第4話 現状確認(3)
ビリノアくんは、石橋をたたいて渡るタイプですが、ちょっと抜けています。
「まず、なにが出来るか確認しないとな……」
一通り、レムリアさんから説明を受け、レムリアさんを送りだしたところ、画面で見ていたままのホームの居間に僕は立っていた。自分の作った物が、実体を持ってここに存在しているということがうれしくなり、全ての部屋を見て回った後のことである。
本当に何をしようか?
「よし、決めた」
まずは、職業である鍛冶師の能力が使えるか試そう。
そう思い立ち、作業着に着替え、鍛冶場の方に向かう。
向かう途中で、レムリアさんから聞いたことが頭に思い浮かぶ。
「まず、ゲームとの違いは、スキルと言う物がないことです」
「スキルが……ない?」
「はい、セットすれば使えると言う、簡単なものはありません」
スキルがないとすれば、自分が苦労したあの時間は何だったんだとビリノアは思った。
「その為、スキルを経験として、貴女の頭と体に覚えこませてあります」
「え?」
「こちらで勝手に取捨択一はさせてもらいましたが、問題はないはずです」
鍛冶場に入るとまず目につくのが、炉だ。最新式の温度調節機能付きの火晶石式だ。
鍛冶場とともに、課金アイテムとして買ったものだ。これにより、わざわざ込み合っていた公営の鍛冶場で作業しなくても済むようになったのだ。
まずは剣でも作ろうかな。そう思い、材料が置いてある棚に向かう。
「鉄は……あるな」
大量の鉄があるのを確認する。ついでにほかに何があるかを、確認する。
「黒石鋼、赤石鋼……六色鉱石鋼は全部……ミスリル、ダイヤ原石、少量だけど神鉄まであるのか……」
確認を終え、必要な分だけ鉄を持って、炉の前に行く。
すでに炉の温度は良いくらいであった。道具を用意して、まず、手順を確認する。
「鋳造より、鍛鉄にするか」
手順は頭に浮かんでいる。問題は、体が動くかだ。
「やるとするか」
結論から言おう。作ることには成功した。
「……ちょっと作りすぎたかな?」
作る前に感じた不安は、杞憂だったらしく、すいすいと体が動き、すぐに剣が出来た。それなりの手順は踏んだものの、簡単に出来たため、調子に乗った僕は、次々と武器を思いつくままに作っていった。
その数、剣・6本、槍・2本、弓・2本(矢・100本)、ナイフ・12本、戦斧・1本、大鎌・1本の計24個。
「どれもいい出来だと思うけど……」
スキル『鑑定』の代わりなのか、意識してみると、剣のステータスが見える。が、比較対象の物がないため、よくわからない。
「まあ、いいや。寝よう」
武器をまとめて持ち上げ、倉庫に保管して、寝室へと向かった。
この時、僕は自分の体の異常に気付くべきだったのかもしれない。鉄製の武器を、まとめて持ち上げられたと言う異常に……
明けて、二日目。
僕は、居間で剣を振るっている。レムリアさんから聞いた話によると、ゲームと同じようにこの世界にも魔物が存在しており、人を襲ったりしているというのだ。
治安もそうよくはないため、積極的に使おうとは思わないが、最低限火の粉が払えるぐらいの力は持っておきたい。
そう思い、武器と魔法がどれだけ使えるかを確かめることにした。
まず武器をと思い、剣を取り出してきて、素振りを始めた。
振り始めた時は、どこか違和感があったが、2本、3本と振って行くうちに、その違和感がどんどん消えていった。そして、100振らないうちに、自由自在に剣が振れるようになった。他の武器も試してみたところ、同じように簡単に振れた。
「おかしい。武器ってこんなに簡単に使うことが出来るのか?」
使ったこともないような物を、自在に操るなんて出来るものなのだろうか?
「……考えても分からないな。使えるならよしとするか」
楽観的思考でそう考え、武器を倉庫にしまう。
次は魔法だ。
「おかしい、明らかにおかしい」
そうつぶやく僕の周りには、八つの球体が飛んでいる。火、水、風、土、雷、氷、光、闇の8種だ。この球は属性球と言って、魔法の初歩で、出すことの出来た属性が使えるというものである。
確かにレムリア・オンラインで僕は、全ての魔法をマスターした。『魔法知識』によれば、この世界でも複数の魔法が使える人は、かなりいるらしい。しかし、ゲームの方でもそうだったが、同時に2種の魔法は使えないということになっているはずだ。
「なのになんで?」
初めは、順番に一つ出しては消し、一つ出しては消しを続けていたが、ふと、いっぺんに出せないかと思ったのだ。無理だと思ってやってみたところ、あっさりと8個の属性球が出たというわけだ。
「もしかして、これはチートと言うやつか?」
ネット小説などでよく見かける、転生チート。それが僕にもおきているとしたら……
「そういえば、武器の重さをあんまり感じなかった」
ひきこもり気味であったとはいえ、体は鍛えてあった方なので軽く感じるのかなと思っていた。
しかし、今僕の体は女の子の体。昨日、風呂に入る際きっちり確かめたから、間違いはない。多少なりとも鍛えてあった体ではなく、どこもかしこも柔らかかった体で、鉄製の武器を軽々と振りまわしていたのだ。異常としか言いようがない。
ふと、レムリアさんが言っていた言葉を思い出す。
『体の方は、私が作りました。久々の会心の出来です』
『私の持つすべてを詰め込んだ最高傑作』
文字通り、詰め込みすぎです。レムリアさん……
さて、出来ることと、出来ないことを確認しようと思っていたんだが、現状個人的な所に関しては何でも出来るような気がする。
神官の回復魔法は、魔術師の魔法とほぼ同じため、出来るであろう。確かめるために怪我をするのはバカらしい。
錬金術-金を作り出すのではなく、金属を練り合わせるという物―は、レシピ自体は頭の中にあり、それに沿ってやるだけだ。鍛冶と同じようなものなので、出来ると判断してもいいだろう。
詩人は、試してみたが、ほぼすべての楽器が弾けるようになっており、それに合わせて、歌の方も上手く歌えるようになっていた。呪歌の方も、効果が発揮したことも確認している。
弓使いは、さっきの武器練習の時に確認済みだ。
では、出来ないこととは何か。
まず、戦士の技スキル。当たり前と言ったら当たり前である。戦闘を有利に運ぶために重宝したスキルなのだが、現実に置いて、2段突きで一撃一撃の攻撃力が上がるはずがない。自由自在に振れるのなら、自由に技を作ってしまえばいいことだ。同じことは、弓使いにも言える。
次に、魔法の技スキルだ。魔法と言う物は、想像力が物を言う物であって、イメージすることが出来るなら、どんなことでも出来うるのだ。故に、こまごまとした技など必要なく、イメージして、発動キーを口に出せばいいのだ。神官の方も同じだ。
メニューもほとんど使えなくなっている。システム、チャット、メールは完全に消えており、ワールドマップは、白地図と化しており、役に立たない。ステータスからは、HP及びTP、経験値が消えている。アイテム欄は問題なく使えた。
他にも細かく使えなくなった物はあるが、特に困るような物が使えなくなったということはない。
スキルなんか使わなくても出来るようなやつが消えただけだ。特に問題ないだろう。
そう結論付けた僕は、もう良い時間だったので、寝室に引き上げることにした。
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