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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【番外編】 before episode 1
88/92

side Daichi - Christmas Special

本編の数年前、大地視点のビフォア・ストーリーです。

オレは両腕を上に揚げ、伸びをした。

年の瀬の夕方。オフィスは、もう人もまばらだ。


目の前のでっかいディスプレイには、アルファベットと数字が並んでいる。

3日ほど前、オレが組んでいるプログラムに、バグが発見された。

昨日の夜、その原因をようやく探し当て、今、修正が完了したところ。


「お疲れ」

背後から、声がした。

振り向くと、正紀が立っていた。マフラーを首に巻き、コートもしっかり羽織っている。

帰宅準備万端って感じだな。

「あれ? 正紀。今日は早えんだな」

ちらりと時計を確認してみた。未だ18時。

いつもなら、もっと遅くまで仕事してんのに。

オレの方が先に帰ることの方が多いし。

「今日はイブだからね。紗織と約束があるんだ」

「あー……そーだっけ」

そう言えば、そうだった気がする。

腕時計の日付を確認した。

うん、確かに『24』ってなってる。


そっか、今日、クリスマス・イブか。

どうりで。

街を歩けば、やたらと明るい曲ばっかり流れてて、イルミネーションが木々を飾ってて。

クリスマスツリーやサンタクロースのオブジェが至る所に置かれ、デパートや小売店ではクリスマス商戦とやらが繰り広げられてて。

おまけに今日は金曜日。

そりゃあ、恋人のいるヤツらは早く帰りたいに違いねーわ。


「浅倉は?」

「別に」オレは視線をパソコンに戻した。「いつもと同じ。キリついたら家帰って、飯食って、フロ入って、寝る」


正紀のため息が、背中越しに聞こえてきた。

「永野さんでも誘って、飲みに行けば?」

「うっせー」

それができんなら、とっくにそーしてる。

できねーから、苦労してんじゃねーか。

「せっかくのクリスマスなんだし」

正紀め、未だ言うか。

「いーんだよ。さっきバグ修正がいったん終わったトコだから、今からテストしなきゃなんねーし。

 それに、クリスマスってのは、サンタクロースが子供んトコにプレゼント配るイベントなの。家族で過ごす日なの。だから、恋人たちのための日じゃねーし、大人にはカンケーねーの!」

「はいはい」

正紀は苦笑いしながら帰っていった。

あんまり遅くなるなよ、と言い残して。


正紀の言葉をありがたく受け取ることにして、オレはなんとか19時半でキリをつけた。

開発フロアを出て、エレベータで1階まで降りる。

ドアが開いたところで、見覚えのある人影を見つけた。

オレがコイツを見間違えるワケねー。

永野香蓮。

オレの想い人。

3年近くも片想いしてるオレもオレなんだけど。


永野と目が合った。

「あ、浅倉。今帰り?」

永野の方から話しかけて来た。ちょっと嬉しい。

「ん? おぉ」

「ねぇ、今から暇?」

そーゆー言い方されると、期待しちまう……。

「あぁ、どーせ家帰るだけだし」

「じゃあさ、これからどっか、ゴハン食べに行かない?」

思いもよらない永野の言葉に、オレは一瞬耳を疑った。

多分、永野のこの誘いは、男が一般的に期待するようなモノじゃない。

それはわかってる。

でも、オレにとっては、イブの日に永野と一緒にプライベートな時間を過ごすってだけで、それ以上の価値があるんだ。

ふつふつと嬉しさが込み上げてくる。

「真由子とゴハン行くって約束だったのに、彼氏ができたからってドタキャンされちゃって。あーあ。女の友情より、彼氏の方がいいのかなぁ?」

と永野は肩を竦めた。

武田、ナイス!

やばい、マジで嬉しい。

オレはだらしなく緩みそうな頬をなんとか持ち堪えさせ、ニヤリと笑った。

「いいねー、シングルベルの会ってヤツ?」

「シングルベル? 何それ、あはは」

永野が全身で笑う。

背中で束ねられた長い髪がその動きに合わせて舞った。

「オレたち、独り者同士だからな。『シングル』ベル」

オレも笑った。

永野の笑顔が可愛い。

こうやって、いつも隣同士で笑い合えたら。

オレはそれだけで幸せなんだけど。

「お前、何食いたい?」

永野に聞きながら、オレは歩き出すよう促した。

「そーだなー、やっぱりクリスマスだし、シチメンチョウとか?」

「そんなメニューある店、知らねーよ」

「えー」

「じゃあ、お前は知ってんのかよ?」

「ん? ……。えっと、じゃあ……」

「あーお前、今、話逸らせただろ?」

オレと永野、肩を並べて歩き始める。



  ――もしかしたら

  サンタクロースは

  本当にいるのかもしれない


  そして、人知れずこっそり

  プレゼントを配っているのかもしれない


  オレが今日

  そのプレゼントを受け取ったように――



いつの日か、ちゃんとしたジングルベルを。

永野と2人で。

このエピソードはここで終わりとなります。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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