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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第14章 - 7/11
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side Karen - 39

えっと……2人残されちゃったんだけど、どうしたらいいかな。浅倉を窺い見ると、指で頬を掻いていた。

「ごめんね、浅倉。その辺に適当に座っててくれる?」

言いながら私はエプロンを身に付けた。翔はコンビニに行くって言ってたから、多分20分くらいで戻って来る。常備菜があるから、それで何か作れるかな。夕食も食べてるから、そんなにたくさんは要らないだろうし。

「いや、手伝う。なんか悪ぃし」

浅倉が台所の中に入ってきた。

「じゃあ、これ解凍してくれる? それと、ジャガイモ洗って、皮剥いて?」

私はジャガイモを3つと、買い置きしていた枝豆を冷凍庫から出して、ボウルやピーラーと一緒に浅倉に渡す。すぐに水音が聞こえてきた。早速作業してくれてるみたい。

その間に、私はマグロのさくを取り出すと、適当な大きさにブツ切りにして、わさびを溶いた醤油に漬ける。次にアボガドを半分に切って種を取り、ダイス状に切れ目を入れた。

「永野、このジャガイモどうするんだ?」

浅倉が私に声をかける。

「あ、ありがと。そっちは私やるよ。今度はこっちお願いしてもいい? このアボガドをスプーンで皮から剥がして、こっちのマグロと和えるの」

「ん、わかった」

浅倉から受け取ったジャガイモを1センチ程度の厚さにスライスしてラップで包み、電子レンジにかける。そして戸棚を開けると、ストックしてあるはずのシーチキンとコーンの缶詰を探した。

「なぁ、永野」

浅倉の声がした。

「んー?」

えーっと、確か、この戸棚の一番上の段に置いたはずなんだけど。あれ? ないなぁ。

「さっき言いそびれたんだけどさ」

「何を?」

あ、あれかな? いっちばん奥にある。背伸びしたら、手届くかしら?

「……オレも、お前のこと、好きなんだよね」

「へぇ、そうなんだ。偶然ね」

あ、取れた取れた。よかった――ん? 今、浅倉、何か言ったような。

振り返った。マグロとアボガドのわさび醤油和えはとっくにできていたらしい。浅倉はシンクにもたれかかるようにして立っていた。私と目が合うと、浅倉はいつもの悪戯っぽい笑みを作った。

「何?」

「今この状況で、それを聞くか、お前は?」

そのままの表情で浅倉が近づいてくる。それを見ながら、私はさっき聞き流してしまった浅倉のことばを思い出そうとした。

でも、なんか、近づいてくる浅倉のことが気になって、無理……。

浅倉が私のすぐ目の前で立ち止まった。

「ホント、お前に先に言われるとは思わなかった。つーか、こーいうことは男から言いたいもんだろ? だから、今度こそオレから」浅倉はここでいったん言葉を切った。「永野、オレと、付き合ってくれるか?」

――え…っと。

私は何て言えばいいんだろう? 気持ちを伝えられたことで満足してたから、そこまで考えてなかったんだけど……。

とりあえず、こくん、と頷く。

次の瞬間、ものすごい力に取り込まれた。逞しい腕で抱き竦められたせいで、手に持っていた缶詰を落としそうになる。

「ちょっと、浅倉? 痛いって」

「お前ね……こーいうときくらい、もうちょっと色気出せねぇの?」

浅倉の不満気な声が頭の上から聞こえてくる。もう一度、浅倉の腕に力が入り、頭のてっぺんに何かが触れた。

そのとき、玄関の開く音が聞こえてきた。一緒に話し声も。翔とリカちゃんが帰ってきたんだ。一瞬遅れて浅倉の腕が解け、何事もなかったかのように私から離れた。

――今、何が起こったの?

ピー! ピー! ピー!

突然の高い音に我に返った。電子レンジでジャガイモが茹で上がった音だ。

そうだった、今、料理の途中だったんだっけ。

リビングに翔とリカちゃんが入ってきた。浅倉が重そうに袋を下げているリカちゃんの方へ行く。

私は茹で上がったジャガイモを耐熱皿に並べながら今起こったことを思い返した。

――うわぁ! 今更だけど超恥ずかしい……。

できるだけ、さっきのことを考えないようにしながら手を動かす。そこへ、翔が買ってきたお酒を冷蔵庫に入れにやってきた。

「香蓮、未だ何か作ってんのか?」

「うん、あと少し。先に始めてて」

「わかった。んじゃ、この枝豆とアボガドのやつ持ってくぞ」

「うん」

私は首だけ回すと翔の差すお皿を一瞬確認して頷いた。その私の顔を見て、翔が意味深な笑みを浮かべた。

「いいことあったみたいだな」

小声でそう言い残して、翔はお皿を手にリビングの方へと行ってしまう。

一瞬遅れてその意味を理解した私は、恥ずかしさを紛らわすように作業に没頭することにした。コーンとツナをマヨネーズで和えて、ジャガイモの上に乗せて、塩コショウ振って、チーズを掛けて、と。後はオーブントースターで焼けば終りね。

耐熱皿をオーブントースターに入れるのを見計らってたかのように、リビングから翔の声がかかった。

「香蓮、早く来いって」

「うん、今行く」

ジャガイモは焼けてから取りに来ればいいか。

エプロンを外して、リビングへ向かう。

私のために空けられていたのは、キッチンに一番近い席、そして浅倉の隣だった。身体を滑り込ませて座る。

テーブルの上は、買ってきたポテトチップスやスルメ、私と浅倉で作ったもの、缶ビール、何だかわからない瓶(多分お酒ね)、グラス、氷、そんな類のものでいっぱいだ。

「浅倉さん、結構イケる口っすねー」

翔が浅倉にそんな話をしてる。リカちゃんが浅倉にお酒を注いでいた。

確かに浅倉は顔色一つ変わってない。手元のグラスに入った無色透明な液体は、残り半分くらいだ。そういえば、さっき食事してたときにはワインも飲んでたよね? ホント強いなぁ。羨ましい。

私も何か飲もう。翔の前辺りにカフェオレがあるのが見えた。

「これもらうね」

私はそう言ってグラスを取り、口に運ぶ。

「あっ!」

誰かの声が聞こえた。次の瞬間、グラスから漂う酒気に私は激しく咽せた。翔が呆れ顔で呟く。

「香蓮、バカ……」

「何これ?」

私は息を落ち着かせながら、テーブルにグラスを置いた。そのグラスを取って、リカちゃんが心配そうに私を窺う。

「カルーア・ミルクです。お酒なんですけど……」

お酒? そうか、リカちゃんは私がお酒弱いの知ってるんだっけ。

「大丈夫か?」

浅倉も心配そうに私の方を見る。

「うん、飲んではないから」

息を落ち着かせてそう言った。一口分も飲んでないのに、言ってる側から体温が上がっていくのがわかる。あぁ、ホント私、お酒弱いなぁ。

「同じこと何度もやるなよ……」

翔がよこしてくれた水を飲んで、私は笑顔を見せた。

「ごめん。もう大丈夫だよー」

なんとなく楽しい気分になってきた。

あぁ、ほろ酔いってこんな気分なのかも。

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