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不器用な片想い  作者: 長月マコト
【本編】 第1章 - 5/24
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side Karen - 3

「あ、そうだ。浅倉、永野さん、ちょっといい?」

鈴木さんが呼んだ。

「なんっスか?」

浅倉が立ちあがり、右手に持ったラケットを使ってそのまま肩を叩くようにしながら、鈴木さんのもとへ歩む。

私も急いでその後に続いた。


テニスコートの敷地内、座っていたベンチから少し離れた木陰で、鈴木さんは私たちを振り返った。

「ちょっと2人にお願いがあるんだ」

「何ですか? 私でできることなら、もちろんやりますよ」

私の言葉に、鈴木さんはにっこりと笑った。

「永野さんになら安心して任せられるよ。実は、来月の披露宴でさ、浅倉と永野さんに受付を頼みたいって話なんだ。いいかな?」

「もちろんいいですよ」

私は即答した。

「オレもいいですよ。来るのって会社の人たちばっかりなんですよね?」

「ああ。あとは、俺と志保の学生時代の友達が少し参加するかな。まぁ、ほとんどの人はわかると思う。もちろん、参加者名簿も作るし。じゃあ、2人とも了解ってことでいい?」

「ええ」

「さんきゅー。助かるよ。よろしく頼むな」


「英児? 何してるの、こんなところで?」

不意に鈴の音のような声がした。

ちょっと離れたフェンスの向こうには、正真正銘のたおやかな女性。

小首を傾げ、大きな瞳で不思議そうにこちらを見ている。

「あ、志保」

鈴木さんの表情が、これ以上ないくらいに綻んだ。

当り前だよね。

そこにいたのは、鈴木さんのフィアンセ、豊田志保さんなんだから。

鈴木さんが小走りでフェンスの方へと向かう。

「いや、浅倉と永野さんに、俺たちの披露宴の受付をお願いしてたんだ」

「そうだったの」

豊田さんがふんわり笑った。まるでバラの花が咲いたみたいだ。

豊田さんが結婚するって聞いて、涙を流した男性社員は多かっただろうなぁ。

「どうした? わざわざここまで来たってことは、何か用があるんだろう?」

「あのね、ちょうどその披露宴の件で、会場の人が私たちと直接話がしたいって言ってるの。今から大丈夫?」

フェンスを挟んで会話する2人。

それが、とっても絵になる、様になる。

見ているだけで、お互いがお互いを想い合っているのが伝わってくる。

美男美女カップルで、愛し合っていて。

やっぱり憧れるなぁ。

いくら男前な私でも、素敵な恋人たちに『憧れ』くらいは持つ。

「――永野? おい、永野。行くぞ?」

「え? あ、ごめん。ぼーっとしてた」

正直言うと、見惚れてた。

だって、あまりにもお似合いなんだもん、鈴木さんと豊田さん。

何て言うか、何者も割って入れないくらいに。

「鈴木さん、オレたち行きますねー」

浅倉が鈴木さんに向かって声をかけた。

「あぁ。それじゃあ、さっきの件頼むな」

呼びかける鈴木さんに、浅倉が片手を上げて挨拶する。


真由子と河合君は、未ださっきのベンチに座っていた。

何の話をしてるのか、笑い声が聞こえてくる。

20メートル程先。浅倉と肩を並べて歩き始めた。

いや、並ばないんだよね、肩。浅倉って大きいから。

私の目線と同じ高さに、浅倉の肩がある。

170センチの私の目線が浅倉の肩だよ? いったい身長いくつあるんだろ?

「「あのさ」」

浅倉と私、声を同時に発してしまった。

「ごめん、何?」

せっかく私が譲ったのに、浅倉ときたら

「いいよ、オレは。お前が先に言えよ」

だって。

「じゃあ遠慮なく。あのさ、浅倉って、身長いくつ?」

「は?」

「身長。聞こえなかった? し・ん・ちょ・う」

浅倉は眉根を寄せ、左手で眉間を押さえた。

「ったく、お前は……」

「どうかした?」

私、そんなに変なこと聞いたっけ?

手に隠れてしまった浅倉の表情を見ようと、私は下から覗き込んでみた。

すると、浅倉の見下した目線とバッチリ合ってしまった。

何だ? 何か言いた気だ。

そう思った瞬間、私の視界は真っ暗になった。

「ふぇっ?」

びっくりし過ぎて、変な声が出てしまう。

「189」

浅倉の声がして、私の視界を遮っていたものが剥がれた。

一瞬目がくらんで、次第にはっきりと見えてくる。

あぁ、手で顔を覆われてたのか。

「189センチ? でかッ!」

「悪いか?」

「いや、私が見上げなきゃいけない人って少ないから、どれくらいあるんだろうって思っただけだよ。浅倉もさっき何か言いかけてたよね? 何だった?」

「……もういい」

浅倉は私を一瞥し、ベンチの方へ歩き出した。

何? なんか今、一瞬、睨まれた気がするんですけど。

「あ、そうだ」浅倉が立ち止って振り返る。「お前さ、女だって言い張るなら、ちょっとは化粧ぐらいしろよ」

むかむかむかっ!

「うるさいなぁ、アンタには関係ないでしょっ!」

私は浅倉の背中を思いっきり引っ叩いてやった。

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