訊いてくる。
ん? 冒険者カードの提示がないってことは、こいつ冒険者じゃないのか?
「ん? ああ、やっているが、何かあるのか?」
そう訊くと、カウンターの上に袋をのせる。
「確認するから、座ってろ」
袋の中身を見て、さらに驚く。
「灰色狼の毛皮だと、尻尾もありやがる。角兎の角に、大鼠の毛皮……」
角兎や大鼠ならともかく、灰色狼だと。この量からみて、群れを倒したということになるが、パーティーで挑むのが普通の灰色狼の群れに、一人で対峙して、一人で倒したと言うのか? 信じられん。
しかし、証拠の品がある以上認めざるを得んのだが……
「……?」
不思議そうにこっちを見る少女の顔を見ると、自信をなくす。
ようやく、ビリノアくんの容姿がちらりと出ました。
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